SPECIAL 2006

2006年12月14日 第51号 掲載


自分で守る健康 <特集2>
カナダの医療機関の利用法
BC州医療制度のあり方を理解しながら賢く利用


田中朝絵医師

 今年8月、高血圧と知りながらも、ファミリードクターを持たず、医療相談もせぬまま急死してしまったバンクーバーの日本人男性A氏。その情報を受けた人々が危機感を持ち、田中朝絵医師を訪ねた。そこで寄せられた相談の半分は高血圧への対処(本紙11月23日号掲載。www.v-shinpo.comから参照可)、もう半分は当地での医療機関の利用方法だった。具体的には「医療制度がよくわからない」「ファミリードクターをどうやって探せばよいのかわからない」「自分に合うファミリードクターがいない」「日本では定期健診で健康管理をしてきたが、カナダではどうしたらよいのか」といった内容である。そこで本稿では医療現場の事情を踏まえて、医療制度を健康管理に有効活用できるよう、田中医師と日加ヘルスケア協会の協力を得て情報を提供していく。


1,ファミリードクターとは

 ファミリードクターとは、日頃からかかりつけになっている医師のことで、患者を病気のことだけではなく、もっと広い範囲でみてくれる(田中医師は「心と体に関する問題があればファミリードクターに相談を」と語る)。そのため、どんな問題や症状の場合でも、まずファミリードクターの診察を受けることが一般的な行動となる。多くの場合、ファミリードクターが処置し、専門的な検査や治療を受けるべきかを判断する。必要があれば、ファミリードクターが患者に専門医の紹介などを行う。ちなみに田中医師が患者を専門医に送るのは、十人に一人以下だそうだ。

 専門医にかかった場合、その情報がファミリードクターに送られることにより、ファミリードクターは患者の病歴を継続して把握することができる。こうした仕組みを持つ北米では、医療制度利用にあたり、ファミリードクターをもつことが健康管理の基本となる。またカナダでは、専門医に会うのに時間がかかること(平均3〜4カ月)を知っておきたい。
 

2.ファミリードクターの探し方

 当地では数が少なく、探すのが困難といわれるファミリードクターだが、「一番良いのは、すでにファミリードクターを持っている人を通じて、その医師へ自分を紹介してもらうこと」と田中医師。ちまたにはドラッグを求めて医師を渡り歩くような困った患者もいるため、医師側では信頼のおける患者を受け付けたいのである。

紹介以外では次の方法がある。  
・近所、知り合いのファミリードクターの評判を聞き、ファミリードクター候補が見つ かったら、新しいクライアントを受け付けているかを尋ねる。
・BC州のドクターのリストが The College of Physicians and Surgeons of British Columbiaのウェブサイト: (https://www.cpsbc.ca/cps/physician_directory/search)  にある。画面の「Speciality」 の欄では選択肢一番上の「General Practice」 を選んで、「Accepting New Patients」 のところにチェックマークを入れて検索するとよい。市を指定して検索することも可能。電話での問い合わせは604-733-7758へ。
・どうしてもファミリードクターが見つからない場合は、ウォークイン・クリニックに行き、定期的に診察にあたっているドクターを見つけておく。

知っておきたい医療情報(1)
 日本語を含む全130カ国語以上の通訳を利用しての医療相談が可能。正規看護師は24時間、薬剤師は午後5時から朝9時までスタンバイしており、年中無休で運営されている。
604-215-4700(グレーター・バンクーバー内) 
1-866-215-4700 (BC州内トールフリーダイヤル)
1-866-889-4700(耳の不自由な人用の番号)
 通訳を介する場合、ナース、患者、通訳の3者が同じ回線で通じており、すべての会話が聞こえる状態となる。 「Japanese please」と言おう。

知っておきたい医療情報(2)日加ヘルスケア協会
 日本語を話す、または日本の文化的背景を大切にする人々の心身をより健康にする目的で設立された非営利団体「日加ヘルスケア協会」主催の講習会は、知識の獲得だけでなく、医療に携わる講師へ質問できる機会としても貴重。ウエブサイトには、講演会予定や過去の講演の内容が掲載されている。
www.nikkahealth.ca





















3.検診を受けるには

(1)まずカナダの医療方針を理解しよう
〈検査に重きを置く日本、問診に重きを置くカナダ〉

 企業や地域で人間ドックや定期健診が盛んで、病院でも検査が主である日本の医療を知る人にとって、カナダの医療は検査が少ないと感じるが、それは医療方針の違いによるものだ。

 カナダは医療機器や検査には頼らず、問診(口頭による患者からの情報収集)と医師自身による身体検査に重点を置いており(問診で70%の診断、身体検査を含めて90 %の診断を行う)、医師育成の際には、そのための教育が十分なされている。 

 基本的には、ケア・カードを使って初期発見や予防はできない。カナダの政府が責任を持って負担してくれるのは、病気を治すことである。BCメディケア加入者に症状がない場合、無償で検査を受けられるのは、男性で前立腺ガンの検査(触診※)、女性で子宮頚ガンの検査(パップ検査)と乳がん検査(mammography)。

