SPECIAL 2005

2005年12月8日 第50号 掲載



毛皮のために殺されていく犬・猫たち


アメリカで全国チェーンの販売店で販売されていたウィンターコート。DNA検査の結果、使用されているのが犬の毛皮であることがわかった。
(Photo courtesy of HSUS/Karremann)


劣悪な環境に押し込められ、ただ殺されるのを待つだけの犬

(Photo courtesy of HSUS/Karremann)


ヘイスティングス界隈の店で売られていたぬいぐるみ。あまりにリアルな毛だが、それに関する表示は何もない。

アメリカで摘発された、猫の毛を使用したぬいぐるみのサンプル。ヘイスティングスのものとそっくりだ。

  バンクーバーも冬本番、寒さが厳しくなってきた。暖かさとファッション性の観点から、毛皮はコートや防寒服の一部分、また手袋などに用いられているのを見かけるが、一体どんな動物の毛皮が使われているのだろうか。

■品質表示のラベルの盲点

 「実は衣料品などの素材として使われる毛皮は、なぜか表示義務の対象外となっています。そのため私たちは使われているのが模造品なのか本物なのか、また本物の場合は何の毛皮なのか知ることが出来ないのが現状です」と語るのはファー・ベアラー・ディフェンダー(Fur-Bearer Defender)のエイミー・ジョンソンさんだ。

 また驚くべき事実がそこにはあった。エイミーさんは続ける。「これらの毛皮の中には、犬・猫の毛皮がかなり使用されています。そしてその毛皮の多くは、中国などアジアの国々で惨殺といってもいいような虐待の末に殺された犬・猫からとられているのです。」

■目を覆いたくなるような惨状
 この事実は、アメリカの動物愛護団体(Humane Society of the United States; HSUS)がアジアにおいて ヵ月に及ぶ秘密裏の調査を行って明らかにしたものだ。「かれらが撮った映像はすさまじいものでした。狭く暖房も効かない湿った薄暗いところに押し込められ、自分の汚物に汚れながら弱っていく犬・猫たち。抵抗できないくらい弱ってから棒で殴られたり地面にたたきつけられたりして殺されていくのです」

 しかし、この時点で殺された方が彼らにとっては幸せなのかもしれない。「そのあと逆さ吊りにされ、後ろ足から頭に向けて皮をはがれていくのですが、中には息絶えていないどころか意識が残っている犬・猫も相当数いるのです。まさに地獄としか言いようがありません」

 このように毛皮のために虐待されている犬・猫は、年間200万匹以上にのぼると先の調査結果は報告している。

■世界の対応、カナダの対応
 このショッキングな報告を受け、アメリカは元凶である犬・猫の毛皮の需要を減らし、このような残虐なビジネスから彼らを守るべく2000年にDog and Cat Protection Act of 2000という法律を成立させた。これにより、アメリカ国内では犬・猫の毛皮を含むすべての製品の輸出入、製造販売、輸送が全面的に禁止された。

 ところでカナダの対応はどうなっているのだろうか。エイミーさんは非常に憂慮している。「先ほど説明したとおり、毛皮については表示義務がない上に、たとえ犬・猫の毛皮とわかったとしても、カナダではなんら規制がありません。また虐待の禁止に関する法律も、カナダ国外で行われている虐待には適用されません。つまり、まったく野放しの状態です」

 もしカナダ国内で犬や猫がこんな仕打ちを受けていることがわかったら、決して看過されることはないだろう。ならば、国外だからという理由で放置しておいていいのだろうか。

 先のアメリカの規制に続き、ヨーロッパの国々も同様の立法措置をとり始め、近いうちにEU全体が犬・猫の毛皮の禁止を打ち出す予定だ(表1参照)。そうなると世界中の主要国のうち 近い国が犬・猫の毛皮に対してその扉を閉じることになる。エイミーさんはその場合、カナダがおかれる立場がさらに悪化すると指摘する。「多くの国から拒否された犬・猫の毛皮は、販路を求めておのずと規制のない国、カナダに集まってくるでしょう。これは間接的に残虐行為が生き残るのを、この国が手助けすることになるのです」

■迅速な対応が、今求められている
 だから、何らかの対策を早急に立てなければならないとエイミーさんは語る。「今まで関係しそうな官庁に粘り強く働きかけてきましたが、満足のいく回答は得られていません。こういったことを扱う機関も明確でなければ、よりどころとなる法体系も整備されていないのです。」そこで政治家に対し、必要な法律を成立させるよう活動している。「そのために皆さんの協力が必要なのです。多くの人々が首相や地元のMPにこの問題の解決を要求していくようになれば、やがてその声を無視できなくなるでしょう。誰が見ても、こんな虐待で多くの犬・猫が命を落としていくのを放っておくわけにはいきません」

 ファー・ベアラー・ディフェンダーは新聞やテレビなどでこの問題を訴えたり、ウェブサイトで前述の映像の一部を見られるようにするなど、精力的に啓蒙活動を続けている。

■私たちの身の回りには犬・猫の毛皮製品が氾濫している?
 「この問題を知らない人がまだまだ多いのも事実ですが、みなさんのすぐそばにある問題なのです。」エイミーさんは大きさ センチほどの猫のぬいぐるみを取り出してきた。「とてもよく出来ていますよね。これはヘイスティングス界隈の店で見つけたものですが、『made in China』以外の表示は見当たりません。実はこれとそっくりのぬいぐるみがアメリカで、本物の猫の毛を使用していると摘発されたのです。でもカナダではこうやって堂々と売られているのが現状です。」また、こうしたリアルなぬいぐるみでなくても、例えばダラーショップで売られている蛍光色の毛にくるまれた小さな人形であっても、着色されているからといってにせものとは限らない。知りようがないから気がつかないだけであって、犬・猫の毛を使った商品は私たちの身の回りにあふれているのかも知れない。この状態を変え、多くの犬・猫を理不尽な扱いから救うには確固たる規制がこの国にも必要だ。

(取材 平野直樹)

表1 犬・猫の毛皮を使用した
製品に対する規制を実施した国

2000 アメリカ合衆国
2001 イタリア
2003 デンマーク、フランス、ギリシャ
2004 オーストラリア、ベルギー
2005 スイス

 


 



【ファー・ベアラー・ディフェンダーについて】
 1944年、わなによる狩猟の全廃を目的として設立された非営利団体。以来精力的な啓蒙活動と政府への働きかけで成果をあげてきた。とくにこの25年間の成果はめざましく、1980年には北米だけでも3200万匹の動物がわなで捕獲されていたのが5〜600万匹までに減少した。(このうち約100万匹がカナダ国内で捕獲されている。)

 バンクーバーのオフィスに常勤しているのはエイミーさんを含め3人。彼らが中心となり、多くのボランティアやカナダ国内外の同じ目的のグループと協力して、確実に成果をあげてきている。

住所 : 3727 Renfrew Street, Vancouver, BC V5M 3L7
電話 : (604) 435-1850
FAX : (604) 435-1840

ウェブサイト : http://www.BanLegholdTraps.com
犬・猫の毛皮問題に関するウェブサイト:
http : //www.DogCatFur.com
アメリカの犬・猫の毛皮製品に対する規制に関するウェブサイト :
http://www.customs.gov/xp/cgov/import/commercial_enforcement/dog_cat_protection.xml

ファー・ベアラー・ディフェンダーのメンバー、エイミー・ジョンソンさん。この問題のエキスパートで、動きの鈍い政府を相手に粘り強い努力を続けている。