SPECIAL 2004
2004年9月 36号 掲載
「統合医療」について説明する渥美和彦氏 |
「統合医療」とは
「統合医療とは、現代西洋医学とCAM (Complementary and Alternative Medicine)を結合した医療体制を指します」と説明。
CAMとは、アジアを中心に発達した伝統医学や民間療法を指し、中国医学、漢方、インドの伝統医学アーユルベーダ、指圧、カイロプラクティス、鍼灸、瞑想、ハーブ、アロマテラピー、気功、ヨガなど幅広い療法を含む。
「これらの医療法を患者の症状に合わせて選びながら治療していくというのが統合医療なのです」
今、なぜ統合医療なのか
「これまで西洋医学は統計学でした」とガンとたばこの関係を例に挙げ、「ガン患者の 70パーセントがたばこを吸っていたとするとガンと喫煙は関係があると結論づけられる。
そして、ヘビースモーカーでガンにならない人やタバコを吸わないけどガンになる人の事実は無視され続けてきた」と説明。
科学的根拠や理由を重要視する EBM(Evidence Based Medicine)が常識で、なぜこのガンの治療が必要なのか、こういう根拠があるから必要なのだという統計学に根拠づけられた説明をすることが西洋医学の重要な点だった。
しかし にこれを適用することは難しい。長い歴史と経験によって行われる伝統医学では従来の科学的方法では測定が不可能なものもある。
科学的根拠のない治療法や70 パーセント以上の人に効果のない薬は使用しないという現代西洋医学と10 パーセントの人に効果があればその薬は十分に使用価値があるとする
、ある人には効くがある人には効かないという確立が70 パーセントと10 パーセントでは必然的に薬の使用や医療方法に相容れない溝ができる。
「その溝に橋を架けることが私の役割だと思います。これが私の目的です」と明言。「最先端の医療技術を開発利用してきた私が東洋医学つまり西洋医学者がいうところの非科学的医療に興味を持ったのを不思議に思う人がいますが、そういう彼らとの橋渡しが私の役割だと思うのです」
世界的な流れとしてCAM が見直されている事実もある。アメリカでは国立相補・代替医療センター(NCCAM )が1999年に設立され、ハーバード大学など米国を代表する大学でもCAM
の研究所などが設立されたり、ヨーロッパでも大学を中心にCAM の研究がなされたり、世界保健機関(WHO )は2002年9月に神戸で伝統医療・相補・代替医療について国際シンポジウムを開いたりという動きがあった。
これは米国で西洋医学一辺倒だった考え方が変わってきたこと、医療費の負担が個人レベルのみならず国の財政も圧迫してきたことなどがあり、効果的で費用の少ない代替医療に目が向き始めたという背景がある。
「患者中心の医療『オーダーメイド・メディスン』」の推進
「さらにCAM は漢方の処方などにみられるように個人の症状に合わせて薬を作るという患者個人中心の処方が基本になっています。これが患者の望んでいることだというのがアメリカの動きになったのだと思います。統合医療はまさに患者中心の医療を基本と掲げているのです」と語る。
つまり、西洋医学、 と分けるのではなく患者に最も適した治療方法を提供する。ある時は最先端の手術が必要かもしれない、また手術後は薬づけにするのではなく漢方や鍼灸、アロマテラピーが最も効果的かもしれないというように個人の症状と病状に合わせて西洋医学、
のいいところを取り入れていく。
「それが統合医療(Interactive Medicine)と言われる理由です」
そしてホリスティック(全人的な)医学を理想とする。ホリスティックとは、心身を一体とし、身体の病気だけではなく精神面もケアすること、人間が持つ病気を自然に癒す自然治癒力を高めることも取り入れた治療法。これには、治療だけでなく病気を発生させない予防の医学も含まれている。
「統合医療はまさしくこの理想を現実化できる医療なのです」と語る。
今後の課題と活動
理想を現実化するには、これからいくつものハードルを越えなくてはならない。その一つが人々にもっとこの統合医療の存在を知ってもらうこと。
一般的にわかりやすく理解してもらうために、現代西洋医学同様 もはっきりした医学的効果を として可能にする、マスメディアを通して訴えるなど、「そして、そこから人々に本格的な国民運動にまで発展してもらって、国をも動かしてほしいと思います」と草の根的な運動も必要だと語る。
「これは医者だけで動いていては実現できないのです。看護士さん、中国医学者などの各専門家やボランティアの協力も必要です。いろいろな分野の人の協力によって成り立つものだと思います。だから、この理想的医療方法を現実化できるという夢を持ち続けて、これからもみんなと協力しあいながら努力していく必要があると思います」
では、いつこの理想の医療は実現するのだろうか。「今の西洋医学のレベルまで確立するには 年はかかると思います。
しかし、時代の流れは確実に統合医療に向かっていて、現在もこれを少しずつ実現している団体もあります。まずは教育から始めてみなさんが興味のあることから実現していくことを目標に、5年後には確実に統合医療の考えは浸透していると確信しています」と語った。
今回のバンクーバー訪問について
夕食会に参加したインド出身のバルマ医師は、インドの伝統医療アーユルベーダを科学的に研究し、コンピュータプログラムに取り込むという作業を行っている。まさに伝統医療のデータ化、証拠化をバンクーバーで実践している先駆者で、そのメカニズムについて熱心に説明を行った。
田中朝絵医師は、バンクーバーに去年立ち上げられた日本語を話す人、日本の文化や背景を持つ人のための医療団体「日加ヘルスケア」の整備を進めている状況などバンクーバーの日系医療の現状を語り、他にもさまざまな草の根的な活動やそれらに関する活発な意見交換が行われた。
最後に渥美氏は、「今回はアーユルベーダを研究しているバルマ医師を始め、日加ヘルスケアについての話しなど、バンクーバーですでに統合医療について、こんなにも理解を示して、実行していこうという人々と話しをできただけでも有意義な訪問でした」と夕食会から3時間以上にも及んだ統合医療についての尽きない話に「また是非訪れて、もっと詳しい話しをしたいですね」と満足感いっぱいの笑みで語った。
(取材 三島直美)
渥美和彦氏
医師。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。JACT (Japanese Association for Alternative, Complementary
and Traditional Medicine)理事長。
日本統合医療学会(JIM: Japanese Society for Interactive Medicine)理事長。専門分野は人工臓器、医療用サーモグラフィー、レーザー医学、医学のコンピュータ応用・未来学などで、アメリカレーザ医学会賞やバイオマテリアル科学功績賞など数々の賞を受賞。人工臓器やレーザー手術など最先端の医療技術を提唱した先駆者。日加ヘルスケア
グレーター・バンクーバー行政地域(Greater Vancouver Regional District)において、日本語を話す人々や日本の文化・背景を持つ人々の、肉体的、精神的な健康増進と生活の質(QOL
)の向上に助力することを目的として設立準備中の団体。問い合わせ先:nikkahealth@hotmail.com