SPECIAL 2006
2006年7月20日 第30号 掲載
![]() 左より成田嘉奈子氏、吉野一枝氏、対馬ルリ子氏、種部恭子氏 |
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![]() 講演者と多賀日本国総領事、講演会の共催・協賛・協力団体[カナダB.C.州指圧協会・JWBA(日系女性起業家協会)・コスモス・セミナー、NHCS(日加ヘルスケア-・ソサエティー)、リステル・バンクーバー、バンクーバー新報]での記念撮影 |
バンクーバー・ダウンタウンのリステルバンクーバーホテルで7月5日(水)、「日本の女性医療の現状と未来」と題した講演会が行われた。講演にあたった日本の女性医師(鍼灸師、助産婦、専属ライターを含む)11名は、より良い女性の総合医療の実現のために活動する医師のグループ「女性医療ネットワーク
Clinic Network(通称Cネット)」の中心的メンバー。湧き上がる問題意識に突き動かされて医療改革に取り組む女性医師たちの真摯で情熱的な講演に、参加者は共感を抱くと共に大きな感銘を受けた。
「どんなテクノロジーを使っても妊娠できない人、流産を繰り返す人、これから子宮を切ろうとしている人が、産婦人科の待合室でお腹の大きな幸せそうな妊婦の横に座らされている現実」
「何の症状もなく切開の必要のない子宮筋腫を持つ患者に『40歳を越えているから子宮を取れ』と言う医師」
「ピルの処方を求める女性に『そんなものを飲んでいないで子どもを産め、日本は少子化なんだ』と語る医師」
(以上 種部恭子医師談)
「(大学病院の医師の間で)個人の生活などまったく考慮せず、『卵巣ガン3期』などと病状でひとくくりにされている現状」(吉野一枝医師談)
女性患者の人権を無視し、思慮に欠けた診療がまかり通っている日本の医療状況を黙認できない女性医師たちが立ち上がった。東京・銀座で女性のためのクリニックを開業する対馬ルリ子氏を中心に、熱意あふれる医師が手を組んで立ち上げたのが「女性医療ネットワーク(Cネット)」である。
今回、来加したCネットのメンバーは、対馬ルリ子氏、吉野一枝氏、種部恭子氏、吉田穂波氏、松田美保氏、成田嘉奈子氏、片山美穂氏、儀宝由希子氏、黒田裕子氏、大内里子氏、増田美加氏の11名。講演会は、司会進行役の原田直子氏からのCネットの紹介、続いて共催の日系女性の会「コスモス・セミナー」主宰の大河内南穂子氏のあいさつで開始された。そもそもこの度のバンクーバー講演は、Cネット代表の対馬氏が敬愛する星野一正氏(医師をリタイヤ後、カナダに移住)との面会の目的と、カナダの医療機関の視察の計画に、大河内氏からの積極的な働きかけが加わって企画が実現する運びとなったものである。
Cネット代表の対馬ルリ子氏は冒頭、「わたしたちも一人の女性、一人の人間として生きていきたい。(自分たちを含めた人々が)長い人生を人間としての尊厳を持って、長生きして良かったと思える人生を歩めるように医療に取り組んでいる」と語った。そして講演テーマ「日本の女性医療の現状と未来」の総論の初めとしてWHO(世界保健機構)の憲章にある健康の定義を紹介。それは単に病気がないだけではなく、身体的、精神的、霊的、社会的にも健全な状態であることとされる。次にライフスタイルの変化や長寿化のもたらした女性の体の変化について対馬氏は以下のように語った。
日本女性のライフスタイルの変化がもたらした身体への影響
戦後の栄養・衛生・医療の向上により、妊娠・出産へのリスクは減ったが、職業人としての人生を望む女性の増加により出生率が低下。そのため女性一人の生涯における月経回数は、昔がおよそ50回だったのに対し、現代の日本女性は450〜500回と増大した。また昔は人間の寿命と卵巣の寿命(50年)が同じだったが、今や日本女性は世界一を誇る長寿になり、卵巣の寿命だけが変わらないのが現実である。