 その他、家系に病気がある場合 (例えば、糖尿病、コレステロール高値、心筋梗塞、腸がん、卵巣がん、骨粗鬆症など)は、ケア・カードを使って検査もできるので、ドクターに相談を。

※前立腺ガンの血液検査(PSA)もあるが、有料の場合があるので、ドクターに確認要。

<料金を徴収する検査がままならぬ事情>
 問診中心の方針の下で政府の医療予算が考えられているため、毎年、ファミリードクターには監査が入り、医師からの検査依頼や専門医への紹介の頻度が高いと所轄部署から注意を受けることになる。

また、医師は以下の業務に慣れていない。
−料金を受け取る業務(健康保険適用外の業務)
−個人から依頼を受けて、検査をラボや病院へ依頼すること

 そして「定期健診をしてほしい」と個人から依頼されても、定期健診に不慣れなカナダの医師は何を検査すれば良いかわからないことが予想される。

 また、カナダの総合病院は州政府の資金で運営されていることから、患者から代金を徴収する検査は行えない。




















(2)検査の依頼方法
 以上のようなことから、個人からの要望に応じた検査が受けられるとは限らないが、検査を依頼する場合には下記(1)〜(3)のいずれかの形で医師に伝えるとよいだろう。

1)「〜の病気ではないだろうか」と病気の可能性を自分から医師に伝える。
2)「肝機能の検査をしてほしい」などと検査場所を明確にして伝える。
3)具体的な検査項目(下記参照)を依頼する。
  血液検査(blood test)* 
  尿検査(urine test)
  心電図(ECG)、stress test for coronary heart disease
  Xray、MRI、CTscan、胃や腸のカメラ(endoscopy,colonoscopy)
*なお血液検査の検査項目は何百とあるため、検査の目的を伝えることは必須だ。














(3)検査依頼に関して知っておきたいこと

 現在心身に何ら問題がない場合、検診費用は自己負担となるが、病状を伝えれば、自己負担とはならない(しかし、医者が検査をしてくれるとは限らない)。また病状を伝える際は、「伝えた後は医師におまかせ」ではなく、一歩踏み込んで「〜の状態が不安」などと伝えよう。医師によって所見が異なるので、患者側が危惧している点まで調べない可能性があるためだ。

 どこで受けた検査であっても、検査結果はファミリードクター宛てに送付されるので、必ず自分のファミリードクターの情報を検査主体のオフィスに伝えられるようにしておこう。


知っておきたい医療情報(3)

日本語の医療情報
 かつてラジオ・ジャパンで放送された田中医師の提供した情報「ファミリードクターとの付き合い方」をインターネットから聴くことができる。
(http://www.czoom.net/radio/asae/)
ファミリードクターの探し方のより詳しいアドバイスや、専門医に直接診てもらう方法など役に立つ情報が詰まっている。













4.緊急状態のときには
 
 病状が一刻を争う場合、救急車を呼ぶのは当然としても、そこまで緊急でない場合、自分で緊急病棟へ足を運ぶべきか、救急車を呼ぶべきかの判断には、以下の情報を参考にするとよいだろう。

・自力で緊急病棟へ行く場合
―自分で病院を選ぶことができる。
―病状によっては待たされる可能性大。

・救急車を呼ぶ場合 
―救急隊による検査を受けることにより、病状によっては病院へ運ぶ必要がないと判断される場合もあるが、いったん病院に着けば、すぐに医療チームが診てくれる。
―病院は選べない。
―救急車を呼ぶ費用がかかる(ケアカード保持者は40H以内で$54)。

<カナダの救急病棟>
  質が変わる可能性が高いが、カナダの救急病棟に勤務する医師は、すべて救急医療(Emergency)の特別訓練を受けており、初期診断と手当ての技術は高水準にある。

 医師の救急医療の訓練期間が2年間で勤務可能な病院と、5年間の訓練を経験して勤務が可能となる病院があり、後者の病院はローワーメインランドではSt.Paul's Hospital, Vancouver General Hospital, Lions Gate Hospital, Royal Columbian Hospital などの病院で、これらの病院にはたいていの科の専門医師が常時勤務している。


   St.Paul's Hospital

 以上の点を頭に入れておき、緊急時の判断をしよう。
・急に倒れた場合を想定して‐日頃から準備しておきたいこと
 病院に見せたり、伝えたりするべき物事を準備しておくと、いざというときに困らない。
−ケアカード(ケアカードがなければ海外旅行保険の加入証)
以下の情報をメモした物
−服用している薬(メモでなく実物でも可)
−病歴
−自分のアレルギーに関すること












 

 

 

 

 

 








◆最後に
 医師と患者の間でのコミュニケーションにおいて、英語の重要性は言うまでもない。日頃からの努力で補えなければ、通訳の手配や、病院における医療通訳のサービス(無料・有料あり)の利用も考えよう。通訳サービスはファミリードクターに相談を。(日加ヘルスケア協会のウェブサイトには情報が詳しく掲載されている)。


協力 日加ヘルスケア協会(http://nikkahealth.ca/

(取材 平野香利)