SPECIAL 2007

2007年11月1日 第44号 掲載


日本食材をはじめお惣菜、弁当、健康食品を手ごろな価格で提供し続ける
「ふじや」創業30周年を迎える


「仕事にめぐまれたこと、健康にめぐまれた
ことが宝です」と話す平居茂社長と明美夫人


パウエルストリートにオープンした頃の「ふじや」

現在の「ふじや」本店ビル

 現在ビクトリアと、グレーターバンクーバーに4店舗を展開する「ふじや」(平居茂―ひらいしげる―社長)がパウエルストリートに最初の店をオープンしたのは1977年のこと。以来ビジネスは順調に発展し、今年で30周年を迎える。今回は平居氏とともに「ふじや」の30年の歴史を振り返るとともに、このビジネスを通して平居氏が得たものについて聞いた。

ふじや創業までの道のり
 1937年にバンクーバーで生まれた平居氏は、戦後の一時期を日本で過ごすが16歳のときに単身カナダに戻り、家族全員を呼び戻せる資金を作るために働き始めた。ようやく家族全員がそろってからは母親のビジネスの手伝いをしたり友人とレストランを始めたりと、バンクーバーでのビジネスの基礎を築いていった。

 そしてバンクーバーで7番目という日本食レストラン(寿司レストランとしては初)「まねき」を開いたのが1969年。経営としては順調だったが、移民法の改正で和食料理人を日本から呼ぶのが難しくなったことから、ビジネスの主軸を水産物と日本食材に移す。そのための店舗をパウエルストリートで「ふじや」として開いたのが、1977年のことだった。
 
本当に忙しかった開店当初
 当時は平居氏夫婦と従業員一人の3人で店を切り盛り。仕入れから加工、お客様との対応まですべてをこなすために朝から晩まで、昼食をとる時間もままならないほど働いたとのこと。

 「とにかくお店を軌道に乗せることに集中していたので、忙しいのは本当に忙しかったですけど、つらいとか苦しいとかいう気持ちは全然ありませんでしたね」と明美夫人は当時を懐かしそうに振り返る。

 この店が軌道に乗り始めるのと平行して、レストラン経営からは撤退。またこれと相前後して、かまぼこ製造会社「Ocean Delight Seafood」を立ち上げる。

最初の大きな試練、利子の高騰
 平居氏のビジネスの原則のひとつに「屋根から下は自分のものに」がある。「つまり個人宅でも社屋でも、それを自分の資産とすることが全てを安定させる上で大切なことなんですよ。これはうちの従業員にもいつも言ってますし、「ふじや」が30年の長きに渡り成長し続けることができた理由のひとつだと思っています」と平居氏はその理由を説明してくれた。

 氏がこのことを痛感することになったのが、パウエルストリートの「ふじや」の店舗購入のために組んだ銀行からの融資。最初6%台だった利子は80年代初頭には22%まで上昇、経済の低迷も追い討ちをかけ、この時期に多くの会社が倒産に追い込まれていった。

 この時から「ビジネスは自分の資産内でやっていく」ことを常に念頭においている。「このビル(現在のクラークストリート沿いの店舗)も、ようやくローンの支払いが終わり自分のものとなりました。これで安心してビジネスができます」と氏はにこやかな表情で語る。

二つ目の試練、円高
 また「ふじや」経営で二つ目の大きな試練となったのは、90年代初頭に起こった猛烈な円高だった。「この時は日本からの食材は売れませんでしたね。巷ではコーヒー一杯が50セント程度で買えた時代に、缶コーヒー一缶に2ドル95セントという値段をつけなければならないような状況でした」

 またこの頃リッチモンドに日系のスーパーマーケット、ヤオハンがオープン。それまでは「ふじや」を愛用していた客も、規模の大きさと目新しさでリッチモンドまで足を伸ばすようになり、売り上げは50%ほど落ち込むところまで行った。しかしよくよくお客様に話を聞いてみると、ヤオハンは中華系顧客に対する品揃えが中心で「一度はヤオハンに行ってみるけれど、やっぱりふじやさんに買いにくるから」という反応が多いことに気づく。これなら勝算ありとふんだ平居氏は辛抱強くビジネスを続ける。実際のところ、落ち込んだ売り上げは約3カ月で元の水準にもどったそうだ。

 このふたつの出来事に共通するのは、自分の力ではコントロールできない外部からの要因で引き起こされたというところ。そしてその困難を乗り切るための方策が、先ほども触れた「蓄え」すなわち自分の資産の大きさということだと平居氏は話す。

苦労することも、必要
 「苦労したことはよく覚えているけれど、うまくいったことはすぐに忘れてしまいますよね。うまくいった時というのは、さらにその上のことを考えていきますから」と平居氏。「でも苦労をしなければ、いざという時にこらえられるだけの耐性ができない。出来ていないと予想外のことが起こった時にもろく、崩れやすいですね」と苦労の必要性も指摘する。「そして儲かったらそれを好き勝手に使うのではなく、せっせと貯めて例えば店舗を自分のものにするなど、しっかりした資産を作ることも大切です」

 以前、シアトルのとあるスーパーマーケットから視察に来たマネージャーが、とてもこの販売価格では利益が出るとは思えないが一体どうなっているのだ?と平居氏に尋ねたことがあった。平居氏がひとこと「自分の儲けを減らせば出来ますよ」と答えたのに対し、当のマネージャーは複雑な表情をしていたという。

  *   *   *

 「ふじや」は94年に現在の店舗ビルに移転。家賃(コスト)を抑えることを念頭に置いた物件探しの結果で、周りの環境(小売業がほとんどない)から、銀行からはビジネスの先行きに懸念を持たれたとのこと。「でもパウエルストリートの店から自分で車を運転してみたら意外と近い。ここには専用駐車場もあるし、今までのお客様には移転後も来ていただけるという確信がありました」と平居氏は語る。


現在の「ふじや」本店ビル。これは移転当時に撮影したもので、まだ「Fujiya」の看板がついていない

 その確信は当たり、移転後も来客数が減少することはなかった。

 「仕事にめぐまれ、健康にめぐまれ、自分は幸せ者」と氏は語る。リタイアの予定はまだないが、店の業務を任せられる人材は育ってきている。いずれ第一線を退く日は来るのだろうが、「リタイアしたら、さて何してるんだろうね」と考える氏の横顔からは、まだまだこの仕事に打ち込む情熱が感じられた。


(取材 平野直樹)

「ふじや」
バンクーバー本店:912 Clark Dr., Vancouver,
 604-251-3711
リッチモンド店:113-3086 St. Edwards Dr., Richmond
 604-270-3715
ダウンタウン店:1050 W. Pender St., Vancouver
 604-608-1050
ビクトリア店:3624 Shelbourne St., Victoria
 250-598-3711