MAPLE 2007

2007年12月6日 第49号 掲載
 
カナダ駆け足横断記
前編


 日本の27倍という広さをもつカナダ。地方によって気候や特色などもまったく異なることだろう。ガイドブックとにらめっこしているだけでは何もつかめない、はじまらない。そうだ、旅に出よう。というわけで、8月の1カ月間、カナダを巡る旅に出た。

(文と写真 いいのまさき)




ボウ川から望むロッキーマウンテン(アルバータ州)


どこかの街の青空


 

●バンクーバー島


 最初の目的地をバンクーバー島に決めた。ただフェリーに乗っていくのもおもしろみがない。そこで私は自転車にまたがった。自転車に乗るなど何年ぶりだろうか。サドルに腰掛ける違和感にとまどいつつもマイルゼロからスタートした。ビクトリアから110km先のナナイモを目指す。地図を持たない私にとってはロードサインだけが道しるべ。


旅のはじまりマイルゼロ



 自転車での旅の天敵は2つある。まずは上り坂。延々と続く上り坂に何度心が折れてしまっただろうか。上っても上ってもまだまだ上り坂。快調に下り坂を走り抜けてもそこに待っているのはまたしても上り坂。疲労から、ちょっとした上り坂でも悲鳴をあげるようになってしまう。日頃の運動不足をこんなところで恨む。

 次に雨。自然には勝てない。傘を差しながら乗るわけにもいかず、残された道はただただ濡れるだけ。体は冷え切っていき、さらに体力は奪われる。

 トーテムポールの街ダンカン、壁画の街シュメイナスなどに寄りつつナナイモに到着。苦労してたどり着いた街はそれだけで良く見えてしまう。そんなあたたかな街ナナイモで身体を休め、バンクーバーに戻る。

 バンクーバーに戻ってきたときに残ったものは疲労感と、それを上回る達成感だった。旅のウォーミングアップとしては最適であった。もう準備は整った。つぎは長距離バスを乗り継ぎ東を目指す。


半焼したナナイモ駅

教会と山





●バンフ


 バンクーバーからバスに揺られること14時間、バンフに到着。ロッキーマウンテンの玄関の街。バス停からの景色で満足して立ち去ろうかと思ってしまうほど美しい。

 空の青と山の緑のコントラスト。これに勝るものはない。カメラをポケットにしまっても、すぐに取り出さなければならなくなってしまう。ひとつひとつの景色が美しい。川と山、教会と山、コーヒーショップと山など、どこからでも山を望むことができる。ほんとうに山に囲まれていて、街からすぐにハイキングに行くこともできる。

 河原でバーベキューなんてこともできる。カヤックなどの川遊びも楽しい。街から簡単にアウトドアができるバンフ。新鮮な空気をたくさん吸い込み次の街を目指す。


ユーコン川のほとり



●ホワイトホース


 カナダといえばオーロラではないだろうか。寒さにはめっぽう弱い私はあきらめていた。真冬の極北なんてとても私には耐えられない。しかし、夏でもオーロラは見えるらしい。それを知った私はホワイトホース行きのバスに乗り込んだ。

 バンフからホワイトホースまでは乗り継ぎを重ねて36時間。夏といっても早朝のホワイトホースは、10分も外に立っていれば凍える思いだ。あまり時間のない私は1日の滞在しか許されない。一夜にオーロラを賭けている。

 どのようにしたらオーロラを見ることができるのだろうか。真っ暗闇でしばらく夜空を眺めていれば見ることができるのではないだろうか。街灯の光もない街外れまで行けば見られるのだろうか。そう考えた私は光のない方を目指した。

 オーロラを見るにあたって注意すべき点が2つある。まずは寒さ。これは最大限の防寒着を着込めばなんとかなるだろう。上半身にばかり気をとられずに下半身にも目を向けていただきたい。足先の冷え込みはあなどれない。

 次に熊。これは出会ってしまったらしょうがない、というよりはどうしようもない。出会わないことを願うだけだ。あまり人のいない光のない場所なのだから熊に出くわす可能性も高くなるが、そのぶんオーロラにめぐりあえる可能性も高くなるので我慢することにする。なるべくなら熊などには出会いたくない。いや、絶対に出会ってはならない。


どこかの街のサインの森

 

 街灯の数が少なくなるにつれて、見える星の数が増えていく。ひとつひとつ、また増えていく。まったく光のない世界にたどり着いたとき、そこに広がるのは満天の星空であった。あとはここで寝ころびながらオーロラを待つだけだ。それにしても、同じ空のはずなのに、光がないだけでこんなにも美しい世界が広がるなんて。数え切れないほどの流れ星。願うことはただひとつ、「オーロラが見られますように」それだけだ。

 光も音もない世界に訪れるのは寒さ。足先は完全に冷え切ってしまっている。小刻みに足先を動かしていてもだんだんと固まっていく。寒いというより冷たい。いつになったらオーロラは現れてくれるのだろうか。

 結局、オーロラの女神は微笑んではくれなかった。オーロラはそんなに甘くなかった。しかし、これも旅の醍醐味として受け止めなければならない。自然に逆らうことはできない。またこの街に訪れる楽しみができたからいいではないか。素敵な星空に出会えたのだからいいではないか。

 ホワイトホースを訪れたことに後悔はない、満足している。オーロラに後ろ髪を引かれながらも星降る街に別れを告げた。

 


●ウィニペグ


 その街を訪れる理由はなんだろうか。友達がいるから。有名な何かがあるから。人に勧められたから。ガイドブックなどに掲載されていて知名度があるから、などなど。それともうひとつ、なんとなく寄ってみた。そんな感じで、中間地点なので寄ってみた街ウィニペグ。しかしそんな街にこそおもしろさはあり、期待がある。何も情報がないからこそ、新しい発見ばかりでおもしろいのではないか。

 どうやらウィニペグには世界一有名な熊「くまのプーさん」のモデルの銅像があるらしい。ぜひ拝見してみようではないか。地図のない私はなんとなく歩を進めた。だいたいの方向はわかっている。なんとなく寄った街なので、なんとなく進んでみるのもおもしろい。距離もわからないままひたすら歩き続ける。そこに待っていたのは迷子だった。完全に迷子、ココハドコ、ワタシハダレ。

 だからといってあせる必要はない。街の人々が案内人で、本屋に行けば地図だってある。遭難とは訳がちがう。本屋に飛び込んで地図を確認してみると、あながち間違った方向に進んでいたわけではない。自分の勘の良さにほれぼれする。そんな苦労も重ねながらたどり着いた熊の銅像。かわいらしいというよりも凛々しかった。

 バス旅の楽しみのひとつに、食事休憩などで立ち寄る小さな街がある。絶対にガイドブックなどには載ってないような、本当に小さな街。挨拶程度の会話だが、その素敵な笑顔に旅人は心を癒される。そして、名前もわからない街だが好きになる。

 そこに広がる景色も忘れられない。木々を見るとだんだんと色がつきはじめている。紅葉はもう始まっている。そんな秋の訪れをかみしめながらバスはトロントに到着した。次は本格的な紅葉を求めてさらに東に進む。

(続く)

 


くまのプーさんのモデル