SPECIAL 2007
2007年8月30日 第35号 掲載
![]() インタビュー後にシャッターチャンスを大サービス。染太さんが身につけているのは『上方落語協会』の浴衣 |
![]() 公演後、玄関で見送りをしながら 観客と楽しく語らうひととき |
![]() 大阪弁の染太さんと少し英語なまりのある日本語のクリスさんとの掛け合いがおもしろい |
![]() 公演中、2人で落語の説明。 染太さんが実演、クリスさんが英語で説明 |
英語落語バンクーバー公演が行われた8月16日、出演者の林家染太さん、加奈出庵(カナディアン)クリスさんのインタビューが公演前に行われた。
染太さんはバンクーバーを訪問するのは初めて。「自然がきれいで、景色がいいですね」と第一印象を。一方クリスさんはバンクーバー出身、今回が初凱旋公演となった。
英語落語について
ーなぜ落語を英語でやろうと思ったんですか?
染太さん
「大阪に英会話学校があって、そこに英語落語を最初に作った桂枝雀師匠が っていて、そこで山本先生という方が指導していました。そこに自分も関西大学時代に っていて、大学で落語研究会に入っていたので、『そしたら英語落語を一緒にやってみないか』と誘われたのがきっかけです」
ー英語はもともと得意でした?
染太さん
「いや〜。(クリスさんの方を向いて)どうですか?(笑)。ほんとに少ししかできないんですよ。勉強してる途中なんですけどね。ただ、嫌いではないんですよ。それに僕の好きな落語がいろんな人に知ってもらえるというのはうれしいし、おもしろいなと思ったんです」
ーある程度英語がしゃべれることが必要ですか?それとも丸覚えですか?
染太さん
「はっきり言って、丸覚えですよね。だから先生(クリスさん)にいろいろ教えてもらってるんですけど。ほんまやったらそこで、アドリブでね、しゃべれるようになりたいなとは思ってるんですけどね。今のところは丸覚えでそこに感情を入れて話すようにするということですね」
ー英語落語のどこが難しいですか?
染太さん
「古典落語なので、江戸時代の落語のニュアンスを伝えるのが難しいのと、日本語で言う言葉を、どう翻訳したらいいのかというのが難しいです。(台本を見せながら)こうして一応翻訳してみて、後でネイティブの先生に見てもらって、単語の修正とか表現の修正とかをしてもらってます」
ー『笑い』って文化によって違う。『ツボ』が違いますよね。だからみなさん同じところで笑いますか?
染太さん
「おっしゃるとおりでね。初めはすごく不安だったんですよ。実際に僕らもアメリカンジョークって笑えないところがあるでしょ。だからどうなのかなぁと思ってやってみたんですけど、実際、海外でやらしてもらったら、『ツボ』が一緒だったんですよ。『ぼけ、つっこみ、笑い』という方程式が海外でもまったく一緒だったので、わ〜一緒やなぁというのが、僕はびっくりしましたね」
お互いが先生
ー発音が難しい単語は何ですか?
染太さん 「何ですかね?」
クリスさん 「発音より文法が・・・」
染太さん 「例えば、代名詞。 『You』 『He』 『She』 などの使い方がしゃべってるうちにごっちゃになるんですよ。あとは発音だと 『R』 とか」
クリスさん「 Someta-sans' English practice!、 『Thriller』」
染太さん 「『Thriller』」
クリスさん 「 『World』 」
染太さん 「『World』・・・。もう勘弁してください。僕の場合は、 『American English』 ではなくて、『OSAKAN English』なので(笑)。日本人ですからね、完璧な英語よりはね?」
ークリスさんへの指導はどんな感じですか?
染太さん
「まず登場人物の気持ちですよね。それから、これは僕たちにも難しいのですが、目線ですよね。実際にいないのに、ここに人がいるようにお客さんに見てもらわなくてはいけないので、目線はしっかり決めてという指導とか。あとはパントマイムですね。物を食べる仕草とか、表情とか、扇子の使い方とか、落語独特の所作ですよね。それを教えています。外国人に難しいのは、例えば、七輪で魚を焼く仕草とか。七輪が何かわからないので、絵を描いて教えたりしますね」
落語を始めたきっかけ
ー落語を始めたきっかけは何だったんですか?
クリスさん
「日本で山本先生の英語学校で教師として働いていた時、私のレジュメにVancouver Film SchoolのActorとあるのを見た山本先生に、『落語をやってみませんか』と言われて。『いいですよ』と言ったのが始まりです」
染太さん 「落語は知ってたの?」
クリスさん 「全然」
ー染太さんが始めたきっかけは?
染太さん
「中学1年生の時に、桂枝雀師匠の舞台を生で見たんですよ。それ見て感動しましてね。おもしろい!と思って。自分の父親くらい歳の離れた人を爆笑させるわけですよ。落語はおもしろいなぁと思って、次の日から図書館に行って、落語のCDとか本とかで研究して、覚えたら学校のホームルームとかで教壇の上に登って落語やったりしてましたね。それで将来的に落語でご飯が食べられたらなぁ〜という希望はありましたけどね」
目標は?
