MAPLE 2004

2004年10月44号 掲載


クィーン・シャーロット群島

海に囲まれた太古の森 Part2

 

 

イルカ
イルカの大群との出会いは本当に幸運だった。

クィーン・シャーロット群島(QCI)に残されたハイダ族の集落跡には、朽ち果てようとするトーテムポールが海に向かって立っている。まるで打ち寄せる波と何かを語り合っているかのようだ。

ハイダ族の人々の文化に触れた感動はもちろんだが、それ以上に海に生きる生物達との出会いも訪れる人々の心に深い印象が刻まれることだろう。


ゾーディアックで230海里を走る

 QCI には、バンクーバーから飛行機でサンド・スピットまで飛ぶことが出きる。しかし、見所の多い南部の島々へはボートか水上飛行機でなければアクセスできない。今回の旅では8人乗りの小さなボートで海へ乗り出した。

このボートはゾーディアックと呼ばれるもので、強力なエンジンのついたゴムボート。ゴムボートといっても、ナイフを差そうとしても穴が開かないといわれるほど頑丈。座席はまるで乗馬のようにまたがる方式で、スピードも十分に出るので、風を切って進むとかなりの風圧だ。

波を被る可能性も高いので、救命ジャケットの上にゴム合羽の上下、長靴という重装備になる。

 今回は2泊3日と、通常のツアーより短い行程だったが、合計で230海里(426キロ)以上航行したことになり、ボートに乗っていた時間も通算 時間を越えた。

幸運なことに波のほとんどない日が続いたので、海水がボートの中にまで入ってくることはほとんどなかった。

しかし外海へ出ると、ボートは波を切って進む。まさに暴れ馬に乗っているように上下に揺れたが、不思議なことに船酔いをした人が誰もいなかった。

スリルとスピードでそれどころではなかったからかもしれない。

突然現れたイルカの大群

 QCI はホェール・ウォッチングの名所としても知る人ぞ知るエリアだ。特にザトウ鯨に出会えるチャンスが多いのは5月だそうだが、今回も海に出てすぐ、遠くにザトウ鯨の姿が見えた。しかし、その時は背中がほんの少し見えるだけで、尾を海面に出すことはなかった。それでも、今回初めての鯨との出会いに同乗していた8人はニコニコだった。

 すると、突然ボートの周囲に小さな水しぶきが上がった。「イルカだね!」とボートのキャプテンが私達に声をかける。「エッ?どこ、どこ!」と周囲を見まわすうちに、水しぶきはどんどん数を増してくる。

キャプテンはボートを急旋回させて沖へ向かう。見渡す限りの水面がピシッ、ピシッと音を立てて沸きあがっているようだ。数百頭は軽く越えていると思われるようなイルカの大群だった。

 ボートのすぐ下にも何十頭ものイルカが同じスピードで泳いでいく。時々、まるでいっしょに遊んでいるかのように追い越していったり、右舷から左舷へと方向を変えたりする。キャプテンも「こんなにすごい数の大群は初めてだぁ!」と大きな声をあげたほど。彼も少々興奮しているのか、どんどんイルカと一緒に沖へ進んでしまった。

水平線の向こうには「フダラク」と呼ばれる浄土があると、中世の日本人は信じていたという。「このままイルカといっしょに、海の浄土へ運ばれてしまいそうだなぁ…」と、ボンヤリ思っていると、ハッとしたような声で「さあ、そろそろ戻らないと燃料が心配になるよ。」というキャプテンがつぶやく声が聞こえた。

オヒョウ
QCIの海には魚介類が豊富。
漁民が大きなオヒョウを釣ったようだ。

もう感動で心がいっぱい!

 小さな島の入り江で、さきほどの感動を思い出しながらランチ。誰もが寡黙になってしまった。しかし、大自然の気まぐれはまだまだ続いた。

 午後、温泉の湧く島へ向かってボートが進んでいると、ザトウ鯨の姿がまた見えた。

その鯨は、グッと一回顔を水面に大きく出し、深く潜ったと思ったとたん、なんと全身を水面から出して空中に舞いあがったのだ。あの巨大な鯨が宙を舞うのだから「息を呑むような」という表現がこれほどピッタリした場面もないだろう。

乗船していた全員の喉から、「ヒュッ」という不思議な音が聞こえた。

 旅程の最後はホットスプリング・アイランドという島に湧く温泉で一休み。海を見渡す三つの露天風呂は熱いお湯の好きな人でも十分満足できる温度。ハイダ族の人々は、海辺に上がる湯煙を見て、この島には精霊が住んでいると信じていたそうだ。

 一番湯の温度の低い湯壷につかって、海が西日にキラキラ光るのを見ていると、目の中に今日見た鯨やイルカの姿が浮かんできた。ハイダ族の人々は動物との出会いを大切にしている。自然の中でどんな動物に出会うかは神からのメッセージだというのだ。

この旅の間には、鯨以外にも、トドやアザラシ、悠々と大空を飛ぶ白頭ワシ、深い森の木々の間を走りぬける鹿などなど、たくさんの野生動物が目の前に現れた。大自然はいったい何を私に伝えようとしてくれたのだろう?   
  (取材・文 宮田麻未 写真 神尾明朗)

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