SPECIAL 2004
2004年10月 40号 掲載
三村 健さん |
9月13日、隣組において日本の介護事情についてのワークショップが行われた。スピーカーは、日本で理学療法士として活躍されている三村健(みむら けん)さん。
自分の両親、また自分自身や配偶者の将来を考えたとき、老後は日本でと考える人も少なくないはず。その場合、日本でどのような介護を受けられるかは重要なポイントになる。
誰にでも起こりうる介護の問題。会場には20人を超える人が参加して、スピーカーの講演に熱心に耳をかたむけ、また活発に質疑応答がなされた。
身近な問題、介護
「自分は誰の手もわずらわせず、ある日ぽっくりと死にたい」と誰しも思うものだが、実際はどうなのだろうか。平成7年4月の一ヵ月間に、日本国内で死亡した65歳以上の日本人四千七百五十五人が、死亡前にどのような状況だったかという調査が行われたが、それによると、
● 死亡前日まで異常はなかった(介護を必要としていなかった状態だったのは、十人に一人強の割合。(交通事故などによる突発的な死亡も含まれる。)
● 二人に一人は、死亡するまでの六ヵ月間に何らかの介護が必要だった。さらに、そのうちの半数が寝たきりの状態だった。
● 五人に一人は、死亡するまでの三年間に何らかの介護を必要としていた。
という結果になり、介護が決して他人事ではない現状が浮き彫りにされた形となった。
家族だけでは負担が大きい介護
1年後、2年後が予測出来る子育てと違い、いつまで続くか予想がつかないのが介護だ。そのため介護する側にも大きな負担がかかり、それを外からサポートする専門家の援助が必要になってくる。排泄(おむつ交換)、入浴、食事といった物理的なサポートもさることながら、家族への精神的なサポート(カウンセリング)も欠かせない。
精神的負担に耐え切れず、虐待にいたる可能性もあるからだ。
痴呆症を例にとってみると
痴呆症による具体的な症状は以下の二つに分けられる。
@ 中核症状:痴呆症状の中核になっている知的能力の障害(記憶障害、見当識障害、失認、失算、失書など)
A周辺症状:心理的な反応として出てくる異常な行動や精神状態(感情の障害、易怒、興奮、当惑、混乱、幻惑、妄想、作話「嫁が財布を盗んだ」「夫が浮気している」など)
このうち、Aについては、介護する側の慣れ、態度でいくらでも緩和することができるのだが、介護が初めての家族だけではうまく対応できず、かえって状況を悪化させることもある。
また、この周辺症状への最良のケアは「言葉によるケア」であり、当然、同じ言語を使ってコミュニケーションする(介護する側、される側がどちらも日本語を使う)ことが前提となる。
日本の介護制度・その仕組み
次に、日本の介護制度の仕組みを見てみよう。
2000年に介護保険が施行されたが、それまでは「親の面倒を看るのは嫁の仕事」といった、介護は家庭内の問題ととらえる伝統的な風潮があり、公に取り上げられることは少なかった。
それが施行後はメディアに頻繁に取り上げられるなど、社会全体が注目するようになった。それがきっかけで、日本の介護は量的には画期的に充実するようになった。
その介護制度の概略は図1のようになっている。
運営主体は国ではなく、地方自治体(市町村、東京23 区)である。そのため、介護保険料や受けられる介護の内容は、それぞれの地方自治体で多少違ってくる。また介護を受けられるのは、介護保険に加入している40
歳以上の人だが、 64歳までは介護対象となる病気に制限がある。65 歳以上にはそれはなく、認定に応じて支援・介護サービスが受けられる。
日本の介護制度・サービス内容
介護が必要となった時、どのようなサービスが受けられるかは、自治体の行う「認定調査」の結果による。まずは市町村の介護保険担当窓口に出向き、申請をする(本人が一緒に行く必要はない)。
市町村の職員が派遣され、心身の状態の調査を行う。これと主治医の意見書をもとに、介護認定審査会が介護度を公正に決定する。その介護度の段階と大まかな状態は表1のとおり。この介護度に従って、サービスの利用限度額が決まり、そのうちの9割が介護保険から支払われる。
