SPECIAL 2006

2006年11月23日 第48号 掲載


自分で守る健康 <特集1>
なぜ高血圧は危険なのか


田中朝絵医師

 今年8月某日、独り暮らしの日本人ビジネスマンのAさんは、通常通り会社に勤務。翌日、体調不良により仕事を休み、自宅で休養していた。翌々日、A氏は連絡なきまま欠勤。その日、自宅での死亡が確認された。死因は脳卒中。日頃から高血圧の状態であったところに、睡眠不足や生活上の過度なストレスがかかったことで血圧が上昇し、脳卒中を引き起こしたと考えられている。

 この事件を知った人々は「これは他人事ではない、だれにでも起こり得ること」と危機感を覚えた。そのなかの有志が田中朝絵医師のもとを訪ね、こうした事態を未然に防ぐための医療情報を聞き出した。そのアドバイスをまとめたのが本稿である。

 今回紹介する話の焦点は高血圧によるリスクと対策である。(以下・田中朝絵医師談)


1. 高血圧は「サイレント・キラー」

(1)高血圧は致命的な状態を招く
 高血圧は「サイレント・キラー」と呼ばれるように、日頃は症状がない。症状が出たときには手遅れである場合がほとんど。高血圧による直接的な二大死亡原因は、脳卒中・心筋梗塞となっている。 
  
(2)高血圧が引き起こす脳卒中・心筋梗塞
@ 脳卒中(stroke):脳卒中とは、脳の栄養血管の異常によって脳の症状が突然出現する病気のすべてを指す名称で、一過性脳虚血(transient ischemic attack TIA)脳梗塞(embolic stroke)、くも膜下出血(subarachnoid haemorrhage)、脳内出血(cerebral haemorrhage)はそのなかに含まれる。一過性脳虚血と脳梗塞は血管がつまる病気、くも膜下出血と脳内出血は血管が切れる病気である。
 脳は頭蓋骨で覆われており、外側へ広がることができないため、脳内で出血すると、その血液の分だけ下側の脳が押されることが多く、それによって生きるための機能(呼吸、心臓を動かすなど)を司る脳幹が障害を受け、死に至る可能性が高くなる。くも膜とは、脳を保護する膜(三層あり、外側より硬膜、くも膜、軟膜と呼ぶ)の一つ。くも膜下出血は、多くの場合、動脈瘤と呼ばれる血管のこぶが、くも膜と脳の間で破裂することで起こる。
A 心筋梗塞 (heart attack):心臓に栄養と酸素を供給している冠動脈の血流量が減り、心筋が虚血状態になり壊死してしまった状態。高血圧により、心臓に余計な負担を与えることが心筋梗塞につながる。
 以上の危険状態には前兆があり、それを見逃してはならない。ではその前兆とはどのようなものか。

(3)重篤状態の前兆(危険なサイン)
@ 脳卒中
 ● 突然始まるこれまで経験したことのない激しい頭痛  (くも膜下出血と脳内出血のとき)
 ● 意識の障害
 ● 話すことがおかしい、ろれつが回らない
 ● 物がよく見えない(特に四隅がだぶって見える、片側  の視野が欠ける)
 ● 吐き気がする
 ● 筋力が弱い・力が入らない
 ● 体のどこかがしびれる
*くも膜下出血では、頭部での激痛が唯一の症状である場合が多い

 くも膜下出血が起きると、50%の人が48時間以内に死亡する。また、もし死をまぬがれても、そのうち80%の人は身体の機能に障害が現れて独立した生活は難しくなる。

 そのため田中医師は言う。「たった一度のくも膜下出血により、今の生活を失いかねません。高血圧症とわかったときに手を打ってください。高血圧は痛みがないので、高くなっていてもわかりません」

A 心筋梗塞の前兆
 胸が重い(痛いのではなく、重く、引き締められるような感じ。これを胃がもたれると感じる人もいる)。
  ● 息切れ、動悸がする、不整脈
  ● 首やあごの左側、左腕に痛みが走る
  ● 冷や汗をかく
 ここで列挙した症状が現れたら即911に電話を。救急車が到着するまでの対処には、人命救助のトレーニング(CPR)が生かせる。(日加ヘルスケア協会主催で日本語で学べるCPRコースを開催予定)。

<特別な症状(上記のような前兆)が出たときは、ひとりきりにならないで!>
 「激しい頭痛などが起こっていても、本人が周囲に迷惑をかけまいと、わざわざひとりになってしまったことで、手遅れになった例もあります」と田中医師は語る。
 こうした危険状態を招く高血圧だが、そもそも高血圧とはどういう状態なのか、また血圧の測定値は何を意味するのかを知っておきたい。 

2.血圧についての基礎知識:血圧データの意味

 血圧には上、下というように、数値が二つ示されるが、その意味は以下の通り。

最高血圧(上の血圧)は心臓が収縮した際に血管壁にかかる圧力、最低血圧(下の血圧)は心臓が拡張した際に血管壁にかかる圧力を示している。血圧は心臓から送り出される血液の量(心拍出量)と、血管の硬さ(血管抵抗)によって決まる。すなわち、心拍出量が増えたり、血管抵抗が増えれば血圧は上がる。

