SPECIAL 2006

2006年4月20日 第17号 掲載


「文法はいらない」 〜語学の達人の勉強法
スティーブ・コフマンさん 講演会


講演中のコフマンさん


会場のようす

 9カ国語を操り、ビジネスの世界で活躍するスティーブ・コフマンさんが、4月5日、ダウンタウンの大型書店チャプターズで、講演を行った。今講演には、スティーブさんが副会長を務める日本・カナダ商工会議所も協力。大勢の参加者が、スティーブさんの歩んできた語学習得の道のりと、独自の学習方法に、熱心に聞き入った。

●英語しか話せなかった高校時代
 「みなさんは何年、英語を勉強されていますか?」。講演の冒頭で、スティーブさんは参加者にそう尋ねた。5年、10年という人がほとんどだ。「学校で外国語を勉強して流暢に話せるようになる人は、ほとんどいません。高校生になると大部分の生徒が、自分は外国語ができないと結論を下してしまうのではないでしょうか」

 実は、スティーブさんも、そんな高校生の一人だった。「モントリオールに住んでいた 歳のころ、私は英語しか話せませんでした。学校で10年ほどフランス語を勉強しましたが、話すことはできなかったのです。しかし、今は9カ国語を話すことができます」

 語学の達人となった、そのきっかけは何だったのだろうか。「私のなかで変わったこと―。それは(語学を学ぶ)《態度》です」とスティーブさん。フランス文学に出会い、それまで関心のなかったフランス語に、興味を持つようになったと言う。「それからはフランス語の新聞を買い、ラジオを聞き、フランス語を話す友達をつくりました。このように(その言語への)興味なしに語学はマスターできません。やる気が出てきて、初めて語学を身に付けることができるんです」

●独学でマスターした 北京語・日本語
 フランス留学を経て、カナダ通産省に入省したスティーブさんは、中国語の勉強を始める。「プロの語学教師から、3カ月間、中国語を学んだのですが、何も覚えられませんでした(笑)。彼は私に、文法や正確な声調などを『教え』ようとしたんです」

 その後、香港に派遣されたスティーブさんは、8カ月で中国語をマスターした。「テープを繰り返し聴き、発音をまね、漢字も一生懸命覚えました。政府からのサポートで、一日3時間の個人授業も受けましたが、大部分は自分で勉強していました」。ちなみにスティーブさんが学んだのは北京語。しかし香港では広東語が一般的だ。「中国からの移民の方などで、『周りが中国語ばかりで英語が覚えられない』といった声を聞きますが、これは理由になりません。(学ぶ言語が周囲にあふれている)理想的な環境でなくても、言語をマスターすることはできます」

 次の勤務地の東京では日本語を学んだ。「最初の6カ月間で日本語をマスターすると決めました。日本では、英語だけで生活することは難しくありません。それに慣れてしまうと、日本語を勉強する気がなくなると思ったのです。語学学習は、こんなふうにゴールを決めることが大切。日本では学校には行かず、本やCDを使って自分で勉強しました」。その効果のほどは、この講演における流暢な日本語を聞けば、一目瞭然である。

●年齢に関わらず、 語学は身に付けられる
 語学学習において、スティーブさんが一番重要視する《態度》について、さらに説明が続けられた。「その言語を使ってコミュニケーションをしたいという気持ち、そして、その文化に興味を持つこと。自分の言葉・文化から外に踏み出す勇気も必要です」

 そして「完全主義はやめた方がいい」とも。「私自身、外国語を話していて、間違えることはあります。でも気にしません。どんな状態でも間違いは起こりますから、常に改善しようという気持ちがあればいいのです」一方で、自分に責任を持って、勉強に取り組むことも大切だと言う。「毎日の少しづつの勉強が、大きな違いとなって現れます。デンタルフロスと同じです(笑)」

 年齢に対しても意見を述べた。「よく『外国語の学習を始めるには若くなければ』とか、『年を取ると頭が固くなって』といった言葉を耳にします。でもそれは誤り。私は今、 歳ですが、若いころよりも、『Language learner』としての能力は、はるかに上がっています。どう語学を学べばいいか知っているという自信があるからです」。ちなみに昨年は韓国語、さらに今はロシア語を勉強していると言う。

