SPECIAL 2007
2007年7月26日 第30号 掲載
![]() 誰にとっても興味深い講演内容に約125人が参加 |
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![]() 豊富な事例とわかりやすい話で講演をすすめる井上正康教授 |
![]() 井上教授の話に聞き入る参加者 |
「活性酸素と老化制御」など多数の著作で知られる大阪市立大学医学部大学院医学研究科・生化学分子病態学講座教授・井上正康(いのうえまさやす)氏の講演会が7月5日、リッチモンドのJEIC(JTBエデュケーショナル・インスティテュート・オブ・カナダ)で行われた。主催はJEICとJTBインターナショナル・カナダ・リミテッド。会場には堅苦しくなく、わかりやすい教授の話を聞こうと約125人が集まった。
「人生、最後までしっかり愉しまなくちゃ」司会の桐島洋子氏の挨拶
井上教授の講演に先立ち、今回の企画が実現するきっかけとなった桐島洋子氏が挨拶のスピーチを行い、教授とその夫人で現役の精神科医の井上啓子氏を紹介。「教授との出会いは4年ほど前、東京で開かれた医学シンポジウムに講演のため参加した時のこと。難解な講演が続く中、私の耳がピピっと反応する話があって、内容もわかりやすく面白かったのが井上先生の講演。これは興味深い人物と思い、講演後に挨拶をしたのがきっかけでした」と教授との運命の出会いについて語った。
高齢化社会における生活の質の向上を考える
講演の冒頭、井上教授は自分の研究活動(分子生物学、進化論)から一歩踏み出して取り組んでいるテーマを紹介。それは人が死を迎える直前まで、思い切り豊かに元気で生き抜けられる社会を作れないかというもの。そこから80歳が主役のファッションショーの発想が生まれ、毎日の生活の中で美しいサイクルを作り出し、医者要らずの健康世界を作ろうという活動が始まったそうだ。
「活性酸素は悪者」説を検証する
話題は井上教授の研究活動から酸素にまつわる話に移る。活性酸素という、電子が一個余分に付いて他のものと反応しやすい酸素の仲間は、相手の組織の機能を低下させる諸悪の根源ということで、健康関連の話題ではよく聞く名前だ。
まず教授は、活性酸素が悪者と呼ばれる理由をいくつか紹介した。宇宙物理学者のホーキンス博士が患っている筋萎縮性側索硬化症(ASL)は、活性酸素を分解する酵素(SOD)が突然変異をおこし、たった一種類の活性酸素を処理できないために運動神経が侵される難病。そのほか心臓の血栓(致死性の不整脈を起こす)や脳卒中、そして自律神経のバランスの崩れからおこる潰瘍まで、活性酸素が関与していたことが動物実験などからわかってきたことを、教授はスライドを駆使して説明した。
また血管を収縮させて、高血圧を引き起こすのもスーパーオキサイドという活性酸素。ところが血管を拡張させて血圧を下げるのもNOと呼ばれる、別の活性酸素ということがわかってきた。
「つまりこのふたつのバランスによって血圧が制御されているのです。NOとスーパーオキサイド、この二つの活性酸素の存在(バランス)が血圧に必要不可欠だったのです」と教授は語る。
心筋梗塞、脳卒中など人生にとどめを刺す役割も果たす活性酸素だが、一方で人間に血圧というものを持たせ、非常にアクティブに動く動物にしている。つまり生きていくうえで最も重要な分子だったというわけだ。
「原理主義的に白黒つけるのはよくありません。体の中に出来るものはそれなりに存在理由があります。白か黒、または善玉悪玉という考えは危険だということです」と教授は指摘する。
生物進化の観点から見た活性酸素の役割
さて話題は生物進化に活性酸素が果たしてきた役割へと移る。生物の進化の歴史は水中から陸上へ、そして空中へとその活動範囲を広げてきた歴史でもある。
同じようなプロセスは今でも、例えば水中で生活するオタマジャクシがカエルに変態して陸に上がる様子で見ることができるが、このプロセスを起こしているのが実は活性酸素だったと井上教授は説明する。
「甲状腺ホルモンという、エネルギーの代謝を加速するホルモンがありますが、これが増加すると活性酸素のNOも増加します。これを投与されたおたまじゃくしは十分に大きくならないうちから変態し、あっという間にカエルになってしまいます。活性酸素によって尻尾の筋肉の細胞は殺されるのですが、そのタンパク質が手足を作るアミノ酸に生まれ変わるのです」
つまり活性酸素が引き起こす局所的な細胞の自殺が、新たな体の一部の発展に結びついているわけだ。長い進化の中でこれをコントロールしてきた活性酸素は、生物が生きるための最も重要なソフトだったと言えよう。
種の保存にも不可欠な活性酸素
また種の保存にも活性酸素が重要な役割を果たしている例を井上教授は紹介する。
活性窒素(NO)による血管拡張は、自分の遺伝子(精子)を外に射出するために必要不可欠な存在であり、また一方女性の遺伝子を外に出す機能(排卵)にはスーパーオキサイドが関連していることもわかってきた。
活性酸素がなければ、こうして遺伝子を旅立たせて種の保存をすることも出来なかったわけだ。
陸上にあがった動物の4つの試練
ところで進化の過程で水中を離れた動物には、4つの試練が待っていた。それは飢餓、怪我、感染、塩分の不足である。これらを克服(それぞれ血糖維持力、止血力、免疫力、Na輸送系が対応)することで、優れた生命としての進化を遂げてきた。
しかし産業革命以降人類は生物が作る以外のエネルギーを手にし、4つの試練への対応を行き過ぎた方向に加速してしまった。すなわち飢餓には飽食、糖尿病、怪我には動脈硬化、感染にはアレルギー、乏塩には高血圧というように。そして野生動物の本能としての仕組みと、このハイテク生活環境のミスマッチが生活習慣病を引き起こす結果となった。
【以下後編につづく】
(取材 平野直樹、 写真提供 ケイコ・アイ)
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井上正康(いのうえまさやす)教授
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