SPECIAL 2007

2007年4月5日 第14号 掲載


私のカナダ物語
オカナガンの豆腐屋さん シュスワップ豆腐
星和見さん、裕子さん夫妻


家族での楽しみはスキーという星ファミリー

  バンクーバーから475km、ケローナから76km北方、「美しい谷」の意味を持つスパルムチーン谷にあるアームストロングは人口約4000人の町だ。ここに暮らす星夫妻は豆腐屋を営んでいる。夫の和見(かずみ)さんは朝6時には家を出て、数キロ先の仕事場へ。妻の裕子(ひろこ)さんは子どもたちを学校に送った後、仕事場へ。夫婦二人で豆腐・油揚げ・厚揚げ・がんもどきを作る。豆腐作りは1回40丁を日に数回。帰宅は7時近くである。週に一度は5〜6時間車を走らせてグレーターバンクーバーエリアの小売店やレストランへ豆腐の配達に出向き、隔週で個人宅を回る。「おいしい豆腐をありがとうございます」。そうした顧客の声を聞くのが喜びだ。

子育てするならカナダで
 星和見さんは東京・蒲田で父が営む豆腐屋を、父の病気のために20才の若さで引き継いだ。豆腐作りは曽祖父の代からのものである。店を開ければ客がやってくる。そうしたなかで和見さんは両親の分まで働いた。そこへ裕子さんが嫁いで手伝いを始めたことは大きな力になった。父に続いて、母も他界し、家庭が暗くなっていた頃、長女・尚子さんが誕生。新婚旅行でカナダ・ウィスラーを訪れた1985年に星夫妻が心に描いたのは「将来自分たちの子どもはこういうところで育ててみたい」という夢だった。長女の出産を期に海外移住に踏み出すことを決めた。

適度な田舎を求めて
 永住ビザは豆腐製造業のビジネスを起こすことですんなりと下り、一九八八年カナダに移住。ビザ申請の通り、カナダで豆腐屋を始めることに決めた。売れるかどうかといった心配や、市場調査をしなくてはという考えはなかった。「だめならやめればいい」。移住も仕事も、行動から始まった。最初の4年間はバンクーバーに暮らしたが、自分の居た東京に似てきたと思い、「せっかく国を変えて来たのだから」と都会を避け、しかしながら不便すぎない場所を選んだ。それが現在の居住地・アームストロングである。

年を重ねて自分の作りたい豆腐を実現
 星さんの作る豆腐は木綿豆腐。混じりけのない素朴な味であり、豆の凝縮されたコクと食感が味わえる。

 素材のおいしさがそのまま伝わってくる豆腐だけに、材料が知りたいと星さんに伺ったところ、大豆はカナダでは適当なものが見つからないために、日本から取り寄せているそうである。また豆腐作りのいろいろな要素のなかでも、出来に違いが出るのは凝固剤の「にがり」と考える星さんは、天然にがりを使っているという。天然にがりはカナダには出回っていないため、それも日本から取り寄せている。それだけコストはかかるが、「それなりのものを作ろうと思ったら仕方のないこと」と星さんは語る。

 妻の裕子さん曰く、星さんは肩肘張った職人気質の人ではないが「自分なりの作りたいものには真面目に取り組んでいて、あとは楽しくやっていますね」。そして共に豆腐作りに励んできた裕子さん自身、「やっと自分の作りたい豆腐が作れるようになってきた」と年を重ねて磨いてきた技術に手ごたえを感じている。

勝手の違い

 日本では店さえ開けていれば、客はどんどんやって来て繁盛した。しかし「こちらでは自分から売りに行かないといけない。それが一番違うところ」と裕子さんは語る。また何か一つ壊れても日本では電話一本かければすぐに修理に来てくれたが、こちらではそうはいかない。そうした環境のなか、「当たり前ですが」と前置きして星さんは、できる限り自分のことは自分でする、とかく日本と比較してしまいがちだが、それをしないように心がけているという。

にぎやかファミリーの楽しみ
 冬の楽しみは近郊の山・シルバースターでのスキー。シーズンパスを買って何度も足を運ぶ。家族で楽しんできたスキーだが、現在は「一番良く行くのは俺」と星さん。4人の子どもはそれぞれ、尚子さんが20歳、奈々江さんが17歳、陽平君が16歳、登志子さんが14歳と成長し、「(親である自分たちに)たまに付き合うけれども普段は友達と遊ぶほうが中心」という年代になった。

 カナダに移住して良かったと思うことを尋ねると「ふり返って何かを思うほどの生活(人生)を送ってきたわけではないので(これといったものは)ありませんが、ひとつ言えるのは、ここにいなければ四人の子どもたちに恵まれることはなかっただろうと思います。そのことはありがたいと思っています」(和見さん)。4人の出産を決めたことは「日本人が少なく、親戚もいないこの土地で、何かあったときに助け合えるように」(裕子さん)という思いがあってのことだ。

 子育てを経験して、裕子さんはアームストロングの良さの一つに「子どもたちにいろんなチャンスが多いこと」を挙げる。街中の生徒数の多い学校ならば、スポーツも音楽も上手な子どもだけが活動メンバーに選ばれるが、中学、高校とも一つしかなく人数の少ないアームストロングでは、上手でなくても機会が得られるのだという。

 毎晩、星夫妻は夕食後に辺りを一時間程度散歩する。体に吸い込んだ自然の息吹と子どもたちの笑顔が明日の仕事への活力だ。「子どもを育てて、身体の続くかぎり仕事をしていければ」。それが今の星夫妻の願いである。


(取材 平野香利)

シュスワップ豆腐
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