SPECIAL 2007

2007年8月23日 第34号 掲載


日本・カナダ商工会議所ビジネスセミナー
『事業の成功要因とは?』 
〜企業の成長に伴う問題とその解決方法〜


上田和男氏

出来たてサラダを持って。うしろには美しいイングリッシュガーデンが広がる
(撮影Yukiko Onley)

Tojo's の東條英員さんも角さんのオーガニック野菜に惚れ込んだひとり。お店でも食材として使っている

 去る7月26日、聖十字教会にて日本・カナダ商工会議所ビジネスセミナーが行われた。講師はカナディアーナ並びにトリプルMハウジング両社兼任社長を務める上田和男氏。グローバルな視点と豊富な実務経験から生み出された上田氏の成功哲学に約40人の参加者は熱心に耳を傾けていた

動物的生き方・植物的生き方
 出逢いは人生の糧、つまり生きていく栄養です。人から栄養をいただくという意味で人間は動ける。植物は植物でじっとしていても堪え忍んで、自分を守るためにフィトンチッドという物質を出して生き続ける。動物は獲物を求めて動き、危険が迫れば逃げる。

 企業というのは、仕事というのは、植物的な生き方、動物的な生き方、この両方をうまくバランスを取りながらやり続けなければならない。たとえばみなさんはバンクーバーで腰を据えて事業をされているわけですが、バンクーバーという土地に根を生やすという意味では植物的な生き方になると思います。ところが、お客さんを求めて、市場を求めて動くならば、動物的な生き方が必要になります。

失敗から学ぶ
 TDKのカセットテープがオランダのフィリップ社の特許のもと、日本で最初に誕生したのが1968年。これをアメリカに売り込む際、高品質のテープだからクラシックファンを中心にやればと思い、NYフィルハーモニーの指揮者バーンスタインを広告に使いました。ところが全然売れない。なぜかと分析したところ、当時アメリカのクラシックファンは新しいものに飛びつく人はほとんどおらず、新しいカセットがいくらいいものだと言っても、録音して聴くよりレコードやコンサート会場で聴けばいいということでうまくいかなかったんです。

 今度は、大衆に訴えよう、一 の人や子供たちにもカセットを使ってもらおうということで雑誌『TIME』に広告を載せてみました。男の子には科学を、女の子には料理やドレスのデザインの内容をカセットで聴いてもらおうと宣伝したところ、ものの見事にウーマンズリブ協会からの反発が来た。「少年少女に対して、男の子には科学者になれ、女の子には料理だけやっておけばいい、なんてなんたることか。おまえのところのカセットはいっさい買わない」という猛反対を受けた。アメリカの社会というものに対する勉強不足を実感した時でした。

人は資産
 そういう数々の失敗を経て今思うことは、建物は古びて価値が下がっていくが、人は磨けば光るということです。人は資産、無形資産である。どの人にも必ずいいところがあるのですが、往々にしてボスは部下の悪いところを見つけがち。人材を外に求めて次々に変えるのはあまりよくない。その人が企画者として優秀なのか、スペシャリストとして優秀なのか、それを見極めることが大事です。

 最近読んだ本の中に「人生は絶景かな」という言葉がありました。「出逢い」という風景をいい風景として記憶にとどめるかどうかは自分にかかっている。誰しもいいところと悪いところがある。人との出逢いを絶景にもっていくためには、いいところだけをお互いに交換し合えばいい。

組織はできるだけフラットに

 いいところを生かして、「彼もうれしい。私もうれしい」という状況をつくる。うれしいことを共有するとチームの力も伸びるんです。共感できる組織にするためには、組織というものはできるだけフラットがいい。大きい会社になると、やれ会長だ、社長だ、部長だ、課長だと役職が分かれていますが、もっとシンプルでいい。あんまりタイトルをつけて層を積み上げれば積み上げるほど簡単にひっくり返りやすい。がんばった人には地 で報いるというより報酬で報いればいいんです。

