SPECIAL 2006

2006年9月28日 第40号 掲載


桐島洋子さん、勝見洋一さん、大竹香織さんが出演
「真夏の夜の語りとハープの会」開催される


集まった100人を超える聴衆

大竹香織さんによるハープ演奏

ノンフィクション作家・エッセイストの桐島洋子さん

作家・エッセイストの勝見洋一さん

レセプション会場

 9月9日、リッチモンドのJTBで、「真夏の夜の語りとハープの会」(主催 JTB International Canada Ltd.)が開催された。豊かな人生経験と広い教養を持つノンフィクション作家・エッセイストの桐島洋子さん、作家・エッセイストの勝見洋一さんによる講演と、若手ハーピスト大竹香織さんのパフォーマンスのコラボレーションに、100人を越える人々が参加。快い刺激に満ちた宵のひとときを愉しんだ。

◆鮮烈な大竹香織さんのハープ演奏
オープニングを飾ったのは、若手ハーピスト・大竹香織さんによる情熱的なパフォーマンス。この日はレニエ作曲「リージェント」を演奏。叙事詩「Les Elfes」を題材に、エルフ(妖精)の女王に捕らわれた騎士が、フィアンセのもとに帰ろうと展開する逃走劇と、その悲劇的な結末を、ドラマティックに表した楽曲だと言う。

 大竹さんの指使いは、時に弦をたたくように激しく、時になでるように優しく、音色がその動きにつれて変化する。ハープという楽器の持つ優雅なイメージとは裏腹に、張りつめたような緊迫感のある音の連続と大竹さんの気迫に聴衆は圧倒された。
 
◆桐島洋子さん講演 「『気』の不思議に魅せられて」
 鮮やかなライトブルーの衣装で登場した桐島洋子さん。「バンクーバーは気の巡りのいい街。やさしい気に包まれていると思います」

 では、その気とはいったい何なのか。「実はいまだによくわかりません(笑)。気について考え始めたのは、中国が一番古いですね。昔からの説を見ると、『気が集まってモノになる。気が動いてエネルギーになる』という考え方が多い。インドのプラナーもほぼ同じ認識です」

 「西洋はその点では遅れています。西洋は世界の国々をリードしてきたわけですが、還元主義のもとで科学が極度に分析的になり、『木を見て森を見ない』状況になってきた。そのなかで、ニューサイエンスの騎手として登場したのが、ボームです。彼は『すべてはひとつの大海原で、あらゆるものは、そのさざ波のひとつに過ぎない』と言っている。物心にも心身にも差はなく、すべてはひとつ。中国古来の哲学や伝統的な考え方も、だいたいこれに通じます。しかし、人間はそれだけのエネルギー体系のなかにいながら、そのほんの一部しか利用していないのでは。つまり化石燃料に依存した結果、大気も大地も汚染されている。私は、気を見直し、もっと利用しなければ、地球はおしまいではないかという危機感を持っているんです」

 とは言え、なかなか難しい「気」。桐島さんは、「気の人間学」著者の矢山利彦氏による気の考え方を紹介した。「第一に『人間は物質体と同時にエネルギー体として存在している』。これを認識しなくてはいけない。例えば地球の磁気が乱れると、精神分裂症患者の症状が悪化するといった例も証明されてきています。次に、『気は物質起源の気と生物起源の気、宇宙起源の気という3つに大別できる』。三番目は、『気には質的側面と量的側面がある』。いい気もあれば悪い気もある。いい人はいい気を持っていますね」 

 「『人は気の豊富な場所に集まり、気の枯れた場所からは遠ざかる』。人間でも『華のある人』とよく言いますが、これも気なんですね。それから『気はより拘束の少ない、自由度の高い方へ向かう』『気はより快適な方向に動く』『気功法には情報入力と情報出力のシステムがあり、両方同時に訓練するとより早い』ということ」

 「さらに『気功法の訓練には落とし穴もある』。気功をやっていると、本当に不思議なことがいろいろと起こり、超能力者になったのではと思うこともあります。でも、それで慢心してはいけません。そして『気功法は小宇宙としての人間の可能性を開発することによって、天地自然の意を悟り、大宇宙と交流するためのシステムである』。大きなことを言うようですが、本当に気功をやっていると、わかってくるんです。そして『気の根源は太極の無』。気の本質は無であり、空(くう)なんですね」

 桐島さん自身は、肩こりに悩んでいた約20年前、友人に勧められて気功を始めた。「みんなが目を閉じている前で、先生が歩きながら手を動かすんです。薄目を開けて見ていると、みんな見ていないはずなのに、なぜか先生と同じように手を動かしている。私も目を閉じると、体が小刻みに揺れ始めたんですよ。それがどんどん激しくなり、とうとう激動のあまり、椅子から転げ落ちちゃったんです(笑)。どうしてこんなことがと、ショックでした」

 「しばらくして、目を閉じると操られるように体が動くようになり、動きも複雑になってきました。ちょうどその頃、バンクーバーに来たんです。ここなら狂喜乱舞していても誰も見向きもしないから(笑)、外で気持ちよく体を動かしました。本当に、天女になったように軽やかに舞うんです。後で気功の本を読んだら、これは『自発動功』というもので、別に珍しいことではないんです」

