SPECIAL 2007

2007年7月5日 第27号 掲載


夢、実現への一歩 コンサート&ディナーショー
SOME ENCHANTED EVENING To Share, with a Gift of Music


“3人3様、好きな歌のジャンルもスタイルも違いますが、いつかカクテルやディナーをいただきながら自分たちの歌をきいてもらうイベントができたらという夢を抱いておりました(招待状のメッセージより)”


パートIIでは、3氏がおそろいのタキシード姿で。『千の風になって』からスタート、『My Way』そして『そっとおやすみ』で静かに幕を閉じた


ディナーショー実現の裏には、奥様方の尽力も

 6月24日リッチモンドのラディソンプレジデントホテルにおいて、カンツォーネの松本守隆さん、ジャズの福田辰平さん、演歌の渡邊宣之さんの3氏によるコンサート&ディナーショーが、日頃親しくしている人々100人を招いて盛大に行なわれた。バンクーバーの日系コミュニティには大小含めて数多くのカラオケ同好会があり、定期的に発表会を開いている会もあるが、ディナーショーという形態でアマチュアのカラオケ愛好家が主催するのは、バンクーバー日系社会史上初の試みである。

(取材:佐倉ななみ 写真提供:後藤えむ)




夢、実現へと至るまで
 もともと3氏が歌好きであったのは言うまでもないが、歌仲間として、福田さん宅で月1回カラオケの会を開くようになってから、すでに10年の歳月が流れている。その間、還暦を迎えたり、UBC教授を退官するなど人生の節目にあった松本さんには、記念行事として自分のリサイタルができればとの漠然とした考えがあった。しかし、タイミングが合わなかったり、踏ん切りがつかなかったりでなかなか具体化に至らなかった。今回は「3人がいっしょならば」、そして「体力気力ともに余裕がある今がチャンス」と、思い切って一歩を踏み出すことができたという。

素敵な宵の幕開け

 開演に先立ち、午後6時からは、ディナーが始まった。食事を楽しみながら懐かしい友人たちとの話に花が咲いたところで、会場はディムライトに包まれ、パートIの第1曲目『見上げてごらん夜の星を』が、カクテルの香り漂ういい雰囲気のなか、なだらかに始まった。松本さんは、黒のスーツに黒のサングラス、赤のネクタイに赤のポケットチーフ。そしてソフト帽という完璧なダンディールック。渡邊さんは、白のジャケットに黒のズボン、黒の蝶ネクタイがシルバーグレーの髪や銀縁の眼鏡と上品に調和している。そして福田さんはグレーのスーツにグレーの蝶ネクタイ、白のポケットチーフが一輪の花のように光っている。3人3様の衣装が、ステージ前方に飾られた季節の紫陽花の花と、真っ赤なビロードの背後幕に見事に映えている。

3人3様の魅惑のステージ

 1曲目が終わったところで、松本さんが英語で感謝の挨拶を述べ、パートIでは『魅惑の宵』『Al di la』『lo che non vivo』『O sole mio』を、パートでは『Caro mio ben』『Se piangi, se ride』『Carengrato』『Add登, addio』とカンツォーネの世界を太いテナーで歌い上げた。カンツォーネとの出会いは、松本さんが日本の大学在籍中2年目に休学して、イタリアに飛び立った1960年にまで遡る。当時、ローマにも日本から政府留学生たちが来ており、松本さんも一緒にカフェなどに足を運んだりしていたが、「そういったところで彼ら(政府留学生たち)はすっくと立ち上がって歌っちゃうんですよ、カンツォーネを!ベースの人ですごい方もいらっしゃいました。その方たちによって、カンツォーネってものが自分のなかで目覚めていったというか、これは素晴らしいと感銘を受けたわけですね」と語る松本さんは、ステージからその青春の一頁を届けてくれたのだった。

 演歌の渡邊さんのステージになって、会場の雰囲気はガラリと変わる。渡邊さんの歌は、カラオケではお馴染みのバージョン、前川清『薔薇のオルゴール』、谷村新司『三都物語』、石川さゆり『歌、この不思議なもの』、パートでは細川たかしの『佐渡の恋歌』、岩手県の歌で『南部酒』、そして『ありがとう…感謝』。大スターたちが歌う歌は、定着したイメージがあるものだが、渡邊さんはしっとりとしたハスキーな声と、高音になると気持ちいいほど透明感に溢れる声で、しっかりと渡邊節を届けてくれた。大スターの影を感じさせない渡邊節が、心の琴線にふれたというオーディエンスも多かったのではないだろうか。

