SPECIAL 2008

2008年3月6日 第10号 掲載


バンクーバー交響楽団とジェームス・エネス氏の共演CDがグラミー賞を受賞!
〜今後のバンクーバー交響楽団にますますの期待を〜


VSO名誉コンサートマスターの長井明氏

グラミー賞受賞をしたCD

長井明氏



 2月10日、世界中の音楽業界でもっとも名誉ある賞だとされ、まさに音楽界のアカデミー賞ともいえる、第50回グラミー賞授賞式がロサンゼルスで行われた。このグラミー賞では、レコードが2006年10月1日から2007年9月30日までにリリースされた音楽の中から、世界中のジャズやポップ、クラシックまで音楽全ジャンルにおける110部門ある賞に優れた作品が選ばれる。

 そしてこのたび、マニトバ州出身の若手バイオリニスト、ジェームス・エネス(James Ehnes)氏が2005年VSO音楽監督兼首席指揮者のブラムウェル・トービー氏指揮によるバンクーバー交響楽団(以下VSO)と共演しCBCにより収録され、2006年11月にリリースされたCD『James Ehnes: Barber, Korngold, Walton/ Violin Concertos』が見事オーケストラと、共演したソロイストに贈られる『Best Instrumental Soloist(s) Performance with Orchestra』部門で受賞した。

 そして、この作品は4月6日に行われるJuno Awardでの『Best Classical Album of the Year: Large Ensemble or Soloist(s) with Large Ensemble Accompaniment』部門にもノミネートされており、グラミー賞の受賞を受けて、次にますます期待が高まる。

 この受賞CDでジェームス・エネス氏と共演をしたVSOで名誉コンサートマスターを務める、長井明氏にこの喜びについて聞いた。


誰もが喜びに満ちた
 この部門には、世界でも優秀なピアニストのラン・ランがパリ管弦楽団と共演したCDをはじめベルリンフィルやロシアのオーケストラなど、世界中で活躍する著名演奏家が名を連ねた。このような面々が候補者として挙げられるなか、授賞式当日、共演者のジェームス・エネス氏は演奏旅行中で出席はできなかったが、忙しいスケジュールを縫って会場に赴いたVSOの音楽監督兼主席指揮者のブラムウェル・トービー氏はまさか自分たちのCDが受賞するとは思っていなかったそうだ。

  会場の端の辺りに座った巨匠トービー氏は候補者が次々と読み上げられ、最後にもう一度自分の名前がよばれたが、最初は自分が受賞したとは思わず、会場にいた他部門でノミネートされているカナダ出身の音楽家たちの歓声を聞き、やっと気がついたというエピソードを教えてくれた。彼自身はラン・ランが受賞すると思っていたそうだ。

 トービー氏は「受賞候補者が読み上げられる場にいられることだけで素晴らしいことなのに、われわれが受賞するとは思っていませんでした」とコメントしている。また共演したエネス氏に向けて彼のまれにみる最高の演奏に対して大いなる賞賛をたたえた。

 授賞式翌日はVSOの練習とコンサートのため、興奮が冷めないまま受賞の封筒を持ち帰ったトービー氏。その日は巨匠だけではなく楽団員全員が喜びに興奮し、終演後にはボード・オブ・ディレクターの会長がシャンペンを差し入れてお祝いしたそうだ。

完璧な演奏ができたCD収録
 長井氏に共演を果たしたジェームス・エネス氏について聞くと、「とにかく素晴らしい」という返事が返ってきた。若干32歳のとても優秀なバイオリニスト、エネス氏はバイオリン奏者の誰もがあこがれるヤッシャ・ハイフェッツに劣らぬ世界トップクラスのテクニックを持っているそうだ。ジュリアード学院を卒業し、すでに米国、ヨーロッパや日本でも演奏活動をしている。決して派手なバイオリン奏者ではないけれど、彼の演奏はフレッシュで温厚なスタイル。人柄も良く、とてもリラックスした人だそうだ。実際CDでの演奏を聴くと、確かにバイオリンからかもし出される温厚な深みがあって艶のあるとてもロマンチックな演奏が、心の奥底まで癒してくれる。

