SPECIAL 2005
2005年10月6日 第41号 掲載
大型M&A (*1)が相次ぎ、勢力図が大きく変化しつつある米国通信業界。中でも移動通信の市場規模は増大し、日本でも本格的な普及期を迎えた3Gサービス(*2)が米国でも立ち上がり始めている。その米国移動通信業界鳥瞰図について、株式会社NTTドコモの米国現地法人NTTドコモUSA社長であり、AT&Tワイヤレス取締役として米国通信会社の経営に参画した経験を持つ小野伸治氏により解説された。
世界の携帯電話の動向
世界の携帯電話の使用者数は、現在20億人近くに上る。アジア・西ヨーロッパがその6割を占め、日本・韓国は新しいサービスを次々開発、世界の市場をリードしている。
最大の市場は中国(利用者約3億人)だが普及率は26%で、拡大の余地が期待される。続く巨大市場は米国で、カナダの普及率はおよそ50%(同約1600万人)。ヨーロッパでは100%の国も見られる。
日米携帯電話普及率比較
90年代前半では、日本に比べ、圧倒的に米国の普及率が高かったが、当時はアナログでの通信技術であった。
日本は遅れをとったものの、93年にはデジタル技術を取り入れ、97年には米国の普及率を越えた。さらに、99年にはデータ通信が始動。
こ れにより大幅に普及率が向上し、現在では日本70%、米国60%となっている。また、01年には日本の携帯電話加入数が有線電話の加入数を上回ったが、約8兆円の日本市場は料金競争などで収縮してきており、今後の課題となっている。米国では03年に携帯との市場が逆転、有線電話の数が減り続けている。
米国の課題、データ通信
日本や韓国では、9割の携帯電話使用者がデータ通信を利用している。しかし、日本のデータ通信の売上げが約2兆円であるのに対し、米国は利用率約12%、売上げ4600億ドルと遅れをとっている。
日本のドコモの場合、データ通信から得る収入が全体の1/4を占めており、米国でのデータ通信利用拡大が売上げ向上の鍵とも言えるようだ。
また、ドコモは日本を含む世界各国12地域でiモード(*3)を展開、ロシアやイスラエルでもサービスを始めている。
現在利用者は約500万人だが、市場は1億9000万人あり、こちらは今後の伸びを期待できる。
米国通信サービスの歴史
米国では当初、地域ごとの通信会社がサービスを始め、それが次々に統合されていき、AT&T社がほぼ独占するようになった。
通信部門だけでなく、研究開発・機器製造部門も保有するなど巨大化した同社は、84年に俗にベビーベルという7つの地域ベル通信会社(RHC)に分割された。日本は85年にそれを追随。電電公社が民営化されNTTとなり、長距離電話はNTTコミュニケーションズ、地域の電話はNTT東日本と西日本とに分割された。
ベビーベルの再統合
サウスウェスタン・ベル(Southwestern Bell)が、パシフィック・テレシス(Pacific Telesis Group)やアメリテック(Ameritech)を買収してSBC(SBC
Communications)に成長。
ベル・アトランティック(Bell Atlantic)がNYNEXやGTEを買収してベライゾン(Verizon Communications)に。クエスト(Qwest
Communications)はUS Westを買収。
そして既存のベルサウス(BellSouth)を含め、四大電話会社が誕生した。
米国携帯電話の統合化の歴史
米国で携帯電話のサービスが始まったのは83年。市場は734に細分化され、各市場に2つずつの電波を提供、1400以上ものライセンスを発行するという煩雑なシステムだった。そしてデジタル技術が参入し、さらに新たな市場を開いた結果、多くの携帯電話会社が存在することになった。
やはりその後次々と統合が行われ、現在では180社ほどになったが、それでも1つの市場を6社でシェアすることもあるという。その中で大手4社といわれるのが、今年スプリントとネクステルが合併してできたSprintNextel、ベル系のベライゾン・ワイヤレス(Verizon
Wireless)、同じくベル系で昨年AT&T ワイヤレスを買収したシンギュラー・ワイヤレス(CingularWireless)、ドイツテレコム系のTモバイル(T-Mobile)である。
米国携帯電話のサービスの特徴
日本や欧州では携帯電話用の局番を割り振っているが、カナダ・米国では一般電話と同じ地域の市外局番(エリアコード)を携帯電話にも割り振っている。
さらに、03年からは契約電話会社を変えても携帯の番号は保持されるシステム、番号ポータビリティ制度(Local Number Portability=LNP)が発足し、ますます過当競争が激しくなる見込みだ。日本でも来年この制度を導入する。課金方法も独特で、日本の携帯電話では掛け手が100%料金を負担するが、カナダ・米国式は受信にも料金が発生する。そのため、北米での携帯が普及しなかったといわれる。
CATVと電話会社の地域独占力
AT&T社を買収し、米国最大の携帯電話会社となったシンギュラー・ワイヤレスの株を持つのは、地域の電話会社SBC(6割)とベルサウス(4割)である。