 そして会場は、ピアノとベースの響く福田さんのジャズの世界へと導かれていった。パートIの『What's new?』『A Portrait of My Love』『Lullaby of Birdland』『Love is a many-splendored thing』では、非常に余裕のある落ち着いた歌いこなしで、ジャズの世界を広大なスケールで歌った。パートでは『When Joanna loved me』『It's a sin to tell a lie』『Love is here to stay』『September of My Years』などを通して、ジャズのセンチメンタルでいてかつクールな魅力を多彩な角度から見せてくれた。足でリズムをとる人、テーブルで指をトントンとさせながらテンポを楽しむ人も見られ、ライヴ感を堪能するいっそうの盛り上がりとなった。

無事、ショーが終わって

 ショーが終わったあとも、楽屋では、途切れることなくお祝いにかけつける友人・知人たちと喜びを分ちあう、まだまだ興奮覚めやらぬ3氏の姿があった。夢、実現直後の気持ちを聞いてみた。


舞台に挑戦していきたい― 渡邊宣之さん


渡邊宣之さん

 今、終わってホッとしたということと、3人でこうしたショーが実現できたということが夢のようですね。そして裏方で支えてくれた方たちに感謝です。僕たちは歌を歌っているだけでしたが、音響演出担当のミキサーのスタッフたちは、僕たちの希望通りにやって下さったんです。彼らは日頃のカラオケ仲間で、お願いしたらすぐにOKして下さったんですよ。相当大変だったと思いますし、僕たちよりも神経を使ったのではないかと思うんです。この方たちが一番の立役者だったんじゃないかと思っています。

 僕はすでにリタイヤしていますが、数年前に家内が亡くなりましてね…。一番聴いて欲しかったのは家内ですが、きっとどこかで聴いていてくれたと思います。これからもどんどん歌を歌って、できたら舞台に進みたいです。日本でのカラオケの全国大会にも参加していきたい。遠藤実先生という有名な方にも何度もお会いして、受賞もいただいているんです。僕はこれから歌しかない。死ぬまで歌っていきます(笑)。本職じゃないですけど、好きですから(笑)


自宅でのカラオケの輪をこれからも―
 福田辰平さん

福田辰平さん

 間違えずに終わったということで、ホッとしています。足はガクガク、喉はガラガラです(笑)。今日の選曲の基準ですか?僕が普段好きで歌っている歌というか、好きで歌いたいジャズの歌は、あまりカラオケではないんですよね。だからどうしてもカラオケのディスクがあるものでないと歌えない。女性用のジャズは結構あるんですが、僕のキーに合わせて機械で変えると、音がちょっと悪くなったりするんです。ディスク自体もなるべくよい音のものということで選曲したり、そういった部分での苦労はいろいろとありました。

 今後の予定は特にはありませんが、自宅でカラオケをやっているので、いろんな方が集まります。演歌あり、シャンソンあり、カンツォーネあり、スタンダードなものも、韓国の歌までありでいろんな歌を皆で楽しく歌っていきたいですね。


オペラのアリアが目標― 松本守隆さん

松本守隆さん

 歌というのは、『歌、この不思議なもの』と渡邊さんが歌ったように素晴らしいパワーを秘めていると思います。日本の歌でもそういうタイトルのものがありますが、私がとりあげたイタリア語の歌にもそれに近いものがあって、パワーを人にあげる、エンパワーメントと言うんでしょうか、アモーレってあるじゃないですか。私はアモーレが、とても重要に思えるんですね。アモーレなくして生きる意味はない気がしますので、私はアモーレを歌い続けていきたいと思っています。

 現在、クラシックのボイス指導を専門の方にお願いして、2年くらい勉強しています。しかし、年をとってくると、ハイCという高音のドの音を出すのがなかなか困難で、今はBフラットあるいはAの辺りで止まっているんです。しかし、実際80歳くらいまで歌えるという話ですから、BからCまで出せるように頑張って、ぜひオペラのアリアに挑戦していきたいですね。