 


 

 

<血圧の数値の見方>

 
良好
要注意
危険
上の数値
120以下
120以上〜140未満
140以上
下の数値
80以下
80以上〜90未満
90以上

 

 

 家で計る場合、平均135/85以上であれば、高血圧とみなされる。一般に年齢が高いほど高血圧の人が増えるが、それだけ脳卒中や心筋梗塞になる確率が高いということであって、年齢が高ければ血圧が高くても問題がないということではない。また、単に数値が低ければ危険が少ないとは限らない。例えば、アスピリンなどの薬を常用している人(※)や、もともと脳の血管に弱い部分がある人は、血圧がさほど高くなくても脳内出血やくも膜下出血のリスクは大きい。(※注:アスピリンは心臓発作や脳梗塞の防止にはなる)。

3.血圧改善のアクションを!

(1)まずは自分の血圧のチェックから
 自分の血圧状態をチェックしよう。特に家系に高血圧、虚血性心疾患、脳卒中、高脂血症、糖尿病の人がいれば要注意である。血圧が高い場合は、つねに上を140mmHg以下、下を90mmHg以下にしておくよう対策が必要だ。

<血圧測定に関して>

 一般のドラッグストアに設置されている血圧計で測る、もしくは市販の血圧計を購入して計測しよう。一般に落ち着いた状態で測る人が多いが、さまざまな状態(例:仕事が忙しいとき、怒りの感情が高まっているとき)にも測ってみることが必要である。

 「血圧数値が上で20、下が10増えるだけで高血圧による死亡確率は倍増する」というデータもある。そのため自分の血圧状態をトータルに把握するよう努めて、血圧改善へのアクションを起こそう。
    
(2)高血圧改善への取り組み方
@ 食事のコントロール
 肉食を魚にして、野菜や果物を増やすところから始めよう。また、塩分と脂肪分を少なく、繊維質、カルシウムのものを多く食べるよう食生活の転換を(野菜や果物、カルシウムは血圧を下げる働きをする)。

 最近の研究で、大豆のたんぱく質が、コレステロールと血圧にも好影響を与えることがわかってきた。血圧の降下作用を引き出すには、毎日60gの大豆たんぱくの摂取が必要とされる(含有する大豆たんぱくの量:豆腐100gにつき6.5g、豆乳1カップ(250cc)に11g)。
 
A 適切な運動と体重管理
 無理のかからない運動を行おう。毎日30分適度な運動、週に1度ハードな運動をするのが望ましい。
日本人男性はウエスト回りを85cm以下にすること。

<日頃の生活で実践できる運動例>
 ★ 駐車場所は遠くにして歩く距離を増やす。
 ★ 買い物をするときはショッピングカートを使わず持ち運ぶ。
 ★ 近くへの買い物ならば車を使わず徒歩で行く。
 ★ オフィスへの移動にはエレベーターを使わずに階段を上がる。

* 運動についての注意 
 ・ スポーツは試合勝敗などのストレスがかかるものはご法度。
 ・ 雪かきなど、急な運動は危ない。 
「適度な運動は他の成人病予防にもつながること。ぜひ実践を」と田中医師は語る。
 
B 禁煙、そしてアルコールを控えめに
 飲酒は血圧を上げ、喫煙は血管を収縮させて血圧を一時的にぐっと上げるためである。 アルコールは、男性は二杯以下に、女性は一杯以下に制限すること。

C 高脂血症、糖尿病をコントロールする
 これらをコントロールすることによって、高血圧による二大死亡原因の可能性を減らすことができる。

D ストレスを減らす
 ストレスはさまざまなものから生じるが、一般的に、環境の変化(外国暮らしはこの典型的な例であろう)や心身への負担(自分に必要以上にプレシャーをかけること、睡眠不足など)から生じることが多い。ストレスを体が感じると、ホルモンが出て血圧を上げたり、心臓に負担をかける。

「ストレスを溜めると特に危険です。ストレスを発散すること。そして、ストレスを感じたら頭、心、体を休ませてあげること。自分を大切にすることは、人間の義務と思ってください」と田中医師は力説する。

E 薬によるコントロール
 以上の対策を実行しても、血圧が上140以上、下90以上の場合は、医者に薬を処方してもらおう。
 
 「薬を飲み始めたら一生飲まなければならない」というイメージを持つ人も多いが、生活を改善して、血圧が落ち着けば薬を減らすかやめることができる。ただし、薬を減らすかやめるときには医師のガイダンスのもとで行うこと。

 また、どの薬も副作用はあるが、その人の状態に合わせて変えることができる。

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 次回は、自分の健康管理を行うためのカナダの医療機関の利用法を紹介していく。
            
 田中朝絵医師

取材協力:日加ヘルスケア協会

(取材 平野香利)