二番手のベライゾン社はベライゾン・ワイヤレスを持っており、長距離電話、ブロードバンドなどをセットにして売るバンドルサービスを展開する戦略に出た。 また、65%がケーブルTV(以下CATV)に加入しているという米国では、CATVに力があり、地域と密着しながら現在、映像の他、ブロードバンドやVOIP(*4)などの電話サービスも行っている。さらに同じく地域独占型の携帯電話会社との合併事業も始まろうとしており、携帯産業の競争化が激しくなると予想される。
ドコモとAT&Tワイヤレス買収劇
5年前、AT&Tワイヤレス(以下AT&T)はトラッキング・ストック(特定部門と連動する株)を上場。ドコモは00年にAT&Tに1兆円を投資、株価は23.5ドルでシェアは16%だった。その後テレコムバブルが崩壊、株価も3.15ドルまで暴落。そんな状況下の01年に小野氏が取締役に就任して経営に携わったが、結局AT&Tは売りに出すことになった。買収に名乗りを上げたのは、筆頭株主であるドコモの他、ネクステル、シンギュラー、英国のボーダフォンの4社。この買収劇の噂が株価を引き上げたため、ドコモはこの取引から降り、15ドルの株価を示したシンギュラーが買収することで合意した。
日本におけるドコモの位置付け
日本の携帯電話利用者約8700万人のうち、ドコモ利用者は約4900万人と市場の56%を占めている。auが23%、ボーダフォンが17%、ツーカーはauと同じくKDDIの傘下の会社で、今年10月より両社は正式に合併するため、実質3社が市場を独占していることになる。ボーダフォンはJフォンが英国のボーダフォンに買収されてできた会社だが、日本人ユーザーが求めるサービスと世界的レベルのサービスの溝に苦戦を強いられている。
iモードサービス
iモードサービスが始まったのは6年ほど前で、現在ではドコモユーザーの9割がiモードを利用している。ドコモがAT&Tワイヤレスに投資した理由に「iモードを米国で展開したい」「3Gサービスをフォーマと同じW-CDMA(*5)で普及させたい」というものがあった。日本では、iモードに対応する充分な情報を確保するため、コンテンツプロバイダ(*6)の代金徴収を代行するサービスを打ち出し定着している。同時にその事業は大きな携帯コンテンツ市場になっているのだが、米国では一般的にコミッションを高く設定しすぎ、プロバイダが集まらないため、この事業モデルがなかなか理解されないという。
伸び悩んだ次世代携帯フォーマ
ドコモは384kbpsという高速通信を提供する3Gサービスを01年に開始。しかし、「サービスエリアが小さい」「高速通信を利用することでバッテリーの消耗も激しくて1日もたない」「端末もスマートではない」など問題点も多く、当初は思うように伸びなかった。改善後は盛り返し、現在ドコモのユーザーの3割がフォーマであり、世界各国16地域とのテレビ電話通信が実現している。「新しい技術を取り入れることは消費者への還元でもある」と、小野氏。少し料金が高くとも、通信速度が速ければ結局パケット代は少なくてすむからだ。
携帯電話産業のこれから
過当競争が激しく、20年来赤字経営を強いられてきた米国の携帯電話各社。90年代のアナログ通信成功を捨てきれず、今も7%もアナログサービスを残しており、その維持費に膨大な額になっているという。日本では79年の第一世代アナログ式携帯電話が登場以来、およそ10年ごとに世代交代が行われ、00年にはアナログをすべて中止している。
とはいえ、日本の市場も飽和状態で、次なる模索をしなければならない。ドコモでも、携帯にICチップを搭載して買物や定期券などに登用していく構えだ。
Wi-Fiサービス“ナミキテル”
米国内7000ホットスポット、世界40カ国でWi-Fiが使用できるサービス。使用可能なスポットは広範囲で、空港内はおろか、航空機内でも使用が可能だ。また、米国ビジネスマンに人気のブラックベリー(*7)で日本語の読み書きやメールの送受信が可能になるサービスの他、日本語コンテンツによる米国最新情報も多数用意されており、まさに“波、来てる”ドコモUSAである。
(9月23日取材・藍智子)
| ●モバイル関連用語解説● |
| *1=Mergers and
Acquisitions 企業の合併・買収 *2=3rd Generation 第3世代携帯電話 *3=NTTドコモグループが同社の携帯電話網を使って提供しているインターネット接続サービス *4=Voice Over Internet Protocol。PCを介して通話する電話。一般的にIP電話と呼ばれる *5=3Gの通信方式の1つ。高速のデータ通信能力があり、動画・音声によるリアルタイムの通信も可能 *6=デジタル化された情報・サービスを提供する事業者 *7=RIM社の高性能携帯電話。PDA(携帯PC端末)+電話のような端末で、日本では普及していない |
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