MAPLE 2009
2009年1月8日 第2号 掲載
 

大島渚の世界 〜日本映画の巨匠の肖像〜(1)


大島渚 プロフィール
 1932年京都市生まれ。京大法学部卒業後、松竹大船に入社。主に大庭秀雄に就く。助監督を経て「愛と希望の街」(59年)でデビュー。これはほとんど興行的には成功しなかったが、第2作「青春残酷物語」(60年)、「太陽の墓場」(60年)の成功で一躍松竹ヌーベル・バーグの旗手として注目を集める。この時代の大島映画の特徴として階級と疎外のテーマがあげられる。1961年、日米安全保障条約に反対する安保闘争を舞台にした作品「日本の夜と霧」(60年)を松竹が大島に無断で自主的に上映中止したことに抗議し同社を退社。その後、渡辺文雄、小松方正、宍戸六宏、妻の小山明子らと共に映画制作会社「創造社」を結成。1964年には演出したテレビドラマ「青春の深き淵より」で芸術祭賞を受賞。「白昼の通り魔」(66年)、「日本春歌考」(67年)、「絞死刑」(68年)、「帰ってきたヨッパライ」(68年)、「新宿泥棒日記(69年)、「少年」(70年)、「儀式」(71年)などでは松竹時代の共同体と疎外のテーマが、国家や民族の主題へと変化する。「夏の妹」(72年)を最後に「創造社」を解散した後は「愛のコリーダ」(76年)、「愛の亡霊」(78年)、「マックス・モン・アムール」(86年)のフランス資本の映画などに顕著に表れているように、共同体と疎外の関係性がセックスを媒体としたものに変わり、さらに疎外から共生への萌芽が見え始める。96年に脳出血で倒れた後、「御法度」(99年)で復帰を果たし、2001年にはフランス芸術文化勲章(オフィシエ)を受章するも、その後病状が悪化し監督業からは退いている。2008年にはテレビ番組で言語障害・右半身麻痺を克服するリハビリに励む姿が放映されている。

大島渚の映像美学
 ヌーベル・バーグの代表的映画作家、ジャン=リュック・ゴダールをして「一般の映画史では自らがヌーベル・バーグの始祖と見られているが、真の皮切りは大島渚の『青春残酷物語』であり、もし当時この作品が世界に紹介されていたら映画史は書き換えられていただろう」と言わしめた大島渚。その先鋭かつ前衛的な映像表現のスタイル、政治意識の大胆な描写は確かに「大島以前の日本映画と大島以降の日本映画」と言う言説を生み出す所以となった。しかしその作家人生を通して常に革新的であり、「今」であり続ける大島をもってして「大島以前・以降」と映画史的定義づけをすることは果たして可能であろうか?
 今回、パシフィック・シネマテークでは(1)松竹時代、(2)松竹退社から独立プロ「創造社」時代、(3)「創造社」解散から現在に至るまでという、大まかに3つの時代に区分される彼の活動を網羅する19作品を一挙に上映することによって、「大島という存在」を常に超え続け、人間存在と時代の深部を描くことに徹した彼の映像美学を検証する機会を与えてくれるだろう。

(取材 山岡諒子)


 

青春残酷物語(Cruel Story of Youth)

上映スケジュール
1月16日(金) 7:30pm
1月18日(日) 9:20pm

1960年/カラー/35ミリ/96分/英語字幕付
監督:大島渚
出演:桑野みゆき、川津祐介、久我美子、浜村純、氏家慎子他

Cruel Story of Youth
青春残酷物語(Courtesy Janus Films)

【作品解説】
大島の第2作目の作品。自らの脚本を監督。この映画で大島は「日本のヌーベル・バーグ」と騒がれるようになる。石原慎太郎の「太陽の季節」(56年)で弟の石原裕次郎がデビューして以来、数々の「太陽族映画」が封切られており、本作も「青春映画」の1つとして位置付けられがちだが、表層的・風俗的な他の映画とは異なり、単なる青春像の描写にとどまらずより切実な社会矛盾と人間存在を描き出すことに成功した傑作。

【あらすじ】
夜の街に遊びに出た後、見ず知らずの中年男に車で送ってもらう真琴。だがその男にホテルに連れ込まれそうになったところを大学生の清に助けてもらう。ひょんなことで知り合った2人は美人局として男たちからお金を巻き上げることを考え付く。欲望のままに行動する2人には残酷な結末が待ち受けていた。