染太さん
「うちの師匠ですね。染丸のように、芸があって、おもしろい落語家になれたらと思っています。英語落語家では枝雀師匠。あんな風に僕も爆笑をとりたいですね。古典落語もすばらしいですけど、英語落語も海外で認められて、枝雀師匠にはあこがれますね。パイオニアっていうのはすごいなって思いますね」
日本ではこれまで英語落語の公演を重ねてきた2人も、今回一緒に海外で公演をするのは初めて。英語落語へ導いてくれた2人の共 の恩師『山本先生』の恩に報いるためにも、これからも一緒に切磋琢磨してがんばっていきたいと話した。
「落語という(日本の)笑いの文化が 『RAKUGO』として、世界中に広がって、例えばナイジェリアのあそこに『RAKUGO』のすごくうまい人がいるとか、カナダのあの人は『RAKUGO』がすごくうまくてね、そんな風に広がっていけばおもしろいですね。笑いで世界が平和になったらいいですよね」と染太さん。
英語落語は自分のライフワーク、日本の伝統芸能で外国の人が笑ってくれるのはすごくうれしいと語る。『世界のいろいろな人を笑わせたい』という染太さんの夢と共に、『RAKUGO』が世界中を笑いに包む日もそう遠くないかもしれない。
(取材 三島直美)
| 林家染太さん | |
上方落語家。上方落語協会、吉本興業所属。関西大学卒業後、林家染丸氏に弟子入り。現在は大阪を中心に活躍中。 |
![]() 染太さんの『犬の目』。医師が患者の目 をグリグリと・・・ |
| 加奈出庵クリス (Chris Lee)さん | |
英語落語家。2004年より日本で英語落語を始める。林家染太さん、桂かい枝さんに師事。現在は関西を中心に活躍。染太さんや他の英語落語家たちと英語落語を広めている。 |
![]() クリスさんの『胴切り』。日本女性を演じる姿がなかなか |
林家染太、加奈出庵クリス、英語落語バンクーバー公演
英語落語の公演が8月16日、バンクーバー日本語学校並びに日系人会館で開催された。出演は、上方落語家の林家染太さんと英語落語家の加奈出庵(カナディアン)クリスさん。バンクーバーでの英語落語初公演に、この日は約130人という多くの人が集まった。
出し物は、落語の解説(This is Rakugo)、時うどん(Time Noodles)、犬の目(Eye Doctor)、胴切り(Dou giri)、四人ぐせ(Four habits)、津軽三味線演奏、落語ワークショップ、南京たますだれ。
![]() 『時うどん』を演じるクリスさん |
![]() 津軽三味線も披露 |
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最初の落語の解説では、染太さんの落語独特の動作を、クリスさんが英語で解説。落語では一人で二役どころか、男性、女性、年寄り、子供、そして犬まで、5役もこなすところを紹介。扇子を用いた箸の使い方、手でお椀を持つ形を作って、どんぶりを持つなど、想像力を働かせた所作を解説した。
今回2人が披露した落語は、古典落語から4作品。染太さんの『犬の目』と『四人ぐせ』、クリスさんの『時うどん』と『胴切り』。英語落語はもとより、落語を聞くのも初めての人が多かったようで、観客は2人の一挙手一投足に興味津々。会場は、笑いと驚きのどよめきに包まれた。
盛り上がったのは、観客と一体になっての落語ワークショップ。うどんのすすり方を会場全員でトライする姿は、観客の落語に対する興味の深さが垣間見えて、この公演の大成功の証といえる。
![]() 観客を舞台に迎えてのワークショップ |
![]() 南京たますだれに初挑戦する観客。なかなかうまいと誉められていた |
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また、観客から希望者を募って、舞台の上で染太さんと一緒に四人ぐせを公演。照れながらも一人4役をこなすカナディアンの女の子を、最後は拍手喝采で称賛した。
公演が終わって、染太さんは、「舞台に上がる前は緊張しましたが、上がってからはいつもと一緒。お客さんの反応が良くて、楽しんでもらっている雰囲気がこちらにも伝わり乗っていけました」。落語は観客とのエネルギーのキャッチボール。見ている側が、演じている側のエネルギーを受け取ってくれれば、それが演じる側にも伝わり、ますます調子が出るという。「そういう意味で、今回の公演は大成功だったと思います。機会があれば今回限りというのではなく、これからも定期的に公演していきたいですね」と笑顔で語った。
バンクーバー出身のクリスさんにとっては凱旋公演。家族や友達の前で披露する英語落語にも、「全然緊張はしませんでしたよ」と涼しい顔。それでも、開幕一番に息子さんから声をかけられた時は、さすがに舞台で照れ笑い。演じる側も観客も楽しい公演となった。

なかなかうまくいかずに、苦労したBCサーモン
記者にとっても、英語落語は初体験。それにも関わらず、落語が日本語で聞いているように違和感なく頭に入ってくる感じで、『体感』できたのはなんとも不思議な感覚だった。そこには、もちろん簡単で的確な英単語を選択して英語落語を構成しているという技巧的な努力もある。しかし、なにより落語という日本の笑いが『伝統芸能』だからこそ、日本語という言葉の壁を完全に越えることができる『芸』の持つすばらしさが人々を魅了したのだろう。
落語について
落語は今から300年ほど前、江戸の中期元禄時代に上方、江戸でそれぞれに花開いた。特徴としては、上方落語は話のおもしろさに加えて、派手で陽気でにぎやかなパフォーマンスで見せるのに対して、江戸落語は、情緒や粋を大切にしたじっくりと長い話を聞かせる落語になっている。
落語家は現在、大阪に約200人、東京に400人。屋号は、桂、林家、笑福亭、橘家、柳家、三遊亭、春風亭、古今亭などがある。
(取材 三島直美)