SPECIAL 2008

2008年1月10日 第2号 掲載


今年20周年を迎える武内歯科医院
歯科医 武内貴代子先生に聞く


武内貴代子先生

武内歯科にて。手前が武内貴代子先生。(左端がオフィスマネージャーの姉の千代子さん。その隣、後方がアシスタント兼指圧マッサージ担当の石堂裕美さん)

SFU卒業の際、あきレストランの前で両親の武内春夫さん、御代子さんと



 バンクーバー市内の武内歯科医院が、今年20周年を迎える。武内貴代子先生は7歳の時に家族と移住後、勉学に励み、バイリンガルの歯科医として、多くの日系人、日本人を患者に持つ。仕事を選んだいきさつや、かつて『あきレストラン』を経営していた両親から学んだこと、今後の抱負などを語ってもらった。


移住したのは1960年代半ばですね。その頃の様子を教えてください。
 小学校2年生の時、ABCもハローも知らないままカナダに来て、姉の千代子、妹の加代子と一緒に1年生のクラスに入りました。その当時はESLクラスもなく、それが幸いして、早く英語を身につけることが出来たのだと思います。日本では当たり前のようにスカートをはいていましたが、ここでは女の子もズボン姿で、指をさされたことがありました。母はまだ英語も話せず、どこで服を買ったらいいかもわからなかったので、1年くらいはみんなと違って見えたと思います。だからみんなと同じであるように努めました。

学校ではどんな生徒でしたか?
 子供の頃から両親が一生懸命働くのを見ていましたから、私も一生懸命勉強しました。日本語学校には少し通いましたが、私たちは日本から来た訳だし、両親は英語を学ぶことを重視していましたので、長くは続けませんでした。

 私が高校を出た頃、ほとんどの友達が大学進学をせず、仕事に就いたり、技術を身につけたりしていました。でも日本から来た両親の元、大学に行くのが当然のように育てられたのだと思います。

ご両親は長い間『あきレストラン』を経営されていましたね? 
 両親はレストランの仕事で忙しく、24時間一緒にいました。私たちが小さな頃は、母は学校が終わる時間に家にいましたが、ティーンエイジャーになると、レストランに行くようになり、私たち3人で留守番していました。

 以前はお寿司はめずらしいもので、奇妙に思う人も多かったです。今はうちの子供たちがお弁当にお寿司を持っていくと、みんなが欲しがるそうですが。

歯医者さんになろうと思ったのはいつ頃からですか?
 SFUでは数学と生物学を専攻しました。でも卒業後、何をしていいかわからないまま、友達とバックパックを背負い、4カ月ほどヨーロッパを回りました。

 何がいいか消去しながら気づいたのは、人と係わり、健康に関する、手を使った仕事がしたいということでした。歯科医になるには、生物学、化学、物理学を取得していなければならないんです。私の場合は、あと少し科目を取るだけで、UBCの歯学部に入れました。

 日本では高校卒業後、大学の歯学部で6年間勉強しますが、カナダでは大学でまず学位を取ってから、歯学部でさらに4年間勉強しなければならないのです。日本には東京だけでも100もの歯学部があり、教授法もたくさんありますが、カナダではBC州に1つ、アルバータ州に1つ、国中に10くらいしか歯学部がありません。

仕事を続けていて、どんなことがやりがいですか?
 歯学部を出て数カ月働いた後、ジョン新谷先生が退職する際に、歯科医院を購入し、患者さんを引き継ぎました。70パーセントが日系の方たちです。新谷先生はとても信望のある方で「退職しないでください」と泣く患者さんがいたんです。それを見て、私もそうなりたいと思いました。先生は今も患者さんとして来てくださっています。

 ほとんどの患者さんは、赤ちゃんの時からきて、もう高校を卒業するほどになりました。患者さんの家族やその成長を見続けてきたというのは、光栄なことだと思っています。

 歯がアートだと思う人は少ないと思いますが、色、形、顔や体に合っているかという面で、とても芸術的だと思うんです。この仕事は得意な科学を活かし、さらに手を使って仕事が出来るので、適切な選択だったと思っています。

日本とカナダで治療の違いなどありますか?
 日本で受けた歯の治療を見て、ほとんどのカナダの歯科医は驚きます。治療に関する考え方も、使用される製品も、日本とカナダでは違いますから、患者さんの健康状態によって、それが大丈夫な場合とそうでない場合があります。