 何も会社を大きくする必要はありません。少数精鋭化をした会社は伸びると言うが、それは少数でいるとその中で努力するからです。生産性が2%上がると必ず所得は4%上がる。少子化を心配する声もあるが、案外それもいいのかもしれない。個人・少人数経営の会社で大きなシェアを持っているところもある。土佐の和紙、京都の金箔の会社など世界中で引っ張りだこです。

書くことの大切さ

 小さな失敗は親分がかぶる。かぶる度 (度胸)を持っているべき。その時大切なのは小さな対話、報告です。私はレポートを書かせています。書くということで考える、それが大事なんです。失敗が続けば、報告の頻度を高める。100回言ってだめだったら、100回書けばいいんです。

 今、電卓に頼って暗算ができなくなっている人が多い。カーナビが登場して方向音痴の人が増えてきている。人間が機械に負けてしまっているんですね。書くことで鈍っていた感性が戻ってきますよ。

感性を磨く
 カナダではどんなに暑くてもセミの声は聞こえませんが、我々日本人にとってセミは懐かしい昆虫ですね。短い数日だけの人生を一生懸命鳴く音は、ある人にとってはやかましい音であるし、松尾芭蕉にとっては、「閑さや岩にしみ入る蝉の声」となる。一方、昆虫博士のファーブルは、セミの聴覚に疑問を抱き、実験の結 、セミは自らの大きな鳴き声にも、近くの大砲の音にさえも反応しないが、外敵が忍び寄る微かな音には極めて敏感であることを発見しました。これは感性の問題。セミに学べということではありませんが、感度は磨いておかなければ。

 今、鈍感力という言葉が聞かれるが、鈍感力と敏感力、両方大切。生き方をまじめに一本線でいくのでなく、もう一本あるといい。絵のひとつも描いてやろう、下手な俳句でも作ってやろう、バイオリンなどなんでもいいから趣味なら趣味を高めてエセ芸術家になるんです。そうやって右脳を刺激することがこれからの事業にいい、とすでにいろんなところで証明されています。現にアメリカ、フランス、イタリアのファッション業界でもデザインの感覚とビジネスがフィットして成功を収めている。日本の森英恵にしても然り。2つの世界を知っていることで経営に幅が出るんです。

『不常識』と『非真 目』
 次に沈黙は金、雄弁は銀なのか?ということですが、これはイギリスの言葉で、もともとはドイツ人が作ったもの。ドイツは当時銀本 制で銀の価値が上、ということは雄弁の方が上だったんです。何が言いたいかというと、会社では困った状況にあるとき、だまっていては変わらない、トップはちゃんと喋らなくてはということ。雄弁であることは大切です。

 Googleの社員は仕事中、2割は自由に過ごしていいのだそうです。遊んでいてもいい。遊びの中にも学びがあるんです。Googleマップもそういうゆとりの時間から生まれてきた。充電は大事。真 目一本じゃだめだということです。猪突猛進だけはやめてほしいですね。人のまねをするな、常識にばかりとらわれないで人と違うことをやろうということです。非常識は困るが、”不“常識を実行して欲しい。あまり真 目に考え過ぎない。『不真 目』もよくない。『非真 目』くらいでどうですか?と言いたいのです。

 このように次々に具体例を出しながら展開していく上田氏のトークに、会場の参加者は引き込まれ、内容盛りだくさんのビジネスセミナーはあっという間に終わった。最後の質疑応答で、「今まで事業をして一番楽しかったことは何ですか?」と問われ、「一緒に仕事する人たちと共感できたこと」と答えた上田氏の言葉が深く印象に残った。


(取材 西澤律子)

《上田(こうだ)和男氏プロフィール》

慶応大学経済学部卒業。住友金属工業勤務後、米国シラキュース大学院にてMBAマーケティング専攻。その後は米国TDK副社長、代表取締役支配人などを歴任し、東京本社においてTDKブランド世界No.1達成に尽力。1996年に来加し、アルバータにてカナディアーナ・トレーディング設立。同年、トリプルMハウジングを買収。現在、両社の代表取締役社長を兼務。兵庫県出身。67歳。