SPECIAL 2007
2007年4月19日 第16号 掲載
![]() 有機食品、有機農業、環境問題の専門家、矢崎栄司氏 |
![]() 約20人が参加し満席の会場 |
![]() 会場となったウエスト・コースト・ガーデナーズ・コープ |
2007年3月25日の午後1時から約5時間にわたり、日本から来加した有機食品、有機農業、環境問題の専門家である矢崎栄司氏を迎えて、講演会「日本の食ビジネスと有機農法」が開かれた。会場となったのは「バンクーバー・ジャパニーズガーデナーズ協会」のウエスト・コースト・ガーデナーズ・コープ。約20人が参加し、矢崎氏を中心にして机が円状に配置された会場は満席。コーディネーターのサム草柳氏自らが厳選したおいしい有機コーヒーとお茶菓子を楽しみながら講演会は始まった。
農業や環境問題に関するさまざまな活動
まずは矢崎氏の簡単な自己紹介から。もともとライター、レポーターをしていたが約20年前から食や環境の問題に関わるようになり、仲間と一緒に生活しながら農業に取り組み、さまざまな活動を行うようになったという矢崎氏。自ら米作りをしたり、本を出したり、各地を見て回って報告するという生活をしている。また「農業と動物福祉の研究会」という会では豚の放牧も行っているとのこと。
昨今の養豚業ではほとんどの場合、豚をせまい柵の中に入れたままで運動をさせず、眠るのも糞尿をするのもすべて立ったままという状態。これは不衛生であるばかりでなく、豚たちにとって非常にストレスがたまることだ。そのため病気にかかることが多いので抗生物質を与えられ続けた豚は薬漬けになっている。早く大きくするためにも薬がたくさん与えられている。
また豚だけでなく牛についても、運動させない、脂肪を燃焼させない状態で育てられており、やはり牛たちも病気にかかっているのだと矢崎氏は語る。運動させない、脂肪を燃焼させないのは、乳牛の場合は牛乳の味が薄くならないようにするため。肉牛の場合は運動させると肉が固くなり牛肉としての価値が下がるからだという。コクがあり脂肪分の多い牛乳を作るため、カロリーの高いものをどんどん食べさせられている乳牛はほとんどが脂肪肝にかかっている。病気をわずらっているため、やはりこの場合も牛たちには薬が投与され、薬漬けになっている。
また「霜降り」と呼ばれる牛肉は、牛の身体の筋肉内へ人工的に脂肪を入れて作られる。「霜降り」牛肉にされる牛たちも同じく病気なので、自分で歩くこともできず目も見えなくなっている。牛たちは病気にかかっているため、内臓の廃棄率が8割なのだという(つまり食用にすることができない状態になっている)。
そのような現状に疑問を抱いた矢崎氏が始めたのが「農業と動物福祉の研究会」だ。動物にも感情があることをふまえ、豚が自然のなかで太陽の光をあび、自由に仲間とたわむれ健康的に育つことができるよう配慮して放牧を行っている。
著書の紹介
ここで矢崎氏が今回日本から持参したという3冊の著書について紹介。まず1冊目は『玄米酵母で腸スッキリ、体若返り健康法』。この本では玄米から作られた玄米酵母と日本人になじみの深い麹菌を用いた健康法について紹介している。麹菌は酵素を出すことが知られているが、人間の身体のなかでもさまざまな酵素が作られている。例えば消化酵素。アミラーゼと呼ばれる炭水化物を分解する酵素に、リパーゼという脂肪を分解する酵素、そしてタンパク質を分解する酵素としてプロテアーゼがある。その他肝臓ではアルコールを分解する酵素も作られている。そのように人間の身体に欠かせない存在である酵素だが、玄米の酵素で健康になる方法を解説したのがこの本だ。
2冊目は『危機かチャンスか、有機農業と食ビジネス』で、この本では矢崎氏が20年前に有機農家約30人に行ったインタビューがまとめられており、日本の有機農業の歴史や流通について解説した専門的な本だ。
最後に『おいしいね!と喜ばれる食ビジネス7つの秘訣』。これは有機農業にたずさわる若い人たちを紹介したもので、前述の本よりも一般の人が読みやすいようにまとめてあると矢崎氏。この本ではいろいろなケースを紹介しているが、例えば果樹園の例が興味深い。これはぶどう園でバーベキューやダンスなどのイベントを行ってみたところ非常に好評で、そのうち結婚式をしたいという申し出があり試しにやってみたらとても喜ばれ、1年間に250組も結婚式を行うまでになったというもの。さらに結婚式の後食事も楽しめるようにと隣接してレストランをオープンし、地元の魚やワインを提供するようにしたところとても評判がいいので全国展開を始めたなど、既成概念に捕らわれない新しい農業ビジネスが紹介されている。