この限度額内でどのようなケアプラン(介護内容)を立てるかを、ケアマネージャー(居宅介護支援事業者)に相談する。法的に義務づけられているわけではないが、専門知識が必要になるため、この方法が一般的だ。また、介護が始まればケアマネージャーとは長い付き合いになるため、当事者の話をよく聞いてくれる親切な人を選ぶことが大切。合わないと感じたら、会社に言って換えてもらうことも必要。
これでケアプランが決まれば、そのサービスを提供している事業者を探し、介護を始めることになる。サービスの種類と内容は表2のとおり。
日本の介護保険制度を利用する場合
親の老後を考えたとき、自分がカナダにいるので親を呼び寄せて、こちらで面倒を見ようという選択肢がある。しかし前に書いたとおり、カナダでは、同じ言語によるケアがヘルパーなどの介護職員からは受けられず、ひょっとしたらうまく行かないかもしれない。そのような場合、あとで紹介する遠距離介護という手段で、自分はカナダにいながら親を日本の介護制度にゆだねるという方法も考えられる。
また自分自身の将来を考えた場合、日本に帰国して、その介護制度を利用するという状況も考えられる。その場合、早めに帰国して地域とのつながり(近所づきあい、主治医など)を作っておいたほうが、いざという時に手遅れにならないで済むかもしれない。
遠距離介護
日常的な介護は専門家にまかせながら、自分は遠方から「こんなサービスあるよ」「不自由してない?」と通ったり声をかけたりして、安心して暮らせる環境をコーディネイトする介護の方法のことを「遠距離介護」と呼び、様々なノウハウがインターネット上でも公開されている(後述のサイトを参照)。
以下の「遠距離介護の心得11 ヵ条」は、「離れて暮らす親のケアを考える会」のウェブサイトに掲載されているものだ。
@ 三歩早めにスタートし、介護予防に重点を置く
A 便りのないのは元気な証拠、とは限らない
B 普段の親の生活パターンを知っておく
C 親の暮らす地域の各種サービスの情報収集は子供の役目
D ケアマネージャーや医師には積極的にコンタクト
E親の親友、近隣の電話番号を聞いておく
F 育った時代背景の異なる親に、子供の価値観を押し付けない
G 考えるだけでは進展なし、実行することが重要
H兄弟姉妹、配偶者を味方につける努力を
I世間体より親と子の笑顔が大切
J 無理は禁物、通う子供の心と体の健康も大事
離れて暮らす親のケアを考える会 http://homepage1.nifty.com/paokko/
海を越えるケアの手 http://www.seacare.or.jp/dantaihtm.htm
テレビ「難問解決!ご近所の底力 故郷の親を世話したい 」 http://www.nhk.or.jp/gokinjo/backnumber/040115.html
ZOJIRUSHI みまもりホットライン I-pot (電気湯沸しポットを使うと、その使用状況がインターネットを通じて離れて暮らす家族に報告されるというもの。日常の生活を見守るというコンセプトの家電製品)
http://www.mimamori.net/index.html
まず、情報収集を
また、ここで紹介した介護制度は2005年から見直し作業が始まり、2006年には改定の予定だ。多くの人がかかわりを持つことになる介護制度。「三歩早めにスタート」し、まずは定期的な情報収集から始めてみてはいかがだろうか。
隣組では、引き続きカナダでの介護事情をテーマにしたワークショップを企画している(日時は未定)。興味がある方、取り上げてもらいたいトピックのリクエストなどは、左記の電話番号、またはアドレスにコンタクトを。
Phone: (604)687-2172 Fax: (604)687-2168 アキコさんまで
jcva_services@bellnet.ca
(取材 平野直樹)