SPECIAL 2006
2006年10月19日 第43号 掲載
![]() 浄土真宗本願寺派の開教使・青木龍也(あおきたつや)氏 |
国士舘大学大学院の教壇に立つ中根雅夫教授。ブリティッシュコロンビア州立サイモンフレーザー大学に客員研究員として在籍して以来、バンクーバーには毎年訪れている。昨年からは毎月一回幣紙にて「ビジネスの視点」と題したコラムを執筆。簡潔でわかりやすい内容が好評である。
そこで今回はバンクーバーを訪れた中根教授に、コラムの内容やバンクーバーでの思い出、経営学を学ぶ意味などについて話を聞いた。
経営学との出会い
経営学を学ぼうと思ったきっかけはと聞かれて「難しい質問ですね」と笑った。「もともとは法律を勉強して弁護士になろうと思っていました。しかし、大学紛争の頃が受験だったので、いい大学が見つからない。そこで公認会計士を目指して大学に入ったんだけど合わない。それで情報、組織というテーマを中心に経営学を勉強し始めて。その延長という感じでしょうか。確たる理念があって学んだわけではないですね。経営学には情報とか組織とかある種のフィロソフィが入ってくるからおもしろい。それで公認会計士をさっさとあきらめて経営学に(笑)」
サイモンフレーザー大学(SFU)に客員研究員として在籍
SFUへのきっかけは、「在外研究というシステムがありまして。受け容れてくれる大学を探していました」。まずはカナダを探した。「でもカナダは寒くて気が滅入るんじゃないかと言う妻の懸念もありまして」。でも、調べていくうちにバンクーバーなら気候的に問題ないと分かった。それからバンクーバーにあるブリティッシュコロンビア大学(UBC)、SFU、ビクトリアのビクトリア大学(UVic)を調べた。結局「どうせなら日本人が少ないところがいいかな」とSFUに。1996年4月から97年3月までビジネス管理学部に在籍した。
在籍中に教壇に立つことはなかったが、議論に加わったり、プレゼンテーションに参加したり。何事にも積極的に参加。
大学で授業を見て印象深かったのは学生の積極性と自信満々な態度。「特にプレゼンテーションをするときはそれは堂々としていましたね。内容は普通なんですけど、自分は絶対正しいと意気揚々と話す様子は日本にいる学生とは全く違いました」と笑う。
他にも教員用のコピー室に入ってきた年配の男性に、「私はてっきり教授かと思って。私の状況なんかを話していたんですよ。そしたらなんか違う」。よくよく聞いてみると学生だったというわけ。「40から50歳くらいだったと思います。比較的年齢が高い人も勉強していますよね。いいことだと思いました」
英語には苦労しました
ありきたりだが英語での苦労話を聞くとやっぱり経験があるという。「英語については原書などを読んでいたので、テクニカルターム(専門用語)はあまり問題ありませんでした。しかし・・・」それ以外となると自分でも驚くほど苦労したと。「一般の会話が特にね。日本の教員の中には海外に行く前に英会話学校で準備していく人もいるみたいだけど、私は中学校からもう何年もやってんだから大丈夫だろうと高を括ってましたよ。結構コンスタントに英語には接していましたからね。何とかなるだろうと。しかし全然分からない。聞くのもしゃべるのも」。大学関係者や友人などに助けられ英語力を身につけていった。
ほかには一大決心して自動車免許の取得にも挑戦。「日本で全く運転したことない人にいきなり一般道での路上練習。しかも60キロ以上出して走らせるなんて」。車用語を覚えるのも大変。最初は「Gas」と言われてなんのことだか分からなかったとか。それでも無事免許取得。「いろいろ今では笑い話になるような経験をたくさんしましたよ」と懐かしそうに話す。今回の滞在はこうした体験談をまとめる準備も兼ねていた。
『経営学について』
経営学とは、「マネジメント思考力を高める」
中根教授はコラムの中で、『大学で経営学を学ぶ意義ということになるが、それは、企業経営の実践に結びついた諸理論の習得を通してのマネジメント思考力の涵養ということになろう』(ビジネスの視点(1)より抜粋)と説明している。この辺りをもう少しわかりやすく説明してもらった。
コラムの中で主張していたマネジメント思考力というのはどういうことをいうのでしょうか。