 その後も桐島さんは、体内で玉を転がすような「小周天」や、目を閉じていても目的地に到達してしまうなど、不思議な体験を重ねる。「それなら原稿も書けるかしらと、ワープロの前で目を閉じ、手をかざしてみたんです。手はビクとも動きませんでした(笑)。まあ原稿は書けなかったけれども、『気』が非常に有用なものということは確か。みなさんが気功を始めるときには、ぜひ、いい先生を見つけてください。本物の気功師であること、いい気を持っていること、相性がいいことが条件です」

◆勝見洋一さん講演「料理の迷宮」
 「中国料理の迷宮」というベストセラー著書を持つ勝見さんは、「若い頃から中国をフラフラしていた」と言う。「今回も、中国料理の話をした方が楽しいのかな、と。バンクーバーで一番楽しみなのは、ここの『土地の味』ですね。中国料理屋さんに行っても、なにか違う。やわらかいほわっとした味があると思うんです。カナダという国には中国が組み入れられていて、リッチモンドの場合は香港ですよね。だからリッチモンドにいると香港の味の片鱗を味わえるわけですが、逆に北京や上海といった、中国本土のトラディショナルな匂いはない。それが、バンクーバーに来ると懐かしくなるんです。私の場合は」

 勝見さんが、最初に中国を訪れたのは高校生の頃。文化大革命のさなかで、巨大な毛沢東の肖像画と革命中国のテーマミュージックに迎えられたと言う。

 「あの頃の中国では、外国人はふつうに街を歩くことはできなかった。でも人民服を身につけ、丸めがねを作って(笑)出歩いたんです。そのとき、おもしろいなと思ったのは夫婦喧嘩。奥さんがご主人の首根っこを掴んで、往来を引きずっているんですよ。『この男は結婚以来、こんなことをやった』なんて言い募りながら。娯楽のない時代ですから100人や200人が集まってきます」

 「やがて誰かが『今日の喧嘩は一体なんなんだ?』と聞く。そうすると奥さんの目がギラッと光ってね。じっと引きつけておいて、そして始めるんですよ。この男はああだ、こうだと。周りは『奥さんの言うことはよくわかる』とかガヤガヤ言い始める。そのうち、そこに『顔役』が出てくるんですね。そして『奥さんの気持ちはよくわかる。しかしここは、俺の顔に免じて許してやってくれないか』と来るんです。まるでお芝居を観ているみたい。社会全体がなにか劇場のような感じがしました。それとメンツ。メンツというのが、中国では強いのかなと思いましたね」 中国で勝見さんは、大勢の友達を作ったと言う。「まずは料理人の友達。私はあまり中国語は話せないんですが、デカイのが嬉しそうに食べていると、親しみを覚えるらしいんです。それと芸人さん。昔の北京の民謡をやっているようなおじいちゃんたちで、満州族が多いんです。そんな芸人さんの小屋に遊びに行くと入場料を取らない。それが度重なり、じゃあお礼に、料理人の友達もまとめて、おいしいものを食べに行こうということになったんです」

 「レストランでの食事が終わって、私が支払いました。ふつう日本では『ごちそうさま。おいしかったよ』と言うところですよね。ところが彼らは『いくらだった?』って聞くんです。それで値段を言うと誰かが『安いね!』と言う。みんなも『安いね』『安いね』と口を揃える。私は気分が悪くなる(笑)。そうしたら、いい頃合いに、誰かが『あんたの顔だから安くなったんだね』と言うんですよ。周りも『そうだよ。あんたはこの料理屋さんの顔なんだよ』と。…これ、大変いい気分になれるんですね(笑)。でも、お芝居気たっぷりだと思いません?」

 こうした友人達と、勝見さんは「義兄弟」の間柄になっていく。「彼らの『義兄弟システム』を使うと何でもできちゃう。『開けごま』という感じで、兄貴達が、次から次へとドアを開けてくれるんです。例えば迎賓館。中国で一番高級な料理が出るとされるところですが、『お兄さん、そこで食べられますか?』と聞くと『簡単だよ』と言う。あっという間にネットワークを使って、最後にはジャーンとドアが開きました。そういう人間関係の楽しさ、奥深さが中国にはあります。それを愉しむのが、私のバカンスにおける一番有意義な時間の過ごし方なんです」

(写真 ケイコ・アイ 取材 宗圓由佳)


♪出演者プロフィール♪
桐島洋子(ノンフィクション作家・エッセイスト)
 文藝春秋編集者を経てフリー・ライターに。72年「淋しいアメリカ人」で第3回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。現在はバンクーバーに「林住庵」を構え、日本とカナダを往来しながら、自然環境、総合医療、スピリチュアリズムなどに関心を深める。今年5月に近著「骨董物語」発刊。

勝見洋一(作家・エッセイスト)
 東京の新橋・銀座に代々続く美術商の長男として生まれる。北京中央文物研究所にて美術品の鑑定と講義を、パリでは美学の講座を持つ。「中国料理の迷宮」でサントリー学術賞受賞。美術、オーディオ・ビジュアル、自動車などの評論や、NHK「男の食彩」ではキャスターを務めるなど多方面で活躍。

大竹香織(ハーピスト)
 ソロリサイタルとコンチェルトで国際的に活動する若手ホープ。日本国際ハープコンクールではユース(90年)、上級(95年)、プロ(01年)の全部門で優勝。カーティス音楽院、ジュリアード音楽院、インディアナ大学卒業。来年5月にはバンクーバー・シンフォニー・オーケストラへのゲスト出演も。