参加者も皆それぞれ自己紹介
さて矢崎氏の自己紹介と著書の紹介が終わったところで、次は参加者も一人一人自己紹介しましょうという提案があり、円状に並んだ約20人の参加者も端から一人ずつ何か話をして、それに対してまた矢崎氏または他の参加者がコメントするという全員参加型の講演会が始まった。参加者にはマクロビオティックを実践している人、有機野菜を作っている人、アレルギーのある人、オーガニックの土で野菜を作りたい人、自分で野菜を作っている人、実家が農家の人、痛風で肉が食べられなくなった人、健康で長生きするにはオーガニックがいいと思って参加した人、ジャパニーズ・ガーデナーズ協会の人、玄米酵素に興味があり参加した人、有機野菜が食べたいが虫は苦手な人、有機玄米菜食をしている人などさまざまな人がいた。
そのなかから少し紹介すると、「有機野菜が食べたいが虫は苦手な場合どうしたらいいか?」という問いに対して矢崎氏はこう語る。農薬漬けになっていない、いい土のところにはいろいろな虫や生物がいる。もうほとんど見なくなったような虫や生物がたくさん。それがこわいのは得体が知れないものだから。自然界ではシステムが非常によくできていて、どの虫にもちゃんと天敵の虫がいて、常にバランスが取れており、うまくなっている(虫を食べるカエルやカマキリなど)。そういった自然のシステムに関わって、そのしくみを分かってしまえば全然怖くない。むしろ「この虫がいてくれてよかったな」と思えるようになる。都会の人はそれを知らないから虫が突然出てきたように思い怖いと感じる。すべては心の持ち方であるとのこと。
ちなみに最近は、農薬を使わずコショウのスプレーなどを利用して、有機栽培でも虫食いではないものも出ているそうだ。また耳寄りな有機野菜の育て方も参加者から紹介された。それはオーガニックの土とシーソイルを半分ずつ混ぜたものを穴を開けたビニール袋に入れ、畑に半分くらい埋めるというアイディア。袋の中は暖かいため野菜が育ちやすいし、害虫も来ないそうだ。特にトマトを育てるのに最適だとか。
全員参加型となった講演会は大いに盛り上がり、当初2時間の予定だったのが5時間に延長され、盛況のうちに幕を閉じた。近頃注目が高まる一方の有機農業。日本では最近、農業をやめていく人がいる一方で新しく始める人もどんどん増えており、また有機食品のマーケットも拡大を続けているという。カナダでも日本でも有機農業は今後ますます盛り上がっていくことだろう。そしておいしく安全で栄養価も高い有機食品が、安価な値段で手軽に手に入るようになればうれしい限りだ。
(取材 Aya Kitagawa)
※矢崎栄司氏のインタビュー記事も別の号で紹介する。
| ● 矢崎 栄司氏 プロフィール
● 1948年 静岡県富士宮市生まれ 1971年 上智大学法学部卒業 1971〜1973年 東洋経済新報社営業局勤務 1973〜1982年 ファストフード、飲食など食ビジネスの現場や インテリア関連の現場体験 1982年 柴田敬三事務所および(株)パン・クリエイテイブに入社。 雑誌等の取材・編集活動を始め、大学生向けフリーペー パーの編集人を務める。 1986年 出版社(株)ほんの木の設立に参画。取締役。 エコロジーと国際化の情報誌『アップデイト』で政治・経済・社会問題や環境、市民活動等について取材活動を行う。後に『アップデイト』編集人。 その後20余年にわたって環境・食・有機流通にかかわり、社会問題としての視点から執筆活動を行うほか、自ら米づくりを行い、自然共生や動物福祉をテーマとした豚放牧事業の企画作りをするなど、日本の食農の未来に新しい提案を行っている。 現在、(株)ほんの木、(株)パン・クリエイテイブ取締役。ワースワークルーム主宰。「農業と動物福祉の研究会」会員、生物と共生する農業の確立をめざす「アグリネイチャースチュワード協会」の講師、日本獣医生命科学大学でベンチャービジネス実習の外部講師を務める。 編・著書に『緑の企業になる方法』、『長寿元で完全無農薬革命』、『漢方家庭薬湯入浴法』、『日本人は国境を越えられるか』、『女は地球を愛してる』、『危機かチャンスか、有機農業と食ビジネス』、『あなたにもできる「おいしいね!」と喜ばれる食ビジネス7つの秘訣』、『玄米酵素で腸スッキリ、体若返り健康法』などがある。 |