SPECIAL 2006

2006年5月11日 第20号 掲載


パシフィック・シネマテーク名作邦画シリーズ
邦画界に布石を打った前衛映画のゴッドファーザー、 勅使河原宏
『Man in the Dunes』
Re-Discovering Hiroshi Teshigahara

 世界各国のマニアックな名画を扱うパシフィック・シネマテークが、今年度3回目の邦画特集を開催する。今回は邦画界にアーティスティックな色香を与えた鬼才、勅使河原宏監督作品シリーズ。今もなお新しい実験的映像美と、人間の心理を突いた勅使河原ワールドは見る者を惹きつけて止まない。

映画監督にして草月流家元
 
 勅使河原宏(1927〜2001)は、草月流初代家元・勅使河原蒼風の長男として生まれ、後年は自身も第三代草月流家元として生け花界にもその名を轟かせた。東京美術学校 (現東京芸術大学・美術学部油絵科) 出身の勅使河原はそれ以外にも、陶芸家、オペラなどの舞台演出、画家、造園・茶室プロデュースなど、多面的な顔を持つことで知られる。映画製作においては、芥川賞作家・安部公房とのコラボレーションによる作品で人気を博し、アート系映画をメジャーにする布石となった。海外ではニューウェーブとして『愛のコリーダ』の大島渚や今村昌平、篠田正浩と比較されることが多い。

名家出身の華麗なる芸術家人生
 
 名家の出身なだけに、勅使河原は若い頃から見聞を広めるチャンスにも恵まれた。同時にそうそうたる面々との出会いや交流があり、それらを糧に華麗な芸術家人生を送ったようだ。ベトナム戦争時代の脱走兵をドキュメンタリータッチで描いた傑作『サマー・ソルジャー』(1972)を製作以後はしばらく映画から離れ、家元としての活動に力を注いだ。作成した映画作品の分野は多様だが、今シリーズでは、安部とのコンビ作品からカンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞作『砂の女』のディレクターズ・カット版を含む3本と、ドキュメンタリー作品1本を上演する。

(取材 藍智子)

おとし穴(Pitfall)
1962年/モノクロ/35ミリ/97分
監督:勅使河原宏/原作・脚本:安部公房
出演:井川比佐志、 宮原カズオ、 大宮貫一 、田中邦衛、他
『ドキュメンタリー・ファンタジー』と称されることになる勅使河原作品の、転換期となった作品。

 うらぶれた炭鉱町に、白いスーツとサングラスという怪しげな出で立ちで、連続殺人犯の男が現れた。そしてこの男に殺された被害者が問う。「なぜ私を殺したのか。何のために。私の人生の意味は」・・・。‘60年代に製作された安部公房との4本の名作の、記念すべき第一作で、原作は安部のTVドラマ作品『煉獄』。やはり今作が初参加で、以降勅使河原作品の常連となる武満徹の音楽にも着目したい。リアリズムのある幽霊モノ、“ドキュメンタリー・ファンタジー”と称されることになる勅使河原作品の、転換期となった作品。

●上演スケジュール
5月22日(月)7:00pm 5月24日(水)9:35pm




Pitfall

Pitfall
 
他人の顔(The Face of Another)
1968年/モノクロ/35ミリ/124分
監督:勅使河原宏/原作・脚本:安部公房
出演:仲代達矢、 京マチ子、 平幹二朗 、
岸田今日子、岡田英次 、他

 工場の事故で顔に大火傷を負い、顔を失った研究者が、医者を丸め込んで他人の顔の仮面を作らせた。そして自分という人格を捨て他人になりきった男は、事故以来別居していた妻を陵辱するが・・・。「自由と孤独は対」という哲学的な軸が作品の根底に流れ、平行して進むサイドストーリーには、ブラザーコンプレックスの、やはり顔に醜いケロイドが残る美しい少女が登場する。脇役やチョイ役もよく見ると豪華キャスト(安部公房も出ているらしい)。音楽ももちろん武満徹が担当だ。フランスのクラシックホラー『顔のない眼』(‘59/ジョルジュ・フランジュ監督)とテーマが酷似しているので、見比べてみるのもおもしろいだろう(6月30日〜7月5日パシフィック・シネマテークにて上演)。

●上演スケジュール
5月21日(日)9:40pm
5月24日(水)7:15pm
5月25日(木)9:00pm
5月27日(土)7:15pm




The Face of Another

The Face of Another

 
砂の女(Woman in the Dunes)
1964年/モノクロ/35ミリ/147分
監督:勅使河原宏/原作・脚本:安部公房
出演:岡田英次、岸田今日子、三井弘次、矢野宣、他

 砂丘に昆虫採集に訪れた男が、宿として未亡人が住む蟻地獄のような立地の家を紹介される。常に砂かきをしていないと埋まってしまうという希望のない状況の中、男は極限状態へと追い詰められるが、いつしか未亡人との情事に落ちて行く。男はここから出ることができるのだろうか・・・。大島渚の『愛のコリーダ』を髣髴させる、世の不条理と人間の狂気的な内面を斬新な映像と濃厚なエロスで表現した傑作。原作は文学賞をいくつも受賞した安部の作品で、映画『砂の女』もカンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞の他、アカデミー賞やオスカー賞にもノミネートされ、勅使河原の名を世界に広めた。武満の音楽とのコラボレーションもすばらしく、また若き日の岸田今日子が魅力的。カンヌ出品後は122分が公式版となったが、今回はディレクターズ・カット版で上演する。

●上演スケジュール
5月19日(金)7:00pm 5月20日(土)9:00pm
5月21日(日)7:00pm 5月22日(月)9:00pm


Woman in the Dunes

  
アントニー・ガウディー(Antonio Gaudi)
1984年/カラー/35ミリ/72分
監督:勅使河原宏/音楽:武満徹
インタビュー:イシドロ・プーチ・ポアダ/声:宮口精二


 父と旅行で訪れたスペイン・バルセロナで天才建築家ガウディ(1852〜1926)に感銘を受けた勅使河原が、実に25年の歳月をかけ、ガウディの全作品と共に彼の軌跡を追ったドキュメンタリー。1883年に着工し、ガウディの代名詞ともなった最後の作品にして今だ未完のサグラダ・ファミリア聖堂を始め、独特の彩色、曲線美、美しいモザイクに覆われた彼の建築物はどれもエロティックで詩的な巨大芸術だ。ピカソ、ミロ、ダリなど、カタルニアやスペインの芸術家たちにも多大な影響を与えたことも頷ける。好奇心旺盛な勅使河原の作品には、このようなドキュメンタリー映画も多く、彼の人生を垣間見るようで興味深い。

●上演スケジュール
5月19日(金)9:40pm 5月20日(土)7:30pm
5月21日(日)5:30pm 5月22日(月)5:30pm 5月25日(木)7:30pm



Antonio Gaudi

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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チケット
 ◇シングル  一般$8.50 / シニア・学生$7.00
 ◇2本立て  一般$10.50 / シニア・学生$9.00
 ◇2本立て10セットパス
        一般$80.00 / シニア・学生$70.00
        *シニア=65歳以上