少年(Boy)

上映スケジュール
1月16日(金) 9:20pm
1月17日(土) 7:15pm

1970年/カラー/35ミリ/105分/英語字幕付
監督:大島渚
出演:安部哲夫、木下剛志、渡辺文雄、小山明子他

Boy
少年(Courtesy Janus Films)

【作品解説】
この映画のモデルになっているのは1966年に大阪西成警察署に逮捕された、高知県出身の当り屋夫婦の事件。自動車の前に飛び出してわざと車にぶつかり法外な治療費や示談金を取る当り屋の存在は当時すでに珍しいことではなかったが、この夫婦の場合子供に当り役をやらせていたことや、全国各地を転々とし、計47件、被害総額百数十万円というきわめて悪質な犯罪であったことから社会的な関心を集めた。大島渚はこの事件に衝撃を受け、現代社会の希薄な家族関係を少年の姿を通して描き出している。
 日本映画の権威Donald Ritchie氏は、この映画を見て大島の最高傑作のひとつと評価している。

【あらすじ】
戦争で傷を負ったことを口実に職に就かない男と彼の先妻の息子(少年)。男の後妻との間に出来た子(チビ)。家族の絆が希薄な一家は当り屋で生計を立てている。一カ所で仕事を続けると足がつくという理由で、一家は次々と場所を変えて旅を続ける。少年は車の前に飛び出す恐怖と両親への抵抗から何度も逃げ出そうとするが、結局は逃げた後に味わう孤独に打ちのめされて家族の元に戻るしかなかった。そして一家は反目しあいながら、とうとうその先には海しかない北海道の最北端まで辿り着くのだが…。

 

日本の夜と霧(Night and Fog in Japan)

上映スケジュール
1月17日(土) 9:15pm
1月18日(日) 7:15pm

1960年/カラー/35ミリ/107分/英語字幕付
監督:大島渚
出演:渡辺文雄、桑野みゆき、津川雅彦、吉沢京夫、小山明子他

Night and Fog in Japan
日本の夜と霧(Courtesy Janus Films)

【作品解説】
松竹が4日で公開中止をしたことに腹を立てた大島が同社を辞める原因となった映画。この映画は60年安保当時の新旧世代の学生運動の闘士たちがお互いの過ちを糾弾しあうシーンを延々と描いているが、大島は1シーンを長回しのワンカットでとらえ、全編107分をわずか47カットで撮影している。これはまさにヌーベル・バーグの作家たちが当時賞賛していた撮影手法であり、溝口健二の長回しの撮影に影響を受けたゴダールを大島に結び付けようとする批評家がいるのもうなずけるのである。ちなみに大島自身は自分がヌーベル・バーグと位置づけされることを好んでいなかったようであり、確かに彼自身この手法にはいつまでも留まってはいなかった。「白昼の通り魔」(66年)では全編を2000カット以上のシーンで構成していることも大島らしさを表していると言えよう。

【あらすじ】
新安保闘争で結ばれた野沢晴明と原田玲子の結婚式。野沢はかつて破防法時代には学生運動の指導をし、今は新聞記者をしている。ハンガリー民謡を口ずさむ色眼鏡の青年の乱入で幸せな結婚式の空気は一転し、式に呼ばれていた当時の同志たちが演説をぶち始め、それぞれの過去が明るみになっていく。

 

儀式(The Ceremony)

上映スケジュール
1月23日(金)7:15pm
1月24日(土)9:10pm

1971年/カラー/35ミリ/123分/英語字幕付
監督:大島渚
出演:河原崎建三、賀来敦子、佐藤慶、乙羽信子、小山明子他

The Ceremony
儀式(Courtesy Janus Films)

【作品解説】
創立10周年を記念して日本ATGが創造社と提携制作した作品。脚本は「東京戦争戦後秘話 映画で遺書を残して死んだ男の物語」の佐々木守と「少年」の田村孟、監督の大島渚の共同執筆。撮影も「東京戦争戦後秘話 映画で遺書を残して死んだ男の物語」の成島東一郎が担当。

