SPECIAL 2006

2006年8月24日 第35号 掲載


祝「おもしろ雑学録」連載100回
幸田謙さんインタビュー
「ネタは無尽蔵。時間は無限」


 弊紙の人気連載コラム「おもしろ雑学録」が、今号で100回を迎えた。味のある文章と奥深い教養で読者を魅了する幸田謙さんの素顔は、住宅メーカーを経営する颯爽としたビジネスマン。森羅万象に通じる知識の広さについて、またスマートな時間の使い方について、にこやかな表情でインタビューに応じてくれた。
 
知的刺激を受けたアメリカ時代
 「おもしろ雑学録」が100回。それ以前にも「余話閑談」(ペンネームは香田顕)のタイトルで、弊紙に連載記事を持っていた幸田さん。「読者がいてくださってありがたいと思っています。『おもしろ雑学録』は政治経済などのややこしい話はなし。会食時などにいいトピックを選んでいます」

 そのトピックについて、幸田さんは、「頭の中に入っていること」を書いているとサラリと言う。幅広い教養の源について聞いてみると、その原点は、どうやらアメリカでの留学とビジネスライフにあるようだ。

 「私は67年から68年にかけて、アメリカのシラキューズ大学院MBAコースでマーケティングを学びました。アメリカでは、大学院生は社会人という位置付けなんですね。会話も大学生の『遊びの会話』ではないんです。みんな本をよく読んでいるし、よく物事を知っている。そういう友人関係を築くなかで、国際人として本源的に大切なのは、言葉よりも、情報や文化の分かち合いだと感じました」
 
 その後、実業界に戻ると、世界中を飛び歩き、日本や米国の企業で活躍することになる。TDK時代には、米国にてオーディオテープ、ビデオテープをシェアトップに導いた。そんな幸田さんを取り巻くビジネスの世界は、知的刺激の多い環境でもあり、そのなかで幸田さんは、さらに自らの教養を深めていった。

 「ニューヨークでは、プロフェッショナルやマスコミ関係者と付き合うことが多かったのです。彼らは総じて教養人で、話題も豊富。そこでつくづく思ったのは、人間が伸びるための基本は、質問力・回答力だということ。第5次元世界の存在を数式で証明した、数学者のリサ・ランドール博士も同じことを言っています」

 それでは、当の幸田さんは、いったいどんな質問を受けてきたのだろうか。「三島由紀夫の自殺と特攻隊の決死行は同じなのか。レディファーストが根付いていたとは思えない古代日本で、なぜ世界最初に生まれた長編文学が女性作家によるものだったのか…。とにかく次々と聞かれます。だから、こっちも本を読まなくてはいけないんです」

本や友達が知識のソースに
 「ネタに困ることはありません」と言う幸田さんは、今も頭の中の引き出しを増やすことに余念がない。「本や新聞を読み、耳で教わる。そしてメモを取る。また、ある原稿を書きながら、百科事典で再確認していると、さらに違うことを覚え、それがまた別の情報になることも。(ネタは)無尽蔵ですよ」

 情報を収集し、さらにそれを結びつける工夫も。「寝室やトイレには本やメモが、コンピュータの横には字引が置いてあります。たとえばインターネットでニュースを見たら、それをすぐに(ネタに)結びつけることも」

 たくさんいる友達もネタ元になっていると言う。周囲の人とのコミュニケーションから知識を吸収することも多い。「なかでもユダヤ人から教わることは多いですね。国土をなくした彼らは、移動可能な財産を求める。だから、金融・商業関係の仕事や研究職に携わる人が多いのでしょう。そんな彼らが、子供に何をのこすかと言うと、それは教育なんですね。だから非常に教養が高いのです」。ちなみに、幸田さんの周囲のユダヤ人たちの多くは、ナショナル・ジオグラフィックを読んでいるのだとか。

 もちろん幸田さん自身も読書を欠かさない。「一週間に一冊は本を読んでいます。移動の飛行機内でもたいてい読書をしていますね。日本にいる娘が本を送ってくれて、家族で回し読みしたりもします」。今は、数学者・藤原正彦の「国家の品格」を読んでいるそうだ。

