SPECIAL 2007
2007年10月11日 第41号 掲載
![]() 岡本行夫氏 |
9月30日からバンクーバーを訪れていた、外交評論家で、小泉内閣で内閣総理大臣補佐官としても活躍した岡本行夫氏にお話を聞いた。
今日、到着されたということですが、バンクーバーの印象はいかがでしょう。
バンクーバーは約20年ぶりですが、落ち着いた佇まいや清潔さなど、変わっていないことに驚きました。でも聞けば、人種構成などは、近年かなり多様化が進んだそうですね。
経歴を拝見させていただきましたが、今回就任した福田康夫首相のこともよくご存知だということですね。
長官を務めていました。私は小泉総理の補佐官で、その際の直接の上司は当時、官房長官だった福田新総理でした。
福田首相の印象を教えてください。
国会議員には潤滑油が切れているような人、荒っぽい人もいますが、新総理は非常にバランスの取れた、安心感を与えてくれる人…いわば癒し系の人物です。福田首相の就任は日本という国が安定していくために必要だったのではないでしょうか。
小泉元首相は突破力を行使して、一連の改革を断行してきました。それがさまざまなひずみを生んでしまいました。
改革の例を挙げると、例えば、過保護と喧伝されるほど守られていた農業に対して、農政改革を行いました。また、規制も緩和しました。会社設立に関する規制がゆるくなったため、運送会社やタクシー会社も多数、生まれました。
一方で、小泉元首相の急激な改革は、これまでのいわゆる『被益者』の不満を生み、参議院選挙における自民党議員の相次ぐ落選となりました。規制緩和でマクロ的に社会は良くなったのですから、皮肉な現象です。
対して民主党は、改革で進みすぎたとも言える部分を戻す政策を表明して、勝利を収めました。消費税率を上げないことや法人税の軽減、『厚生経済』学的なものを主張して大幅に議席を増やしました。
福田首相は小泉元首相と民主党の中間に近い位置にいる人です。ですから、小泉元首相の勢いを保ちつつ、スピードは落として、元首相が行ってきた改革をソフトランディングに導くことができる人だと思っています。
日本経済は元気だと聞いています。
まず製造業が自信を取り戻し、復活しています。その主要要因は中国でしょう。中国への輸出が増加し、また投資も増えていることが、日本企業の活性化につながっています。経常利益が1000億円を超える企業が続出していることからも、日本経済の復活はわかります。
私はいくつかの会社の取締役会のメンバーや経営諮問委員会のメンバーも務めています。以前は閉塞状態にあった企業が、現在、前向きで明るいです。
特に自動車産業が元気です。自動車関連は製造業の基幹産業ですので、これは日本経済にとっても朗報です。
日本経済復活の背景として、一つには、中国、インド、ロシアを中心とする新興消費国の台頭といった世界経済の変貌が挙げられるでしょう。ロシアやウクライナで自動車がよく売れています。
かつては世界のマーケットといえば、米国、欧州諸国、日本で、例えば米国経済の影響が世界を直撃していました。しかし、ブラジル、ロシア、インド、中国のBRICsをはじめ、第二層が台頭してきました。これらの国の経済発展が著しく、米国の経済が停滞したとしても、世界経済への影響は緩和されるようになりました。
このような中で日本企業が自分たちの生きていく道を確定したと言えます。道というのは、『少品種大量生産』は中国や韓国に任せて、日本は『多品種』を『少量生産』していこうというものです。
ひずみも生んだ日本経済の好況
ただし、経済が上向きである一方で、好景気であるがゆえの『ひずみ』も生まれてきています。
その最たるものが格差社会です。好況の恩恵を受けているのは東京、名古屋、仙台、少し遅れて大阪。他の地方都市は景気回復の波及が緩慢で、経済格差が広がっています。
労働者についても然り。正規社員とパートタイム、派遣、アルバイトなどの非正規で雇用されている人の給与・賃金間に差が広がっています。
3カ月かけてクルーズする、料金500万円のクルーズが3年先まで予約でいっぱいです。また、価格が500万円を超える自動車を買う層が増えています。雇用が安定したおかげで、正規社員は高い生活水準を謳歌しています。一部の若い世代は4000万円ほどのマンションを簡単に買うことができます。
一方で、年間所得が300万円に達しない労働者の数も増加しました。中間層が減ってきているようです。
今回の来加では、10月2日に『From Manchuria to Iwo Jima to Nagasaki: What the Competing War Narratives of World War II can say about Sino-American-Japanese Relationship』というタイトルで講演されるということで、第二次世界大戦と中国、米国、日本の関係について伺えると思っています。
今年、米国の下院外交委員会で太平洋戦争での従軍慰安婦問題について、日本政府に公式謝罪を促す、従軍慰安婦決議案が可決されました。
このような決議案は米国では年間約2000本と、多数提出されます。従軍慰安婦決議案はそのうちの一本に過ぎず、さほど注目されるはずはなかった。なのに、あれは間違いだ、軍は一切、強制しなかったと主張する人が日本で出たため、反感を買い、可決されるという結果となりました。米国をはじめ世界各国は、『日本が現在、謝らない』ということを問題にするわけです。日本人の一部がいわば『過剰』に反論したことで、大きな問題に発展してしまいました。
太平洋戦争で日本が責任を取っていないと、カナダ人から批判的なコメントを受けることがあります。
日本はかなり戦争責任を取ってきました。インドネシア、ビルマ、フィリピンをはじめ各国に対して、当時としては巨額の国家賠償を行ってきました。ドイツは国家賠償は行っていません。やり方が違うのです。にもかかわらず、日本がドイツとの比較で世界から非難を受けるのは、戦争責任を否定する人がいることが目立つこともあると思います。
私は1945年以降、つまり戦後に関しては日米安保や自衛隊の海外派遣を支持する、いわば保守的な考えを持っています。しかし、1945年以前についてはリベラルです。日本は過去に直面すべきであり、責任の所在を明確にするべきでしょう。中道であるため、保守からもリベラルからも攻撃されています。(笑)
第2次大戦当時に日本軍が従軍慰安婦を強制連行したことを裏付ける証拠はないと安倍前首相が発言したと伝えられたことで問題が大きくなりました。安倍前首相自身は穏当な人でしたが、まわりの人々が過激すぎたのかもしれません。ああいう形で辞めることになったのは残念です。
安倍前首相の辞任直後は、あまりにも無責任だ、二世議員は弱いなどとの批判も多かったようです。
最近は、今回の福田新総理、安倍、小泉、橋本元総理と、親も政治家だったという総理大臣が続いていますからね。二世、三世議員について厳しい意見の人もいるようだけど、僕自身は批判はありません。いわゆる叩き上げも、二世、三世議員もどちらにもいいところはあります。
(取材 西川桂子)
| 岡本行夫氏プロフィール | |
国際問題アドバイザー・岡本アソシエイツ代表 68年一橋大学経済学部を卒業し、外務省入省。ワシントン日本大使館参事官、北米第一課長などを歴任。91年退官、岡本アソシエイツ設立。橋本内閣と小泉内閣で二回にわたり総理大臣補佐官を務める。企業へのアドバイスや執筆、講演、さらにテレビコメンテーターと幅広く活躍している。 |
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