【あらすじ】
桜田満洲男は兄の輝道から「テルミチシス」という電報を受け取った。電報の発信地へ急ぎ向う満洲男は彼が育った地方の旧家・桜田家のことを思い出していた。終戦後戦犯指定を受けながら、それでもなお桜田家に絶対的権威として君臨していた祖父・一臣と、一臣に支配されている一家の人々の姿を。彼らの姿を通して封建日本の天皇制国家・家父長制度を支えてきた「儀式」、そして戦後日本にも巣食うその残照が描き出される。当初大島はタイトルを「日本帝国主義」にしようかとも考えていたという。

 

御法度(Gohatto)

上映スケジュール
1月23日(金) 9:35pm
1月25日(日) 7:15pm

1999年/カラー/35ミリ/100分/英語字幕付
監督:大島渚
出演:北野武、松田龍平、武田真治、浅野忠信、的場浩司他

Gohatto
御法度(Courtesy Janus Films)

【作品解説】
司馬遼太郎の短編「前髪の惣三郎」と「三条磧乱刃」を基に大島渚が脚色。幕末の京都を舞台に新鮮組を男色の視点から描いた時代劇。13年ぶりに大島がメガホンを握った作品で、映画「戦場のメリークリスマス」以来となる監督・大島渚、主演・北野武、音楽・坂本龍一のトリオ復活。松田優作の息子・松田龍平の初出演などで話題になった。第9回淀川長治賞受賞。第1回文化庁優秀映画賞受賞。

【あらすじ】
1865年(慶応元年)夏の京都。「局中法度」「軍中法度」という厳しい戒律によって鉄の結束を誇る新撰組に、剣の立つ2人の若者が入隊した。1人は下級武士・田代彪蔵。もう1人は息を飲むような美貌の少年・加納惣三郎である。入隊早々、惣三郎は総長の近藤勇からご法度を破った隊士の処刑を仰せつかり、見事その大役を務めてみせるが、副長の土方歳三は近藤の寵愛を受けいまだ前髪を切ろうとしないこの若者に、何か釈然としないものを感じていた。そんな中、妙な噂が組中に広まった。惣三郎と田代が衆道の契りを結んだというものだった。しかも惣三郎は隊士の1人、湯沢とも関係を持ってしまう。ある日湯沢が何者かに殺される事件が起き、隊士の山崎が早速調査にあたるが犯人は分からずじまい。このままでは惣三郎をめぐり隊の規律が乱れると危惧した近藤と土方は惣三郎に女の味を教えるように山崎に命じるのだが・・・。

 

白昼の通り魔(Violence at Noon)

上映スケジュール
1月24日(土)7:15pm
1月25日(日)9:10pm

1966年/白黒/35ミリ/99分/英語字幕付
監督:大島渚
出演:川口小枝、戸浦六宏、佐藤慶、小山明子、小松方正他

Violence at Noon
白昼の通り魔(Courtesy Janus Films)

【作品解説】
1950年代に日本中を震撼させた連続殺人事件が基となる作品。「日本の夜と霧」で見せたヌーベル・バーグ的長回しの撮影手法から一転して、2000を越える細切れのショットで構成されている。その細切れのショットがこの映画の特殊な効果を作り出しており、それは「大島がいろいろな角度から撮り、しかもさまざまな長さの違うショットで組み合せた映像は、まるでキュビズム芸術のように個々のシーンが我々の目の前で砕け散り、そして再構成されるかのようである。その断片化された映像が我々を犯罪者の意識に、混乱した病的執着の記憶に、抑えることの出来ない衝動にいざなうのである」(Nelson Kim, Senses of Cinema)といえるだろう。

【あらすじ】
家政婦シノは家事の最中、邸宅に踏み込んだ見知った男に首を絞められて気を失い、犯される。しかも彼女が気を失っている間に奥方が包丁でメッタ突きにされ殺されていた。シノは刑事の尋問を受けながら、故郷の中学教師・マツ子に手紙を書き、今暗躍している「白昼の通り魔」は彼女の夫・英助だと告げる。そしてシノが故郷の農村にいた頃、初めて英助に陵辱された日のことを思い出すのだった…。

 

愛と希望の街(Town of Love and Hope)

上映スケジュール
1月26日(月)7:30pm
1月28日(水)9:15pm

1959年/白黒/35ミリ/62分/英語字幕付
監督:大島渚
出演:藤川弘志、富永ユキ、望月優子、渡辺文雄、須賀不二夫他

Town of Love and Hope
愛と希望の街(Courtesy Janus Films)

