SPECIAL 2008
2008年2月14日 第7号 掲載
![]() 会場はたくさんの人々で満たされていた |
![]() 参加者は興味深そうに熱心に耳を傾け、終わった後も活発な質疑応答が続いた |
去る1月28日、リステルバンクーバーにおいて企友会新春懇談会が開催された。総会ではまず3期連続会長を務める吉武政治氏が挨拶し、昨年までの9人から14人に増えた新理事の紹介を行った。
続いて、新春懇談会恒例の特別講演会が行われ、今年はゲストスピーカーとして、在バンクーバー日本国総領事館大塚聖一総領事が『政治化するイスラーム - グローバル化に対抗する文明』、バンクーバービジネス懇話会山本智海会長が『人類最古の化石燃料 - 石炭は人類を救えるか?』と題して講演を行った。当日行われた講演内容の要約をここに紹介する。
在バンクーバー日本国総領事館
総領事 大塚 聖一氏
在バンクーバー日本国総領事館大塚聖一総領事
『政治化するイスラーム ー グローバル化に対抗する文明』
9.11同時多発テロ事件以降、いわゆるイスラム過激派のテロが世界各地で起きている。これらは、欧米社会のイラクやアフガニスタンなどの政策に対する批判を伴っている。また、過激派とは別に、イスラム教徒が多数を占める国では、選挙などを通じて、イスラムを理念とする政治勢力が拡大している(トルコ、エジプト、パレスチナ、インドネシアなど)。 こうしたイスラム勢力の躍進、あるいはイスラム過激派の欧米に対する批判の高まりの背景には何があるのか?
歴史的にイスラムが発展してきた中東の歴史を見ると、第二次大戦後アラブ・イスラエル間の紛争が続き、1967年の第三次中東戦争でアラブ側が決定的に敗北した。その結果、パレスチナに住むアラブ系パレスチナ人は難民となり、また、イスラエル占領下で暮らすこととなった。この戦争が転機となって、それまでの中東政治を支えてきた世俗的なアラブ民族主義は急速に衰え、自信を失ったアラブ人は、中世の栄華に自分たちの帰属意識を投影する傾向が顕著となった。1970年代に起きた石油ショックによって、貧富の格差が大きくなり社会的矛盾が顕著となると、イスラム政党、結社、団体は社会福祉運動を拡げ、住民の支持を獲得していった。
1979年にこのような社会矛盾に逢着していたイランで、皇帝シャーが追放され、イスラム指導者による統治を政治形態とするイスラム革命が起きた。これはイスラムでは少数派であるシーア派による革命であるため、欧米社会以上にアラブ諸国に衝撃を与えた。イランの「革命の輸出」をおそれたイラクのサダム・フセイン政権は、1980年にイランとの間で戦争に突入。シリアやエジプトなどでもイラン革命に触発されたイスラム勢力の伸張を防ぐために、政権はこれら勢力を弾圧した。
同じ1979年には、政情不安定であったアフガニスタンにソ連軍が共産主義勢力を後押しするために侵攻した。このカルマル政権を倒すために(防衛ジハード)、アラブやパキスタン、さらに米国の支援を受けてイスラム聖戦士の活動が活発になり、泥沼化したアフガニスタンからゴルバチョフ書記長は撤退を決断し、共産政権は92年には崩壊。武装訓練を受けたイスラム聖戦士は、それぞれの自国に帰ったが、やがて、これがイスラム過激派の中心戦力へと発展。今度は、パレスチナ問題に対する欧米諸国の不正義、91年の湾岸戦争以降、米軍の駐留を許すサウジアラビアに対して、98年のケニア、タンザニア米大使館爆破を皮切りに次々とテロを決行した。
アラブ、イスラム側にとって最大の懸案は半世紀以上、イスラエルによって占領されているパレスチナの自治、独立の獲得。占領下で苦悩する住民を救うという大義名分でハマスなどイスラム勢力は、イスラエル軍などに対し自爆テロを決行。これにより、中東和平の見通しはますます遠のく。
現在、イスラム世界は、パレスチナ問題の公正な解決の見通しが得られないこと、人口増大を背景にイラク、レバノンで存在感を増すシーア派勢力に対するスンニ派の不安、インドとの確執と近隣アフガニスタン、イラン情勢に翻弄されるパキスタンの政情不安定と経済悪化、インドネシアなどにおける都市化と貧富の拡大など多くの問題を抱えている。
しかしより根本的には、イスラムは人口を増大しており、各地でイスラム復興運動が起こり、21世紀の現代社会に適合したあり方を見据える努力を行っている。イスラムの理論や歴史が示すとおり、イスラムは元来平和的な宗教であり、ユダヤ教徒やキリスト教徒とも共存してきた。紛争地域は、パレスチナ、レバノン、チェチェン、ボスニアなどかつてイスラム教徒が支配的であった地域で起きており、非イスラム世界に向けて攻撃を仕掛けてくる、という本質は有していない。同じ一神教の兄弟宗教には、それが政治的にイスラムに対して攻撃的でない限りは極めて友好的な感情を持っている。イスラムは、最近急速に進む経済、文化の画一化、グローバル化、生命や倫理、道徳を軽んじる傾向に危機感を有している。従って、イスラムが非イスラム世界に攻撃をしかけてきて「文明の衝突」が起きるという事態を想定するのは現実的でない。
バンクーバービジネス懇話会
会長 山本 智海氏
バンクーバービジネス懇話会 会長 山本 智海氏
『人類最古の化石燃料 ー 石炭は人類を救えるか?』
世界の埋蔵量―エネルギー種別
石炭はざっと1兆トン。年間生産量約50億トンで約200年の寿命。
私の入社時にも1兆トンと言っていて、30年近く経っても減っていない。これは探査が進んで新たな埋蔵量が発見されていることと、価格上昇により経済的可採埋蔵量が増加していることによるものであろう。
世界の埋蔵量―国別
米国が1位で世界の埋蔵量の約4分の1を占める。
石炭は地球規模で遍在しているので、埋蔵量は国土の広さに比例する。どこにでも存在していると考えられ、銀座にも、ここリステルホテルの地下にも掘ればあるはずだが、地価が高く、経済的に意味がない。中国・豪州が意外と少ないのは探査が不十分だからだと思う。
世界の生産量
中国が世界の生産量の半分近くを生産し、圧倒的1位。
後でも説明するが、1位の中国、2位の米国は発電に占める石炭の比率が非常に高い。先進国の米国で石炭比率が高いのは意外?
