SPECIAL 2004

2004年8月 33号 掲載


漢方をもっと活用しよう 
−漢方薬とのつきあいかた−

 

生薬の一部

 最近からだの調子がどうも良くないのだが、医者に診てもらってもどこも悪くないと言われるばかり…そんな経験はないだろうか。

 そのような場合、症状に対応する西洋医学的なアプローチではなく、その人の体質改善から始めて症状を治そうとする、漢方的アプローチが効く場合もあるという。そもそも、漢方(中国伝統医療)とはどのようなものなのだろうか。

 今回はメトロタウン近くで漢方・ハリ・灸のクリニックをひらいているフー・バイユウ先生にお話をうかがった。

漢方とは

 日本で漢方と呼ばれているものは、中国では中医学、カナダではトラディショナル・チャイニーズ・メディスンと呼ばれている。ご存知のとおり、中国で4千年以上の歴史をもつ伝統医療で、生薬(薬効成分を含む植物・動物・鉱物など天然のもの)を組み合わせ、様々な症状の治療に用いるのが特徴だ。

従って、どのような生薬の組み合わせ(処方)がどのような症状・原因に効くのかを見極めるのが漢方医(カナダではドクター・オブ・トラディショナル・チャイニーズ・メディスン、中医師)の役目となる。

中医師には政府認定制度がある

 さて、生薬の数は極めて多く、その組み合わせもまた膨大なため、だれでも簡単に処方できるわけではない。場合によっては副作用を引き起こす危険性もある。そこでBC州は、生薬の処方が出来る医師を以下のように認定する制度をとっている。

1、ドクター・オブ・トラディショナル・チャイニーズ・メディスン (Doctor of Traditional Chinese Medicine、高級中医師)
2、トラディショナル・チャイニーズ・メディスン・プラクティショナー (Traditional Chinese Medicine Practitioner)
3、ハーバリスト (Herbalist)

 1と2は漢方の診断・処方のほか、ハリ・灸もできる。両者の違いは、漢方に関する学歴の高さと経験年数である。3の場合は生薬の調合だけとなる。

 注意しなければならないのは、上記以外の東洋医学(または代替医療)の資格(たとえばアーキパンクチャー(鍼灸師)などでは生薬の処方は出来ないことだ。

次に述べるが、生薬の処方には、患者一人一人の状態にあった的確な診断が不可欠なので、きちんと漢方薬での治療を考えているなら、この資格を持った中医師のところへ行くことが大事だ。

漢方の理念

 西洋医学が分析の医学(人体の個々の部分の機能を調べていって、それぞれの部分に対して治療をしていく治療)に対し、漢方は人体をひとつのまとまりとして捉えることから成り立っている。この中で調和がとれている状態が健康、崩れていると病気、そして、その崩れを戻し、バランスが取れた状態に戻すことが治療となる。

漢方の診察方法

 人体には陰・陽・気・血といった4つの主要な要素があり、このバランスがどうなっているかを診察することから始まる。診察方法は「望・聞・問・切」。

 望は見ること。舌、目の回り、顔全体、顔色などを見ることだけでも病状やその部位が把握できるほど、病気に関するいろいろなメッセージが見て取れるそうだ。聞はにおいをかぐことと音(喉の呼吸音など)を聞くこと。

問は尋ねること。本人や家族の病歴、職業なども病気に影響することがあるそうだ。切は脈診。左右の手首の内側あたりに指を三本そえて脈をはかるのだが、それぞれの指で腎臓、肝臓と言った個々の臓器の状態を診られるとのこと。記者も診てもらったが、異常なし。腎臓も健康だそうだ。

生薬の処方

 これらの診断によってバランスのゆがみの状態がわかると、それを戻すための生薬を処方する。たとえ症状が同じ腹痛であっても、それを引き起こしたバランスの崩れ方が異なれば、異なった生薬の処方になるし、逆に同じバランスの崩れから来た全然違う症状の場合ならば、同じ生薬の処方になる。熱が出たからドラッグストアへ行って解熱剤を買うといった、単純な公式にはならない。

 フー先生は200種類以上の生薬から、その患者さんひとりひとりに合うものを調合する。

漢方による治療の実際

 診断と処方。この二つが的確でなければ処方された薬も効果を発揮しない。フー先生は長年の知識と経験から、それぞれの患者さんに合った生薬を処方する。先生が得意とする分野は婦人科、内科、皮膚科だ。

 ホルモンバランスの崩れによる不妊症、生理痛のケースを数多く先生は診てきた。 12年間様々な不妊治療を受けてきたご婦人が、漢方薬の治療を始めてわずか6ヵ月で妊娠したケースもある。

 湿疹もバランスの崩れから免疫力が弱ってきている場合に起こりやすい。ステロイド剤による治療が一般的だが、今度はステロイド剤依存の体質になってしまい、免疫力が戻らないという副作用に陥ってしまう。現在は外用の漢方薬もあり、内服薬と併用して免疫力を高めることで副作用なく湿疹の治療をすることが可能だ。

 胃炎も、実はストレスで弱った肝臓が引き起こしている場合も多い。こういった内臓の因果関係を見て病状を改善するのも漢方の得意とする分野だ。

バランスの取れた体で健康な生活を

 生薬には全て陰か陽かの性質があり、それが処方のときの考慮点のひとつになる。しかし、この陰・陽は生薬に限らず、全てのものにある。普段私たちが食べているものにもある。その何を食べているかで体のバランスも変わり、偏食していれば当然バランスも崩れる。かと言っていちいちこれは陰の食べ物、これは陽…なんて考えながら食べるのも大変。

そこでフー先生のアドバイスは、「出来るだけいろんなものをバランスよく食べること。『一日に 30種類以上食べれば大丈夫』とよく言われますが、実際それくらい食べていれば大体バランスはとれるものです」とのこと。

 長い歴史に裏付けられた漢方。その理念は私たちの普段の生活から活用できるもの。これを機会に体全体のバランス・健康について見なおしてみてはどうだろう。
     (取材 平野直樹)

フー・バイユウ医師プロフィール
中国上海市生まれ
1985年上海中医大卒業後、1992年まで上海第二大学病院に勤務、漢方などの東洋医学と西洋医学の両方を取り入れた治療の経験を積む。

1993年から96年まで日本に滞在。岡山大学医学部内科での中医学を応用した研究や臨床経験を重ねたのち、カナダに移民。

現在はメトロタウン近くのクリニックで診療を行うかたわら、バンクーバー国際中医学院にて週3回の講師を行うなど、多忙な生活を送っている。

国際中医学院はカナダで最大規模の漢方・ハリ・灸の学校で、日本人生徒も多い。

BC州認定 高級中医師
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