【作品解説】
大島渚の監督第1作目。大島の初期のテーマである犯罪、社会階級、社会政治的抑圧がすでに表現されている。1959年興行のマンネリを打破すべく、松竹は当時まだ27歳だった大島渚を監督に昇進させ映画を撮らせる。しかしホームドラマが主流だった当時の松竹は、富める者と貧しい者が結びつくことの難しさとその挫折といったテーマの重さに、この映画の製作過程から眉を顰めていた。映画の中で鳩とは少年の貧しさの象徴であり、それが富裕な少女との架け橋となるが、しかしその鳩ゆえに少年は大会社への入社という「違う世界」への切符を失う。この映画のタイトルをめぐっても松竹と大島の間で度重なる議論がなされたようだ。当初大島は「鳩を売る少年」としたかったのだが、松竹はそれでは松竹のカラーに合わないということで反対。そこで「怒りの街」という題名に変更。しかし松竹側はそのタイトルも気に入らず、大島は「愛と怒りの街」にと譲歩。そのタイトルにも首を縦に振らない松竹に大島は「愛と悲しみの街」という最終譲歩をしたが、翌日印刷された台本のタイトルを見たら「愛と希望の街」という映画の趣旨とは全く合わないタイトルに変えられていたという。

【あらすじ】
川崎の駅前で鳩を売っている少年。彼は中学3年生で靴磨きの母と知的障害のある妹との3人暮らし。彼は貧困ゆえに、自分の元に戻ってくることを知りながらも飼っている鳩を売るという詐欺行為を繰り返していた。ある日大会社の重役の娘が鳩を買った。鳩はいつものように隙を見て逃げ出し、少年のもとに帰ってきた。そのことがきっかけで重役の娘と少年は友人になり、彼女の口利きで父親が重役をしている大会社の入社試験を受けることが出来た。しかし結果は不採用。少年が逃げ帰ってくることを予測して鳩を売っていたことがばれたのだ。少女は二度と少年が詐欺行為を出来ないように鳩を再び買い、猟銃を持っている兄に撃ち殺してもらう。結局、少年は地元の零細工場に就職する。

 

太陽の墓場(The Sun's Burial)

上映スケジュール
1月26日(月)8:50pm
1月28日(水)7:30pm

1960年/カラー/35ミリ/87分/英語字幕付
監督:大島渚
出演:津川雅彦、炎加世子、佐々木功、渡辺文雄、藤原釜足他

Town of Love and Hope
太陽の墓場(Courtesy Janus Films)

【作品解説】
血を売る商売の男と愚連隊の話をモチーフに、助監督石堂淑朗との共同脚本を映画化。前作「青春残酷物語」からわずか2カ月のインターバルで製作された大島の第3作。社会から隔絶されたスラム街を敗戦後の闇市のように見立て、そこに生きる人間たちを性と暴力でえぐり出した。非人間的な状況の中で非人間的に生きる人間たちを凝視する大島渚の力作。

【あらすじ】
舞台は大阪の簡易宿泊街、釜が崎。愚連隊信栄会会長の信は、大きな縄張りをもつやくざ組織大浜組に対抗すべく厳しい規律で子分たちを使い、会を強大なものにしようともくろんでいた。しかしここに所属するヤスは信の目を盗んで、街で出会った辰夫と武を隊に引き入れる一方、血液を売買する少女・花子と結託し、隊には秘密で日雇いたちから血を採る商売を手伝っていた。花子の血液銀行にはいかがわしい中年男「動乱屋」が現れ、ソ連の侵攻と戦争勃発の必然を説き始める。

他11作品は次号で紹介する。

上映館インフォメーション
Pacific Cinematheque
#200-1131 Howe Street Vancouver, BC Canada V6Z 2L7
Tel: 604.688.8202
Fax: 604.688.8204

映画情報(24時間): 604.688.FILM (3456)
オフィスアワー: 9am-5pm, Monday-Friday
ウェブ:http://www.cinematheque.bc.ca

チケット:
シングル/一般 $9.50、シニア・学生 $8.00
2本立て/一般 $11.50、シニア・学生 $10.00
2本立て10セットパス/一般 $88.00、シニア・学生 $78.00