日本は現在ゼロ。戦前・戦中にかけピーク時で5000万トン/年を超える生産量を誇ったが、石油・ガスなどの扱いやすい燃料に押されて衰退、2002年に北海道・太平洋炭鉱の閉山で事実上国内炭生産は終わった。
世界の石炭輸出
圧倒的にオーストラリアが1位だが、2位のインドネシアが猛追している。
オーストラリア、インドネシア、コロンビアなどは輸出比率が非常に高い。
一方で、中国、米国は輸出比率が低い。これは大半を国内で主として発電用に消費しているため。
世界の石炭輸入
輸入は日本が圧倒的1位。ついで韓国、台湾と東アジア勢がメダル独占。
石炭は10〜15%が灰であり、従い日本では毎年2000万トンの灰が発生する。有効利用に努めてはいるものの、大半は埋め立てされており、それにも限界がある。原子燃料の処理施設がない状況を「トイレのないマンション」と、よく表現するが、石炭にも似通った部分がある。
世界の石炭貿易
輸出入を図に示したもの。
年間約8億トンが海上貿易される。
石炭価格の推移
かつては緩やかな上下動が5〜6年周期で起こるといわれていた。
価格上昇すれば増産⇒需給緩和⇒価格下落⇒生産調整⇒需給逼迫⇒価格上昇というサイクルが5〜6年で繰り返されるという考え。
が、2004年に情勢が一変した。
原料炭、一般炭ともに急騰、その後も基本的に騰勢が止まらない。来年度また急騰するのは現状のスポット価格から見て確実だが、大方は再来年度以降は下落に転じると見る。本当にそうか?
原因は中国といわれる。後でも述べるが、中国の鉄鋼生産、発電が急増。
世界の鉄鋼生産
世界の粗鋼生産は1950年に約2億トン、1957年に約3億トンであり、その後なだらかな増産を経て、2000年に8億トンに達した。
その後、2004年に10億トン、2005年に11億トン、2006年に12億トンと毎年大台を更新し、2007年は13億トンを超えることが確実と言われている。つまり1957年から2000年まで43年間かけて5億トン増えたものが、それ以降のわずか7年間で5億トン増えたことになる。
2001年以降中国が急激な増産に走り、特に2004年以降その傾向が顕著。これが原料炭価格の急騰の原因といわれている。
主要国の発電
世界一はやはり米国で4兆kwh以上。
ここでもやはり中国の発電が急増。1993年に日本の発電量を抜き、今では日本の倍以上。もっとも人口は10倍なので一人当たり発電量は5分の1。
中国では電力消費の伸びが10%以上で、毎年東京電力1社分以上の発電所を作っている。その80〜90%が石炭で毎年発電用の石炭消費は1億トンずつ増えている。中国の石炭生産量の22億トン中、半分の11億トンが発電用と言われている。従って、今のまま電力消費が増え、石炭火力が80%の比率を保つと、他産業向けが増えないとしても後8年で電力向けが8億トン増えるので中国全体で30億トンの石炭が必要となる。ある政府の役人によると中国の石炭生産の限界は30億トン。いったいどうなる?
主要国のエネルギー別発電構成
中国は石炭が約80%。米国、ドイツも約50%と高い。
カナダは水力が約60%と圧倒的高率。水力は設備を設置後は燃料費がタダなのでカナダの皆さんの電力料金は世界的にも安いはず。
フランスの原子力80%はやはり異常。
資源を持たない日本がいかに燃料のバランスを考えているかが分かる。日本の電力会社は常々、燃料の「ベストミックス」と呼んでいる。
日本の燃料別発電シェアの現状と将来見通し
日本の発電量における石炭のシェアは2006年で24%。
日本の電力需要は今後10年間、年率1%未満の非常になだらかな伸びが見込まれている。其の中で石炭は絶対量・シェアともに減少していくと予想されているが果たしてそうか? 京都議定書締約国として温室効果ガス排出量を削減する義務があり、政治的配慮から減少予想がなされているのかもしれない。
コスト的に競争力があると言われ、また温室効果ガスを排出しない原子力が大きく伸びると予想されているが、原子力のコスト計算には廃炉費用が算入されておらず、また先の東京電力・柏崎刈羽原発で明らかになった活断層の問題もあって、地元の反対も予想され、期待通りに伸びる保証はない。其の場合コストの安い石炭に頼らざるを得ない場合も考えられる。
(取材 西澤律子)