SPECIAL 2004
2004年10月 44号 掲載
|
図1 前立腺の図解(武田薬品・前立腺がんについてのウェブサイト http://www.takeda.co.jp/pharm/jap/seikatu/zg/b1/b1.htmlより) |
カナダでは、男性のがんによる死亡原因の第二位になっている前立腺がん(ちなみに第一位は肺がん)。もともと日本人には少なかったが、近年その数が増えてきており、カナダで暮らしている日本人も無縁とはいえない。
今日はバンクーバーで日本語を喋れる医師として活躍されている堀井昭(ほりいあきら)先生に、前立腺がんについてその特徴と心がけておくべき点についてうかがった。
前立腺とは
前立腺は男性だけにある臓器で、精液の一部がここで作られる。膀胱の下、直腸の前に位置し、膀胱から延びる尿道を取り囲むような形をしている。(図1)
前立腺がんの自覚症状
前立腺が悪性腫瘍(がん)の進行とともに肥大化して尿道を圧迫していくため、以下のような症状が出ることが多い。
●尿が出づらい
●一回の排尿の量が少なく、頻繁に排尿する
●夜中に何回もトイレに行く
ただし、これらの症状は良性腫瘍の増殖(前立腺肥大)によっても起こるので、医師による見極めが必要だ。
医師が直腸指診(後述)でわかるものは、進行しているがんと思っていいのだが、反対にそれではわからない場合があるので要注意。前立腺の内部でがん細胞が発生、増殖している可能性があるからだ。
カナダ、および日本における前立腺がん
記事冒頭でも紹介したが、前立腺がんはカナダでのがんによる男性の死亡原因の第二位になっている。2004年にはカナダ全体で約一万八千人が前立腺がんと診断され、そのうちの約四千人がこの原因で死亡すると推定されている。
また、日本でも増加傾向にあり、2015年には1995年の約三倍になるという予測もあり、死亡数増加率は全てのがんの中で最高といわれている(武田薬品・前立腺がんについてのウェブサイトhttp://www.takeda.co.jp/pharm/jap/seikatu/zg/b2/b2.htmlより引用)。(図2、図3)
前立腺がんの特徴
他のがんと大きく違うところは次の二点。
高齢者の発生率が高い
年齢と共にその発生率が高まることが知られており、若いうちはあまり気にする必要はないが、五十歳からを目安に早期発見のための検診を始めるのがよいようだ。
がんの進行が遅い
小さながんが発見されてから、実際に治療が必要ながんに成長し、最終的に骨や膀胱の周りのリンパ腺に転移するまでおおよそ十から十五年かかると言われている。
前立腺がんの診断
診断方法はいくつかあり、直腸指診とPSA検査はファミリードクターで受診ができる。
直腸指診
従来から行われている方法で、医師が肛門から直腸に指を入れて前立腺の表面の状態を診断する方法。前立腺がんだと、その表面が硬化したり、でこぼこになったりすることが多いので、それを指で確認するわけだ。ただし、がんが臓器内部にとどまっている場合は、この方法ではわからない。
PSA検査
PSA(Prostate Specific Antigen)とは、もともと前立腺で作られる成分だが、がんが存在するとその値が上がるのが特徴。簡単な血液テストでその値を測定できること、直腸指診ではわからないような微細ながんすらも発見できることが特徴だ。
直腸指診より五年早く前立腺がんの存在を発見できると言われているが、誤診(がんが存在しないのに数値が高いケースや、その逆のケース)の可能性もあるので、他の検査で確定する必要がある。
ある調査によると、余命二十五年と仮定した五十歳の男性のうち、
● 42%には微細な(PSA検査でわかるような)前立腺がんが存在
●9・5%は何らかの治療が必要ながんに成長
●2・9%が前立腺がんが原因で死亡
という結果が得られている。
|
図2 日本における前立腺がん死亡数の予測値(武田薬品・前立腺がんについてのウェブサイト http://www.takeda.co.jp/pharm/jap/seikatu/zg/b2/b2.htmlより) |
早期発見のための定期検診だったら、二年に一回程度受診をして、PSAの値をチェックする。
値が増加傾向にあるようだったら、受診の間隔を短くして詳しく調べる必要がある。対象年齢は五十歳ぐらいからから七十歳ぐらいまで。
がんの進行が遅いため、ある程度の高齢になってから微小ながんの存在が確認されても、そのがんが治療を要するほどに成長するまでには、他の理由で他界してしまう可能性のほうが高くなる。
このような理由から、年齢と病期(ステージ)の両方から治療法を考える必要がある。
超音波検査
PSA検査で数値が上がっていた場合、この検査をする。肛門より超音波の機械を入れ、直腸越しに前立腺の超音波画像を得て診断する方法。
生検
超音波検査と同時に行う検査で、前立腺に直接注射針を八箇所入れ、その組織を取り出して顕微鏡で検査する方法。がんの存在の最終的な判断には、専門家によるこの検査が必須だ。
前立腺がんの治療
前立腺がんの治療にはいくつかあり、それぞれ長所、短所がある。実際に治療が必要となった場合、それぞれの治療についての説明を受けて、最終的にどの治療法を行うかは患者自身が決めることになる。
外科療法(Radical Prostatectomy)
がんが前立腺だけに存在する場合で、前立腺自体を切除してしまう療法。
二、三時間の手術で、三から五日の入院が必要。切除の際、周りにある神経を切断するため、性機能に障害が出るほか、尿失禁(尿の垂れ流し)がしばらく続く場合もある。この場合は人によっては六ヵ月ほどおしめをすることになる。
このため、治療後すぐには仕事に戻れないなどの制約がでてくる。
放射線療法(Radiation)
放射線をがん細胞に照射し、殺す方法(External Beam)と、小さな放射線物質を前立腺のまわりに二十ヵ所程度埋め込む方法(Brachytherapy)がある。
副作用として、放射線がまわりの組織、臓器(大腸や尿道)にあたり、やけどを引き起こし、血尿、下痢などを起こす可能性がある。
約 %の患者は放射線療法を選んでいる。
|
図3 日本における前立腺がんの死亡数の増加比は、各種がんの中でもっとも高い(武田薬品・前立腺がんについてのウェブサイト http://www.takeda.co.jp/pharm/jap/seikatu/zg/b2/b2.htmlより) |
ホルモン療法(Hormone Therapy)
前立腺がんは男性ホルモンに関連していることが多く、体内の男性ホルモン量をコントロールすることでがんの進行を抑えることができる。そのためにいくつかの方法がある。
男性ホルモン抑制注射
男性ホルモンの増加をコントロールする方法。三ヵ月に一回程度の割合で注射し、二、三年続ける。
去勢術
男性ホルモンが作られる精巣自身を、手術により摘出してしまう療法。また、術後にがんが再発した場合は女性ホルモンの注射をおこなう。
前立腺がんの原因と予防
現在のところ、前立腺がんの原因は特定されていない。だが、食習慣が関係しているのではないかと指摘する研究者もおり、それにもとづく予防のヒントがBC Cancer
Agencyのウェブサイトに掲載されている(http://www.bccancer.bc.ca/PPI/TypesofCancer/Prostate/Prevention.htm)。
また進行が遅いとはいえ、手遅れになっては命にかかわるので、上で説明した検査を定期的に受けることも大切だ。 (取材 平野直樹)
前立腺がんに関するウェブサイト
BC Cancer Agency:http://www.bccancer.bc.ca/PPI/TypesofCancer/Prostate/default.htm
国立がんセンター:http://www.ncc.go.jp/jp/ncc-cis/pub/cancer/010230.html