 歯科医は毎年、新しい器具や知識を身につけるために、講習を受けています。新しいものは、必ずしもそれがいいとは限りません。実験的に使いたくないので、少し待って業界のリポートを読んでいます。

 こちらの子供たちは歯の矯正をしたがります。歯を白くしたい人も増えています。

指圧マッサージも予約出来るそうですね?
 歯が痛い、虫歯や歯ぐきの問題などは、その噛み方によっても起こります。力が張って筋肉が硬いと、歯ぎしりして歯にひびが入ったり、割れたりします。治療に来る方は、知らずと緊張していることが多いです。ですからマッサージをしてリラックスしてもらいたいのです。歯の病気は、細菌だけで起こるものではありません。体の機能がどう働いているかによって、歯、あご、関節に問題が起こります。

 一年ほど前から、石堂裕美担当で、指圧マッサージを取り入れました。患者さんは始め、驚きましたが、肩こりと歯の痛み、あごが関係していることがわかり、今は納得してくれています。肩に力が入っていると体全体の筋肉が硬くなり、肩だけでなく、背中などもこりますから、30分から1時間かけて指圧マッサージします。みなさん、ストレスの多い中で生活しているので、歯の治療の前後に予約していただき、自分へのご褒美として、指圧を受けてリラックスしてもらっています。

仕事と家事の両立はどうしていますか?
 両親が毎日、バーナビーの東側から、うち(バンクーバーの西側)までやってきて、子供たちの学校の送り迎えと、食事の支度をしてくれます。本当にラッキーだと思ってます。子供たちは私の両親には日本語で話します。

 両親は長年忙しく働いてきましたので、退職後も規則正しい毎日の方がいいみたいです。忙しかった人が突然何もしなくなるのは良くないですから。レストランを閉めた時はもちろん寂しかったけれど、そういう時期でしたし、次のことに進むいい機会だと思いました。

子育てについてはどうでしょうか?
  日本式というのは、母親がすべてやってあげることが多いですよね。私の母もそうでした。だからアジア系の子供は、家を出ると何も出来ないことがあります。私は西洋式のように、早くから独立させるのではなく、日本式と西洋式の両方のいいところで育てたいと思っています。 

 休みの日は、家事や雑用をしたり、土曜日は子供のスポーツや塾で忙しいです。働きながら子供を育てていると、時間に追われますよね。だから主人とふたりよりも、家族みんなの時間を大切にしています。旅行も4人一緒です。子供も日本に行くのは大好きです。

20周年を振り返り、今後の抱負を聞かせてください。
 私が歯科医として始めた時には、いろいろわかっていたつもりですが、20年を振り返って、ビジネスの仕方をあまり知らなかったなと思います。歯学部ではスモールビジネスの仕方など教えてくれませんので。でも両親を見ていたことが役に立っています。医院のオフィスマネジャーである姉も、レストランの運営に携わった経験から、経営についてよくわかっています。

 卒業後お金をかけて歯科医院を始めても、患者さんがいなくて、廃業する人が少なくありません。引き継ぎの際、新谷先生は患者さんに私を紹介するためだけに、6カ月間毎日来てくれました。先生は私が開業医として成功するように、助けてくれたのです。

 20年前、新米歯医者としてスタートした時に、患者さんが信用してくれたことに感謝しています。そして今でも私の所に通って来てくださるので、私も最高のことをしてあげたいと思っています。


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 英語でのインタビューだったが、日本語も完璧な武内先生。穏やかな口調の中から上品さと知的さ、やさしさをかもし出していた。ご自宅も医院も、しっとりと落ち着きのある色でまとめられた素敵なインテリア。まさしく『こんな女性になりたい』憧れの人だ。今後ますますのご活躍をお祈りしたい。


(取材 ルイーズ阿久沢)

 

武内貴代子先生 プロフィール
 東京都出身。7歳の時、家族とバンクーバーに移住。サイモン・フレーザー大学で数学と生物学を専攻して卒業後、ブリティッシュ・コロンビア大学歯学部卒業。ドクター・ジョン新谷の退職につき患者を引き継ぎ、武内歯科医院開設。ご主人のアンドリューさん、13歳のアマンダさん、11歳のアダムくんとバンクーバー在住。趣味は走ること、絵(水彩、インク画)を描くこと。バンクーバー国際マラソンのハーフマラソンには2年続けて参加した。

武内歯科医院
206-1508 West Broadway, Vancouver BC
(604) 266-4353