そうした変化のために昔は妊娠出産が問題だったが、今は逆に妊娠出産以外の問題、たとえば月経が来るときに症状が進みやすい病気(子宮筋腫や子宮内膜症など)の進行やPMS(月経前症候群)、閉経後のトラブルが増大している。
女性の健康面の特徴
男性と違い、女性はホルモンの波に乗って生活をしており、更年期には更年期の典型的な症状が現れない人でも骨密度が落ちるといった変化や、女性ホルモンの分泌低下により脳機能が衰えて痴呆になりやすい傾向がある。また、閉経後は遺伝的な病気(高血圧、糖尿病、高血脂症など)が出やすくなる。
女性特有の心理的、社会的状況
富山県で不妊治療のクリニックを開業する医師の種部氏によれば、羞恥心から心理的抵抗が生じやすい婦人科の受診のなかで、冒頭で紹介したような「ドクター・ハラスメント」と言える人権を無視した発言や、威圧的な発言を受けた患者が、以来医師に対して心を閉ざしてしまうことも少なくないという。
また社会の価値観が女性に与えるプレッシャーも見逃せない。夫と同様に忙しく働く妻が「買い物や食事の支度をするのは妻」という固定観念から家事をがんばり、身体に不調を来たして病院に駆け込む。「そんな生活を送れば1年や1年半でPMS(月経前症候群)になるのは当然です」と医師の吉野一枝氏は語る。そうした生活状況や考え方を無視して患者を診ることはできないというのがCネットメンバーたちの共通認識であるようだ。
女性外来の登場
現代に入って先に挙げたような女性特有の体のトラブルが顕著となってきたこと、そして時代にかかわらず、ジェンダー(身体的・社会的意味での性差)は疾患の現れ方や、治療薬の代謝や効果、社会的文化的状況等に違いをもたらす要因となっていることを背景に、「女性外来」が日本全国の医療機関に誕生してきている。しかし病院の「人寄せ看板」に止まっているところが多いのも事実。そうした現状を踏まえて、あるべき女性医療を着実に実践するための医療従事者の研鑽と相互交流をCネットは行っている。
講演会では来加メンバー全員から各自の取り組みが語られ、各自が鋭い問題意識を持って、先駆的な活動をしていることが伝わってきた。
来加した医師たちの医療現場での取り組み例
「患者一人一人にじっくり耳を傾ける」
診察前にコンシェルジェが患者の話を聞いて、専門医を案内
完全予約制、診察室の完全個室、防音強化
「トータルな視点からの診断・治療」
性差を考慮し、身体的、ホルモン的、心理的(生活・社会的)要因を診断材料とする
「婦人科への心理的壁を取り除く」
オープンクリニックの開催
「代替医療の採用」
アロマセラピー、音楽療法などの専門家をクリニック内におき、治療方法の一つに取り入れる。
講演会の最後には、今回の出会いを機にCネットと当地の人々とがつながりを強めて、理想的な医療の実現に向けて協力し合おうという展望を主催者と講演者の間で語り合いながら、講演会は幕を閉じた。
講演を聞いた参加者からの感想を最後に紹介したい。
「一番心に残ったのは『Cネットでは患者を5つの視点│臨床家として、医療従事者として、ジェンダーに配慮して、科学者として、友人として診る』の説明のなかの『友人として診る』の言葉でした。」(清水由子さん)
「日本の医療界を変えようと多々の困難なハードルを越えながら、女性の心身と社会面をトータルに見ようという医療の根源をコンセプトに女性医療ネットワークを形成されたパワーとエネルギー一杯の先生たちのお話を伺うことができ感銘いたしました。」(ボスハルト康代さん)
「東京の中心でご活躍の対馬先生の、たいへん濃い内容と、自然体で洗練された講演ぶりに圧倒されました。」(リトンかおりさん)
「講師の先生方の興味深いお話に感銘を得るとともに、120名という多くの方々のご参会を得た事にバンクーバーの日系社会の医療に対する関心の高さが伺えた大変有意義な講演会でした。」(BC州指圧協会理事・池永清さん)
参照文献:女性医療ネットワーク編『女性外来ハンドブック‐こんなときどうする?』
(写真 斉藤光一、文 平野香利)
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