MAPLE 2008

2008年1月10日 第2号 掲載
 
カナダ駆け足横断記
後編


 日本の27倍という広さをもつカナダ。地方によって気候や特色などもまったく異なることだろう。ガイドブックとにらめっこしているだけでは何もつかめない、はじまらない。そうだ、旅に出よう。というわけで、8月の1カ月間、カナダを巡る旅に出た。(前編ではバンクーバー島からトロントまでを紹介)

(文と写真 いいのまさき)




真っ赤なメープル


赤毛のアンの家


 

●アトランティックカナダ


 まずはトロントから30時間バスに揺られてシャーロットタウンを目指した。ひとり旅の一番のおもしろさは人との出会いではないだろうか。ひとり旅だからといって終始無言で旅をしていてもつまらない。そこに出会いがあり会話が生まれ、少しばかり時間を共有することだってある。


姫りんごの木



 ひとり旅での宿泊は基本的にドミトリーになるが、ちいさな街ではドミトリーがないなんてこともある。カナダではシングルとダブルの値段があまり変わらないので、出会った人と協力しあい、二人で泊まれば半額に抑えることができる。そんなわけで赤毛のアンの世界が広がるキャベンディッシュまで道中で出会った人といっしょに足を伸ばした。

 この街は時間の流れがとてもゆるやか。赤毛のアンの世界では自然と歩がゆるんでしまい時の流れを忘れさせてくれる。海を眺めながらしばらく物思いにふけってみたり、朝一番に牛の乳搾りの見学をしたり。朝日を拝み、大地の広大さ、あたたかさを肌で感じることができた。ここにきてはじめて「のどか」という言葉の意味を知った気がする。

 しかし、出会いもあれば別れもある。共有できた時間に感謝して、私はひとりバスに揺られハリファックスを目指した。古き良き時代の影を残す港町ハリファックス。ここを拠点にライトハウスルートをめぐる。

 ヨーロッパ移民の入植当時の街並みがそのまま残るルーネンバーグ。街には歴史的建造物が並んでいる。街の全景を望むためには港の対岸まで足を伸ばしてみるのがベスト。海の青さに、ひときわ目を引く大西洋漁業博物館の赤い建物。まるで絵葉書からそのまま飛び出してきたような美しい街並み。

 隣町のマホーンベイの美しさにも心奪われつつ、入植当時のことを思い浮かべながらヨーロッパ移民が築いた美しい街をあとにした。



ルーネンバーグの街並み





●ペルセ


 ペルセという街の名前を初めて聞いた人も多いのではないか。ケベック州東南、ローレンス川の河口に突き出たガスペ半島に位置するちいさな街である。私はこの街を訪れるのを非常に楽しみにしていた。ペルセを大好きになってしまう予感でいっぱいである。

 長距離バスなのに、市民の足になっているのではないかというくらい、短い間隔でよく停まる。海岸沿いをゆったりと進むバスもなかなか旅人の心をくすぐってくれる。ゆったりと進んだバスもようやくペルセに到着。バス停は野ざらしのベンチが2つだけ並んだ簡素な造り。ほんとにちいさな街なんだな。

 ペルセの見所といえばペルセ岩。海岸から180メートル沖の海中にそびえる巨大な岩である。干潮時にはペルセ岩まで歩いて渡ることができる。なんとも皮肉な話だが、私がペルセに着く数分前に干潮時は終っていてペルセ岩までの道はすでに閉ざされていた。この旅では何度も自然の力に完敗しているな。しかし、遠くからペルセ岩を眺めるだけで十分美しい。波の音を聞きながら夕日に赤く染まっていくペルセ岩をしばらく眺める。ペルセ好きだな。心からそう思える。

 早起きをして朝日を拝みに海岸まで朝の散歩。朝日に照らされるペルセ岩もまたすばらしい。朝もやのかかったペルセ岩はなんとも神秘的であった。早起きは三文の徳とはよくいったもので、なんとペルセ岩までの道が開けていた。海藻に足を滑らせながらもたどり着いたペルセ岩。想像していたよりもだいぶ大きく迫力があった。

 ペルセにはペルセ岩以外にも見所はたくさんある。山あり谷あり、滝あり海あり、とても自然に恵まれている。最初の予感どおり、私はペルセが大好きになった。そんなすばらしい街ペルセにも別れを告げ、バスでのんびりと海岸沿いを走り、次の街を目指す。


ペルセ岩



●モン・トランブラン


 モントリオール北部にある高原地帯のリゾートエリア、ロレンシャン。そのロレンシャンの観光の中心となっているのがモン・トランブランである。紅葉を求めてトランブラン山の山頂を目指す。

 山頂まではゴンドラも出ているが、思う存分に紅葉を味わいたいのであれば、山頂までのハイキングがよいのではないだろうか。山頂まで2時間たっぷりと紅葉を堪能できるなんてこんな幸せなことはない。木々に囲まれたトレイルをのんびりと歩く。それはまるでメープルのトンネルにメープルの絨毯。空気がとても澄んでいて、かつて結核治療の保養地だったという歴史も頷ける。途中何カ所かある展望ポイントから眺める景色の美しさは疲れも忘れさせてくれる。山頂からの眺めはどれほどすばらしいのだろうか。期待に胸膨らませながら山頂に到着した。

 木々は赤、黄、緑のパッチワーク。トランブラン湖の青。カラフルな街並みはまるで箱庭。山頂からは360度すべてにすばらしい景色が広がっていた。絶景の一言で終らせてしまうにはもったいない。日々葉の色づきは変化していき、その日その日で美しさが違うというのもすばらしいではないか。写真には納まりきらない美しさをしっかりと目に焼き付けた。新鮮な空気をたくさん吸い込み、リフレッシュされた身体で下山した。


トランブラン山からの眺め

 

 

●ナイアガラの滝


 世界最大の水量を誇るナイアガラの滝はカナダとアメリカの国境地点に位置する。カナダ滝、アメリカ滝と国境を挟んでふたつに分かれており、ふたつの滝はレインボー橋を渡って行き来することができる。飛行機に乗らずして徒歩で国を行き来することができる便利さ。島国の日本で生活している私には、自分の足で国境をまたぐのはとても新鮮であった。


ナイアガラの滝



 アメリカ滝の周辺には緑が多く、少しのんびりとした雰囲気。散歩をしながら滝をあらゆる角度から見て回るのもおもしろいのではないか。

 間近で水しぶきを浴びながら見るカナダ滝にはとても荒々しさを感じた。青く透き通った水が一気に落ち込んでいく。あまりの迫力に吸い込まれそうな感覚になってしまう。滝がつくりだす虹はなんとも幻想的であった。

 迫力のある滝を眺め、とても清々しい気分になった。旅のフィナーレにはふさわしい。バスがトロントに着くと私の旅は終わりを迎えた。

 
 1カ月という短い期間でカナダをすべて知るということは難しい話である。忙しく見てまわり、まだ訪れていない場所、まだまだ知り尽くせていない場所はたくさんある。しかし、旅をする前よりもカナダを深く知り愛着を持ったのは確かだ。旅先で見た風景、空の色、雲の形、水のきらめき、季節の移り変わり、そして人々の笑顔。それらはすべて私の胸の中に宝物として残っている。

 旅が終ってしまうのはとても寂しいが、今はこの広大なカナダの大地を踏みしめてきた足を、次の旅までしばし休めたいと思う。

 


橋の上の国境