 この3曲が収録されているCDは1日に1曲ずつ3日間かけてオーフィアム・シアターで収録したそうだが、何度も何度も繰り返し収録される演奏を、一度たりとも間違えることなく、まるで家で演奏するかのようなリラックスした演奏で完璧に弾きこなしたそうだ。経験豊富な楽団員ですら、CDの収録においては緊張し、ピンと空気が張り詰める中「間違えは許されない」というプレッシャーを背負って演奏をする。そのなか、彼のようにリラックスした状態で演奏ができるというのは、バイオリン奏者にとっても憧れの存在である。

 もちろんこのCDに収録されている20世紀の作曲家バーバー、コーンゴールト、ウォルトンのコンチェルトは、オーケストラパートにとっても、すごく困難な演奏だったという。巨匠トービー氏が指揮する縦の線がピッタリとそろう息の合った演奏をすることはかなり高度な技術が要求されるが、そこをとてもきれいに、ソロばかりが引き立つことなくオーケストラと完璧にかみ合っていく感触を覚えたと、長井氏自身このまれな経験を振り返り、興奮を隠せない様子で語った。こうして素晴らしい状態で完璧に演奏が収録されたCDに、改めて湧き出る感慨をかみしめている様子であった。

これをチャンスにつなげる
 この受賞をきっかけに世界に対して「世界で最も美しいバンクーバーにグラミー賞に輝いた素晴らしい交響楽団があるのだということを知ってもらいたい」と語る。VSOは今年10月 に韓国で2カ所、中国で4カ所の演奏が決まっている。この受賞で世界中から『VSOの生の演奏をぜひ聴きたい』と招待を受けるチャンスが増えることや、この素晴らしいVSOと一緒に共演をしたいと、世界中の優秀なソロイストたちがバンクーバーを訪れ、素晴らしい共演を聴く機会をバンクーバーに住むものに与えてくれるという期待が膨らむ。  
 「これからがますます楽しみです」と長井氏は言う。

今シーズンでのハイライトイベント!
ベートーベン・フェスティバル!

 VSOでは今年最大のイベントとして、3月28日から2週間にわたって6回の演奏会でベートーベンの交響曲全9曲を演奏する『ベートーベン・フェスティバル』が始まる。さまざまな交響楽団が同じような演奏会を催しているが、コントラストを効かせて第2番と第7番、第1番と第3番というように組み合わせて演奏することが多く、今回のイベントのように第1番から第9番まで番号順に演奏することは非常に興味深い。初日の交響曲第1番と、ピアノ協奏曲をVSOと同じ部門でグラミー賞を争ったピアニスト、ラン・ランと共演する。そして4月4日の交響曲第6番「田園」と、バイオリン協奏曲で、以前に3度、同部門を受賞したことのある世界的に有名なバイオリニスト、アン-ソフィー・ムッターが共演する。

 日本では年末によく聴く第9番「合唱」や「運命」とも呼ばれている第5番だけを聴く機会はよくあるが、第1番から第9番まで、それも順番どおりに聴く機会というのは本当に稀なので、このチャンスにぜひ生の演奏を聴きに行ってみたい。

 長井氏は「指揮者たちにとってベートーベンの交響曲をすべて行う演奏会というのは『究極のゴール』なんです」と言う。なぜならば、ベートーベンは音楽家として致命的である難聴という病気にさいなまれ、悩み、失望の人生を通して、「生きるとは何なのか?」という人生そのものを常に意識したところから生まれた作品だからだそうだ。結果の見えることのない悩み、時には希望、明るさ、そしてまたやってくる苦悩、それらがあるからこそ最後(第9番)の『歓喜』がやってくる。

 「苦労している人、悩んでいる人にも幸せは必ず来る」と長井氏は語る。

 6回セットになったお得なチケットもあるので、ぜひこの機会にベートーベンが作品を通して私達に語ろうとしている『人生・苦悩、希望、愛そして歓喜』について、素晴らしい演奏を通して考えてみよう。

 

(取材 池側和子)

ベートーベン・フェスティバル

日時:3月28日、29日、31日、4月4日、5日、7日
   (全6回) 午後8時〜
場所:Orpheum Theatre
   (Smithe St. @ Seymour St. Vancouver, BC)

そのほかのコンサート情報: 
バンクーバー・シンフォニー・オーケストラ
ウェブサイト:www.vancouversymphony.ca/