SPECIAL 2004

2004年4月 15号 掲載


矢野アカデミー
第7回同窓会&勉強会 


講演する田中享主席領事

  今年開講 10周年を迎えた矢野アカデミーの第7回同窓会&勉強会が、3月28日インターナショナルハウス・バンクーバーで行われた。

 在バンクーバー日本国総領事館から田中享主席領事を招いての講演やインターナショナルハウス・バンクーバーの吉武政治校長、矢野アカデミー矢野修3校長の話は楽しく、3時間の同窓会は参加者にとってあっという間に過ぎたようだった。

「日本語教育と日本文化」
田中享主席領事講演


 ゲストスピーカーとして招かれた田中領事の講演は、外国人に日本語を教えることを志す参加者にとってとても興味深いものだったようだ。

  田中領事の世界の文化に対する知識の広さと深さに驚嘆し、わかりやすく面白く語るその話し方にも共感を覚えた参加者が多く、休憩中、講演後と田中領事に話しかけ、「楽しいお話でした。もっといろいろな話を聞かせて頂きたかったです」と言葉をかける人があとを絶たなかった。

 そこで、その内容を少し紹介しよう。異文化の中でお互いが理解し合い共存していくヒントが見つかるかもしれない。

〈映画と文化〉


 「皆さんが日本語を教える時に少しこの話を思い出してこういうこともあると思ってくれれば嬉しいです」と冒頭であいさつをして、まずは肩の力を抜くために映画を題材に、映画に反映される文化について話した。

 引用されたのは、日本を舞台にした2作品、ロスト・イン・トランスレーション(Lost in Translation 2004年アカデミー賞作品賞、監督賞ノミネート)、ラスト・サムライ(The Last Samurai 2004年アカデミー賞助演男優賞ノミネート)と、話題のアメリカ映画2作品、ロード・オブ・リングス 王の帰還(The Load of the Rings/the Return of the King 2004年アカデミー賞11 部門受賞)とパッション(The Passion of the Christ 2月25 日公開)。

 ロスト・イン・トランスレーションでは、その題名通り問いかけられたのは翻訳。違う文明の間での翻訳というのはあるのだろうかという問いに、直訳も翻訳もない象徴的に似ていると言うだけと説明、「理解と誤解は紙一重」という言葉を引用して文化への理解を強調した。

 ラスト・サムライを引用して語ったのは、日本人の精神生活の中心に入ってくる言葉「一生懸命」について。もともと武士の言葉で、自分の所有地「一所」を命がけで守ることから生まれた「一所懸命」に由来すると説明。侍というひとつの社会階級が日本文化の中心・倫理を形成しているということが肯定的に描かれているこの作品に関連して説明した。

 今回完結編となったロード・オブ・リングス 王の帰還は、欧米文化とは何かというのがよくわかる映画で、キリスト教とくに旧約聖書に書かれている世界の終末感と善悪の戦いが見事に描写されていた作品として紹介。パッションは2月に公開されたばかりの作品で、「イエス・キリストが処刑される24 時間から12 時間のことについて新約聖書の4つのバージョンを1本にまとめたもの」という監督の主張を引用し、なじみが薄い人にはわかりにくい新約聖書が2時間でわかる映画であると語った。

 これらの映画の引用の主旨は、文化というものがその国の根幹をなすものであり、それを知っておくことが大切ということ。カナダに生活しているのであれば、西洋文化への理解を広げていくという努力をし、欧米と日本の両方の柵を壊して自分を広げていくことをしないと本当の相互理解はありえないということを強調した。


あいさつする矢野修三校長

〈自国の文化を理解し、 相手の文化を理解する〉

 海外に来て、「なぜお辞儀をするの」とか「泥棒って英語に訳すと何」とか聞かれて説明できない自分に気づくことも多いのではと前置きして、文化文明をこう説明する。

 ある文化、文明、社会を知ろうとする時、リンゴの形を思い浮かべる。言葉とは、リンゴの皮の部分で、中に果肉という生活がある。そして中心の芯の部分が、本能と日本人なら日本人として当然とする価値観となっている。この部分をユングなどはコレクティブ・サブコンシャスと称し、絶対に譲れない価値観を指している。

 この価値観がどのように形成されていくかは、その文明の起源にまでさかのぼる。日本人の場合は弥生人と共に渡来した稲作が大きく影響しているのではないかという。みんなで力を合わせて行うと生産性が上がる稲作作業。

  そうした生活の中で村が出来上がり、個人ではなくコミュニティ優先型の社会が出来上がっていく。こうした歴史的な背景も後天的なものであるが日本人を形成しているコレクティブ・サブコンシャスの一部となっている。

 ここにさらに社会観、宗教観も加わる。男性系社会といわれる、ヨーロッパや中国と違い、日本は両性系。両性系の特徴として支援社会形成と公という概念。さらにそこにアニミズムのような宗教観が生まれる。

 では欧米ではどうなのかといえば、そこは契約社会。物言わずとも通じるであろうという運命共同体みたいな概念は通用しにくく、個人が優先する。その根幹にあるのはキリスト教という。どちらの文化にしても、人々の精神構造の根幹を理解することがお互いを理解することに繋がることを強調する。

 外交問題も決して例外ではない。迎賓館の次長を努めていた時の経験で、アメリカ大統領のシークレットサービス150人にいかにして靴を脱いで訪問してもらうかに思案を巡らしている時、旧約聖書の十戒の一説を使って説明し理解を得たことを例に挙げた。そして「靴を脱ぐことは日本の文化だから」と自国の文化を押しつけるだけではうまくいかない、相手の精神構造と文化を理解して説明すれば分かり合えることを強調した。

 講演後、「今日はなるべく面白く話そうと思って用意してきたんですが」と微笑んで、「文明論とは一番難しいところだと思います。しかし、独りよがりの文明論ではいけない。日本人として他の文化で生きていくには、ということを考えるのが大事。日本文明と世界の文明を並べてどう違うのかを理解し、自分も相手も理解することが大切だと思います」と語った。

開講10周年、日本の留学雑誌「アルク」でも紹介

 「日本語を教えたいんだけど、教え方がわからないんです」と言われたことがきっかけで1995年から始まった「日本語教師養成講座・基礎編」も第1期生から148期生まですでに950人以上の卒業生を送り出している。

  最初は小さなガスタウンにあるビルの一室で5人ぐらいから出発。「こういう会が開けて教師冥利に尽きます」とこの日の矢野先生のあいさつには、今年で開講 周年を迎える感慨深さがにじみ出た。

 そんな記念のこの年に、日本を代表する留学雑誌「アルク」に矢野アカデミー日本語養成講座が紹介された。「特に 10周年だからというのではなくて、たまたまなんですけど」と笑ったが、それでも2月 16日に発行されてから雑誌を見ての問い合わせもすでにあるという。

 「ここで日本語教師になるためのすべてを教えられるわけではないですけど、最低限の鎧は与えてあげられると思います。あとは自分で勉強経験して成長していってもらいたいですね」とこれからも生徒達のニーズに合わせたカリキュラムと独自の指導方針で生徒達をサポートしていきたいと語った。
(取材 三島直美)

矢野アカデミー
1994年に日本語講座を開講、翌95年3月日本語教師養成講座を開講する。現在は、日本語教師養成講座基礎編、上級編を開講している。講師は矢野修三校長。少人数制のクラスで、基礎編は1期4週間8科目、上級編は5週間5科目。
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