SPECIAL 2009
2009年2月12日 第7号 掲載
![]() 新任の挨拶をする猪田企友会新会長 |
![]() 講演中の大塚総領事 |
![]() 大昭和丸紅インターナショナル甘艸氏 |
企友会新春懇談会特別講演が、1月26日リステルバンクーバーで開かれた。講演会に先立ち行われた同会2009年度総会で、猪田雅公氏が新会長に就任し、「22年目を迎えた企友会の会長として、前任の吉武さんを継いで、より活発な活動とメンバーへのメリットを追求した内容を提供できるように頑張りたい」と抱負を語った。
続いて、在バンクーバー日本国総領事館大塚聖一総領事が「米国の安全保障戦略と日本―オバマ新政権の外交を占う―」と題して、バンクーバービジネス懇話会甘艸保之会長が「北米市場への思い入れ」と題して、それぞれ講演を行った。
ここに、講演内容を要約して紹介する。
「米国の安全保障戦略と日本」―オバマ新政権の外交を占う―
冷戦後の米国安保戦略
アメリカと旧ソ連との冷戦が終結した後、アメリカは世界の安定・安全と繁栄維持のために米国覇権の確立を目指した。1980年代共和党のレーガン政権は、経済力、軍事力を柱とした戦略を前面に押し出し、それは両ブッシュ政権へと引き継がれていった。特に軍事力では、核戦略における優位、同盟国への負担増、単独行動主義を柱に、軍事優位による一極支配政策を推し進めた。
核戦力における優位:米・旧ソ間で交わされた戦略兵器削減条約(START)や、五大国以外には核を持たせないという核保有に関する不平等条約の核拡散防止条約(NPT)に190カ国以上が署名するなどの体制をとってきた。
しかし、2002年1月「核態勢見直し(NPR)」の記事が掲載され、アメリカが核の先制使用を示唆していることが明らかになった。そこから、ジョージ・W・ブッシュ政権は、NPT体制の軽視、不拡散体制から「拡散対抗」へと移行し、核で世界を抑え込むという政策をとった。
同盟国への負担増要求:冷戦に勝利したアメリカが得た大きな収穫は、東西統一ドイツが北大西洋条約機構(NATO)に残留したこと、日米安保条約が再定義されたことで、ドイツや日本が西側についてポスト冷戦後の体制を担ってくれたことにある。
日米関係では、1997年「日米防衛協力の指針(新ガイドライン)」が成立し、仮想敵国への対応ではなく、極東に駐留しているアメリカ軍への支援という方向に変わった。ヨーロッパとの関係においては、アメリカが加盟しているNATOを重視し、今年中には加盟国が29カ国になるまで強化した。
クリントン政権からの外交の流れ
民主党クリントン政権が誕生した1993年、70年代から80年代に悪化したアメリカ経済の立て直しが期待され、最優先課題となった。外交面は民主党の国際協調主義と理想主義政策で対応した。ところが、第2期政権になると経済は好調になったものの、外交政策に変化が表れ始める。ケニア・タンザニア米国大使館爆破などのアメリカを狙ったテロが相次ぎ、共和党政権に近い現実主義的な外交へと変わっていった。
2001年に誕生した第1期ジョージ・W・ブッシュ政権は、当初外交政策については、前の第2期クリントン政権と変わらないと言われていた。しかし、2001年9月のアメリカ同時多発テロ発生を機に政策を極端に変更。アフガニスタン、イラクへと軍事進攻し、挑戦的な政策を取り続けた。第2期政権の外交は、この戦争への継続のみで、事実上は空白状態。軍事力優位、一極支配をさらに推し進める結果となった。この間アメリカ経済は大きく後退した。
オバマ政権の誕生と高まる期待感
2009年1月民主党オバマ政権が誕生した。オバマ大統領への期待は高く、特に経済の立て直しは最優先課題となっている。この点において、クリントン政権誕生時と状況はかなり似ている。
しかし、外交政策においては、クリントン、カーター元大統領が州知事時代の仲間を多く起用したのに対して、オバマ大統領の人事は非常に幅広いことが特徴。共和党ブッシュ政権とは180度転換するドラスティックな変化を打ち出している。