●具体的な勉強方法は
 挑戦中のロシア語は、スタートしてから、現在で2カ月。CDのロシア語がだんだん理解できるようになり、さらにロシア文学を原語で読み始めているそうだ。

 「効率の良い、密度の高いやり方で勉強を」というスティーブさんの学習方法は、まず、その言語を《吸収》すること。興味のあるコンテンツを選び、それを音声で聞き、テキストで読んで、そのなかの語彙とフレーズを覚えていく。「音声で聞いて30〜40%くらいわかったら、テキストを読んで60%くらい理解します。それから語彙やフレーズをチェック。80%くらいわかるようになったら次の課題へ。その後、また前の課題に戻り、何度も聞く、読む、を繰り返します」

 この方法で、スティーブさんが愛用しているのがMP3プレイヤー。「空き時間も有効に使えるMP3プレイヤーは、私が語学学習を始めて以来の革新的なツール。 〜 回は同じコンテンツを聞いています」と話す。

 スティーブさんが重視するのは、文法よりも語彙とフレーズだ。「コンテンツに出てきたものを覚えるのがポイントです。ワードブックなど、コンテンツと関係のない語彙をただ覚えるのは無理がある」と言う。「通常のコンテンツの80%は、約2000語の最頻出単語でできていると言われます。この2000語は比較的覚えやすいのですが、それ以外の単語はあまり出てこないので、なかなか覚えられない。しかし英語を使いこなすには、1万語の語彙が必要です。学習者は、ネイティブ・スピーカーのように語彙を増やすのは不可能なので、ボキャブラリーの的を絞る必要があります」とスティーブさん。そのためにも、自分の興味のある分野や、専門領域のコンテンツを学ぶことがカギとなってくる。

 また、最近はスピーキングを伸ばしたいという学習者が増えているが、スピーキングそのものの練習はそれほど頻繁にしなくてもいい、というのがスティーブさんの持論。「まずはリーディング、リスニングを通して、使える語彙やフレーズを増やした方が能率的です。そしてスピーキングの練習として、ライティングを行うことをおすすめ。書いた作文は添削してもらい、それを話し言葉に取り入れるのです」と話す。

 従来の学習スタイルについては、スティーブさんは疑問視している面が多い。「教室での勉強は効率が良くないと思います。教師は生徒一人ひとりに合った内容を教えることができない。私は、基本的に語学は独学で学ぶものだと思っています。文法に関しても、十分に言葉を吸収していない段階で勉強しても無意味。文法書はリファレンスとして使うのはいいのですが、文法自体を勉強することは賛成しません」

●「The Linguist」システム
 こうしたスティーブさんのアイデアを取り入れたのが、オンライン学習システム「The Linguist」だ。ジャンル別・レベル別に分けられた膨大な量のコンテンツから、興味のあるものを自由に選んで、リスニング、リーディングを行う。わからない単語やフレーズはオンライン辞書ですばやくチェック。それをデータベースに保存すれば、その単語が使われている別のコンテンツを調べて学習することも。さらに発音練習やチューターによる作文添削、オンラインでのディスカッションなど、総合的に英語を学ぶことができる。

 「Linguistとは複数の語学に通じ、さらにそれを楽しむ人」と言うスティーブさん。最後に、「世界には、Linguist(語学を学び、それを楽しむ人)としての潜在能力をまだ発揮していない人が非常に多い。私の話を通して、今日お越しいただいたみなさんにも、英語はもちろん、他の外国語も勉強してもらえればと思っています」とメッセージを贈った。

(文 宗圓由佳)(写真 ケイコ・アイ)

★ プロフィール
 スティーブ・コフマン (Steve Kaufmann)

 モントリオール出身。カナダ外務省勤務を経てビジネスの世界に。ヨーロッパやアジアに拠点を持つ木材会社の社長を務めるかたわら、オンライン英語学習システム「The Linguist」を立ち上げ、インターネットを通じて、経験から編み出した独自の学習メソッドを提供している。
「The Linguist」ホームページ: www.thelinguist.com


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