「抽象的に言えば、複合的な思考ができるかどうかですよ。社会では状況が絶えず変わる。コンピュータはパターン認識であらかじめ入力しないと起動しないけど人間はそうじゃない。車がきたら危ないとか複合的な考えができますよね。ビジネスもそれと同じ。言ってみれば条件反射ができるかどうかですね」
どのようにすればその能力は高まりますか。
「マネジメント能力を高めるというのは自覚でしょうね。意識です。手段としては、現象に目を向けること。例えば、インターネットを使って個人で株をやるデイトレイディングの人たちは、社会現象に対して敏感ですよね。これは極端な例ですけど。自分の中で問題意識を高めると言うことです。ただ基礎知識がないと問題意識と言われても。そうなるとある程度学校で学ぶことも大切だと思います。多くの本を読んで、いろいろな人と話して問題意識を高めること」
しかし、普通の会社員であれば必要ではないのでは。経営者を目指していれば別ですが。
「それは終身雇用が保障されていた頃の話ですね。指示されるままに働いていればよかった時代です。今はその制度が崩れつつあり、若い人は常に経営者のやり方を見極めて自分の方向を決めていく必要があり、また経営者は時代の波に遅れない努力をしないと会社として成り立たない。経営者がそうでなければ社員のロイヤルティも生まれません。そうした時代になりつつあると思います」
そこで、経営学が役に立つと。マネジメント能力を高めていればどちらの立場に立ったとしても生き抜いていけると。
「これからの時代、そうなるでしょうね」
起業について
コラムの中で日本では企業成功率が低いとありましたが。
「カナダと単純に比較はできませんが、まず起業するというモチベーションが違うと思います。日本人の場合は最終目標を上場するとか高いところに置く。しかし、カナダの場合は生活ができる程度でいいという感じのビジネスが多い気がする。こちらはビジネスに対して割と淡泊ですね。その点本人が成功しているという意識を得やすい。次に、日本の場合は起業した成功者へのジェラシーが多い。特に若い起業家に対しての社会批判が大きく扱われますよね。社会問題になった『ライブドアのホリエモン』がいい例です。成功を賞賛するよりはねたみが強いという社会風潮。そして実績を重んじるというのも理由のひとつ。いいものは作るけど今まで実績がないからと取り引きしてもらえない。その点カナダは寛容。いいものはいい。ニーズに合えば利用する。その人がこれまでどんなことをしてきたかとか、どこの大学を出たかというのは気にしない。その点がいいですよね」
ビジネスを始めたいという人、始めたばかりの人に、経営学者からアドバイスは。
「一番大事なのは人ですね」
例えば。
「会社運営するにしても全て自分でできるわけではない。自分の仲間になってくれる人、パートナーなどで決まりますね。あとはコネクション、それと資金繰り。(資金)確保もそうだけどうまくキープしていく、傲慢経営にならないということですかね。当たり前といえばそうですけど。あとはマーケットを見る目がしっかりしていること」
斬新なアイデアも必要でしょうね。
「そういう意味ではさっきも言ったようにカナダの方が始めやすいとは思いますね。ただこっちでは語学もひとつの問題にはなってきますけど。だれでもできるんだけど時間がないとか、手が回らないとか、面倒だからやりたくない、やれないというサービスを見つけて商売を始めるのが成功する手っ取り早いポイントだと常々学生たちに言っています(笑)」
これから就職しようと思っている人たちへのアドバイスは。
「問題意識を持っていれば会社を見る目が備わる。あとは人の言うことを素直に聞くことが大事でしょうね」
そのほかにも、IT技術の進歩によって便利になったからこそ、社員ひとりひとりの役割の自覚と顔の見えるコミュニケーションが会社経営に必要になること、欧米の成果主義神話に惑わされている日本企業の経営に、人間重視主義や人間の潜在的能力を生かす方向に舵を取る時期なのではと提言した。
(取材 三島直美)
| プロフィール 1949年生まれ。栃木県出身。横浜国立大学卒業、筑波大学大学院修了。産業能率大学、朝日大学(岐阜県)を経て、91年国士舘大学大学院教授。専門は経営情報論。著書『エレメンタル経営管理』(共著、英創社、1998年)、訳書『情報コンサルティングツール』(ソフトバンク、1992年)など多数。横浜市在住。 |