就任1週間で打ち出した外交政策は、イラクからの期限付き撤退、キューバ・グアンタナモ米軍基地内の対テロ戦収容所の閉鎖、環境問題重視、核軍縮などがある。核軍縮については、オバマ大統領、クリントン国務長官ともに、ミサイル防衛には消極的であることを表明しており、さらにNPT体制の見直し、旧ソ間との核軍縮条約を実行することを明言している。もし、これが実行されれば、アメリカが作り上げてきた世界の安全保障が根本的に変わるのではないかと思われるほど重要な出来事となる。
今後、オバマ政権の外交政策についての注目点は、国際社会の合意に基づいて政策を進めていけるか、環境問題では京都議定書に批准するのか、自国の犠牲を払っても核管理を徹底する核軍縮を進めていけるのか、イラクとの対話が実現するのかなどがあげられる。
当面は就任100日までの動きに関心が注がれる。
製紙における「北米市場への思い入れ」
甘艸会長は、大昭和丸紅インターナショナルで紙パルプ部門に25年間携わっている経験から、今後の製紙業界の見通しと、北米市場の可能性を紹介した。
紙の使用量と文化の関係
製紙用パルプから製造される紙は多種にわたり、現在、世界の紙・板紙総消費量は3億5千万から6千万トン、分布は大雑把に北米1億トン、ヨーロッパ1億トン、アジア1億トン強で、その他で残りとなっている。
10年前の総消費量は3億トンで、分布は、北米1億トン、ヨーロッパ1億トン、アジア・その他で1億トンとなっていた。アジアでは特に中国の消費が急増し、日本の消費量が3千万トンと約15年間変化がないのに対して、中国は2000年の3千万トンから、2008年には8千万トンと2.5倍増となった。
将来的には、10年以内に世界総消費量は4億トンに達すると見込んでいる。その理由は、アジア、南米、ロシアなどでこれから高い需要が見込まれるためである。
使用頻度の高い紙の種類は、段ボール、新聞用紙、印刷用紙の順で、国の経済発展の段階、文化の成熟度に応じて段ボール、新聞用紙、印刷用紙の順に増加していく。
紙の将来:紙は消滅するのか?
インターネットや電子媒体の普及により、紙が将来使われなくなるというイメージがある。事実、新聞用紙については、アメリカで10パーセント減、最盛期より3割も減少している。
ところが、印刷用紙の需要は変化していない。印刷用紙の中に、コーテッド・ペーパーという種類があり、雑誌やカタログなどの商業印刷、ビジュアルメディアに使われる代表的な紙である。
この種類は、文化が発展すれば使用料が増す印刷用紙で、1999年から2008年の間、先進国ではほぼ横ばいだが、東欧、中国、南米などの発展途上国では、全体的な数量は少ないものの、伸び率が高く、将来需要が期待できる分野である。
こうしたことを踏まえて、情報媒体として今後紙を使うのか、インターネットに移行するのか、発展途上国は紙を飛び越えてインターネットに移行するのかという問いに対して、明確な答えは誰も持っていない。しかし、個人的には、今後も我々は紙を必要とするのではないかと予想している。その理由の一つとして、物理的に人間の目は画面に100パーセント対応していない、画面を見続ければ目が疲れるという生理的な事実がある。
ビジネスとしての北米市場
基本的には北米は製紙市場として面白いと思っている。先進国で人口が毎年250万人くらい増加しているのは北米のみ。人口増加に伴い、印刷部数が増加するというのが、シンプルに市場拡大の大きな力になる。
1990年から5年半、マサチューセッツ州にある事業所の立て直しに携わった。経営状態はすでに手遅れで、結局事業は失敗してしまったが、この時の経験で、学習したこと、得たことも多かった。
今は、この時の経験を生かしてこの北米市場でもう一度セットアップをしたいと考えている。かつて日本の製紙業界が北米を原材料の供給基地としたようなかかわり方ではなく、北米市場に日本企業として、日本人として入り込みたいという思いを強く持っている。
人口が2百万から3百万人も増加するという市場は、製紙でなくても魅力があり、可能性がある。現在どの企業も苦戦しているが、見方を変えればチャレンジのしがいがある。
今年オバマ大統領に変わり、90年代民主党クリントン政権が誕生して立ち直っていったアメリカ経済をリアルタイムで体験しているものとして、今回のオバマ大統領の出現はデジャビュを体験しているよう。こうした歴史の大きな転換期に再び可能性の大きい北米でチャレンジしていける人間は幸せなのだと思う。
(取材 三島直美)