SPECIAL 2006

2006年2月2日 第6号 掲載



心を解き放つ宝石箱ストーリー!
『ライラとみどり色のホウキ』
ソフィアブックスで出版記念イベント開催


『ライラとみどり色のホウキ』
キロス田中桜子著(中央アート出版) 
A5判/191ページ/¥1,575(ソフィア書店にて$34.50+GSTで販売中)


『ライラとみどり色のホウキ』の著書
田中キロス桜子さん(右)と、挿絵のエミリー・ニューエンさん


著書にサインを入れる田中さん

 昨年11月に発売された、サレー在住のキロス田中桜子さん作の“おとなの童話”『ライラとみどり色のホウキ』の出版を記念して、1月19日、ダウンタウンの書店・ソフィアブックスで記念即売会及びリーディングが行われた。あいにくの雨の中にもかかわらず、用意された席は埋まり、会場は『ライラとみどり色のホウキ』を軸に文化などについてのディスカッションが遅くまで続いた。


挿絵の原画が心を温めた会場

 降りしきる豪雨のため各地で事故などによる渋滞が発生し、多くの参加者が足止めを食らうという悪条件の中で開催された今イベントだったが、開始予定時間は大幅に過ぎたものの会場は満席。そして温かいお茶やスナックが用意され、正面には同書の表紙と挿絵に使用されたエミリー・ニューエンさんの作品の原画が並び、集まった人々は心身両面から温められた。そんな和やかさに、田中さんの天真爛漫な明るさが花を添えた。

哲学博士で詩人ならではの物語

 『ライラとみどり色のホウキ』は、月刊ふれいざーに連載されていた短編を、今回の出版にあたり、長編へと書き下ろしたものだ。主人公は先住民と日系人の血を引く10歳の女の子ライラ。そのライラの体験や感じるものを通し、社会やおとなの世界から読者を解き放ち、不条理を条理にする答えを与えてくれる、そんな哲学的な要素が含まれた物語である。そして、こどもの目で読めば、わくわくする冒険物語でもある。哲学博士で詩人という、田中さんならではの作品といえる。

現役女子高生が手掛けた挿絵
 同書の美しい表紙は前々から評判を呼び、ついには原画の買い手まで現れたほどだが、その表紙及び挿絵を描いたのはなんと、サレー市在住の女子高生エミリー・ニューエンさん17歳。その計り知れない才能を持つ天才少女の絵により、同書はより一層、完成度の高い作品となった。また、日本にも関心を抱いているエミリーさんはこの日、日頃の勉強の成果を見せるべく、流暢な日本語で挨拶をし、会場を沸かせた。

アイヌの歌や楽器の演奏も
 会場ではまず『ライラとみどり色のホウキ』出版を構想段階から応援してきた、新納基久さんによる本の紹介と祝辞が行われ、続いてハリー青木さんより自身の体験を交えた日系カナダ人の歴史など、同書の背景にまつわる解説がなされた。そしてアイヌ文化の研究者でもある田中さんが、アイヌの民族楽器『むっくり』を演奏。さらにリクエストに応えてアイヌの子守唄『カムイユカラ』(神々の歌の意)を歌った。

いろんな要素を含む総合芸術

 続いては田中さんによる『ライラ〜』のリーディング。青木さんの切なげなハーモニカの音色をバックに、田中さんの詩人らしい、すばらしいリーディングが会場を温かく包み込んだ。それを引き継いだのは、絵本を介した日加文化交流の第一人者であるコピソン珠子さん。「ライラは歴史、社会学、先住民、マルチカルチャー、詩などを含んだ総合芸術である」と、感謝と祝辞を述べ、絵本や童話が文化相互理解に貢献していることを講じた。

世代を超えた世界を創るライラ
 『ライラとみどり色のホウキ』を書くきっかけとなったのは、10年前に病の床で田中さんが見た夢。ぼうっとした緑色のホウキが夢に現れ、頭に焼きついて離れなかったという。そして、主人公が先住民の血を引く少女という設定は、自らがアイヌの血を引くことと無関係ではない。そんなことを中心に描いた世界は、3世代にまたがる話でもある。今回の出版にあたっても、挿絵のエミリーさんが田中さんの子の世代、新納さんや青木さんらはそのまた上の世代と、縦軸によって構成されている。田中さんは「これを機に、昔のような、いろんな世代が一緒に何かできる空間や企画を作って行きたい」と、著書に託す思いを語った。

ソフィアブック書店
 1975年の創業当初は日本語書籍・雑誌の輸入販売を手掛けてきたが、現在は世界各国の書籍・雑誌も手掛けるマルチリンガルなユニーク書店へと成長を遂げた。店内は洒落た書籍や雑誌がたくさん並び、見ているだけでも楽しい。商品ラインナップはアート系のマニアックなものも多く、学生だけでなくプロのアーティストや建築家、デザイナーの利用も目立つ。創業時より、アートとしての刺青やタトゥー関連の蔵書にも力を入れているほか、《Japanimation》《MANGA》といった造語や日本語が市民権を得るほどになった日本のアニメ・漫画の英語版・フランス語版の品揃えも充実。《BD》と呼ばれるフランス独特のアニメも取扱っており、バンクーバーの《OTAKU》文化を一手に引き受けている存在でもある。気の利いたプレゼント探しにもお勧め。


(取材 藍智子)




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