時間を「無限」にするために
 週1回の連載をこなすには、知識のストックもさることながら、時間のやりくりも必要になってくる。経営者として多忙な幸田さんは、どのように原稿を書く時間をひねり出しているのだろうか。「原稿にかかるのは1〜2時間くらいですから。私はコンペゴルフをしないので、週末は時間があるんです(笑)。長期出張やバケーションの時は書きだめをしています」とまたしても、余裕の笑顔を見せる。

 原稿作成は、週末の習慣である散策とセットになっているそうだ。「毎週1〜2時間、森や浜辺を散歩しています。いろいろな風物を見て、小鳥の声を聞いているとストレス解消になる。その間、ただ楽しんでいる『無の時間』が15分くらいで、後は『考える時間』。そこでその週のテーマを何にするか決めます。そうすると、原稿の構想も浮かんできます」

 普段の生活でも、時間の使い方にはコツがあるようだ。「僕は、ながら族なんです。原稿を書くときは、好きなクラシックを聴きながら。ステレオは居間と寝室にありますが、寝るときも音楽をかけています。それと、テレビをあまり見ないのも、時間に余裕がある理由かもしれませんね」

 仕事の場での時間のやりくりについても聞いてみた。「即断即決をし、先延ばしをしない。急がなくていいことも、先延ばしにすると、やがて急がなければならないことになってしまうでしょう(笑)。出張先での幹部とのミーティングも各15分ほどで終わらせます。そのためには、到着までに『誰に何を聞くか』をすべて考える。通勤の際はできるだけ歩き、考え事をする時間を作っています。そうすると、会社や家に着いたらすぐに、頭を切り替えられるんです」

 幸田さんは「時間は、自分で作らなくては、ただ過ぎていってしまう。与えられた時間を『限られたもの』と思うか、『無限』と思うかは自分次第」と言う。エネルギッシュに自らの世界を広げていく幸田さんから、記者も大きなパワーをもらった気がした。

(取材 宗圓由佳)

プロフィール
幸田謙
(ペンネーム。ニックネームのケン・コーダに由来)

本名・上田和男。住友金属工業、TDK勤務などを経て、1996年3月に来加し、アルバータでカナディアーナ・トレーディング設立。同年8月には住宅業界に進出し、トリプルMハウジングを買収。現在、両社の代表取締役社長を兼務。1998年よりバンクーバーを拠点としている。
兵庫県出身。66歳。

雑学録・こぼれ話
 インタビューの合間にも、食から社会問題に至るまで、さまざなトピックについて楽しそうに話してくれた幸田さん。その一部をご紹介。

日本独特のうまみ
 「日本食が世界に進出してきた頃、フランス人のシェフが、『日本食には不思議な味がある』と言ったそうです。それは、第五の味覚といわれる『うまみ』なんですね。日本の食材には味覚神経を鍛える亜鉛が多く含まれますが、欧米の食材には少ない。そのため西洋の人々は、一般に味覚が乏しいのです。しかし今では、フランスでもヌーベル・キュイジーヌに昆布や鰹節を使うなど、日本料理の要素を取り入れているんですよ。だから今、良質な鰹節が不足気味なんです」

ワサビの力
 「西洋では、カキなど生ものに、レモンやワインをかけて食べます。これは殺菌のためなんです。日本では生ものにワサビを合わせますね。ワサビにはレモンの千倍の殺菌力があり、寄生虫なども殺してしまいます。つまりワサビは調味料以前に、天然の解毒剤なんです」

浜辺の散歩でリフレッシュ

 「海辺を1〜2時間歩くとストレス解消になりますよ。波の「ザザーッ」という音は、赤ちゃんが母親の胎内で聞く、血液の循環の音と似ているそうです。また、波のしぶきからはマイナスイオンが発生しています。マイナスイオンを浴びるためには、(波打ち際に近い)浜辺を歩くことがおすすめです」

英国の航空機爆破未遂事件を受けて
 「自分たちの文化が優れているから言うことを聞け、というのではなく、博愛の精神、または惻隠(そくいん)の情を持って外交を進めるべきだと思います。爆破未遂事件で、航空会社は乗客への規制を強めている。あくまで仮定の話ですが、例えばケータリング納入業者とテロリストが手を組んだら…? 乗客も含め、あらゆる関係者全ての間に信頼関係を築くことが大切なのではと思うのです。ハードでくい止めるのではなく、ソフトで対応するべきではと」