MAPLE 2004
2004年9月 38号 掲載
川面が鮭の背中で深紅に染まる |
秋の西部カナダのハイライト
BC州には鮭が遡上してくる川が2000本もあると言われている。バンクーバー島ビクトリア近郊やウィスラーの近くまで遡上してくるものもいる。
しかしながら、その中でも最も有名なのがアダムスリバーとその源流であるアダムスレイクだろう。無数ともおもえる鮭が川面を真っ赤に埋め尽くす。この感動は実際に体験したものでないとわからないだろう。
1年を通じて限られたこの時期にしか見ることが出来ないこの鮭の遡上を見る「サーモン街道」こそが、秋の西部カナダのハイライトだ。
鮭の遡上
是非この機会に自然とはいかに厳しくまたいかに優しいかを知る貴重な体験をしよう。アダムス川で産まれた鮭は太平洋に下り、約4年の歳月を経て生まれ故郷の川に帰ってくる。しかし生まれ故郷までたどり着いて産卵を果たせることができるのは、ほんのわずか。
川で孵化した稚魚のほとんどは、太平洋まで下ることすら出来ないと言われている。太平洋の荒波にもまれ、生後4年で生まれ故郷のアダムス川まで戻ってくるだけでも、確率から考えるとすでに奇跡的。鮭たちはフレーザー川の河口から500キロ以上の距離を1ヵ月以上かけて生まれ故郷を目指して激流を遡るのだ。
しかも海から川に入ると鮭は一切何も食べなくなる。彼らはいったん遡上を始めると体内に蓄えた栄養だけで生まれ故郷に帰ってくる。飽食の世に暮らす我々はその事実を知り、彼らの姿を目の当たりにすることにより言葉で言い表せない感動を覚えるのだ。
鮭の心配事
鮭は産まれた川の匂いを頼りに故郷を目指すと考えられている。鮭の生態を研究する専門家は、その土地の成分や生えている木の落ち葉などが複雑に絡み合った匂いを唯一の手がかりにするという説が有力だとしているが、はっきりしたことはわかっていない。
付近で新たな土地開発が始まったり大規模な山火事などがあったりすると、川の成分が微妙に変化し生まれ故郷に戻れないとの説もある。昨年、大規模な森林火災があったこの辺りでは、川の匂いが微妙に変化していることが考えられるので、例年のように無事に遡上を果たすことができるか研究者ならずとも興味深いところだろう。
鮭の遡上が意味すること
命を懸けて生まれ故郷に戻った鮭を最後に待っているのは産卵だ。1匹ずつのオスとメスがペアになり、川の流れが穏やかでしかも新鮮な空気が多く含まれている絶好の産卵ポイントを探しまわる。
頭と尻尾、背びれなどを除いた全身を深紅に染めた鮭たちは、最高の産卵場所を探すためには自分の体の半分ほどの浅瀬をも厭わず産卵の直前まで他のペアと最後の争いを続ける。それだけでなく、相手を見つけられなかったオスたちはメスを横取りしようとペアの周りを何度も周回を重ねる。
とがった下あごを持つオスたちはその発達した下あごでライバルの体に噛み付き最後の一瞬まで弱肉強食の世界を展開する。
約5000個の卵を産んだメスは 日間ほど卵を守って次第に衰弱していく。激しい競争を生き残り、そこまでして得た産卵の機会のあとに待っているのは「死」。ただし、そのあとには当然のようにまた新しい命の誕生がある。この永遠とも思えるサイクルを大自然は人間の手を一切借りることなく脈々と未来へと受け継いでいくのである。
産卵を終えた鮭の死体が川辺に打ち上げられ、その死んだ鮭の体を栄養として微生物やコケなどが発生し、またその微生物やコケなどを鮭の稚魚が食べ成長する。その稚魚は太平洋と言う大海へ出て、体内に栄養を蓄えて4年後には生まれ故郷の川に帰ってくる。
その鮭を森に棲む熊が食べ、森林も熊が食べ残した鮭から栄養を得て成長をし、他の多くの動植物が暮らす場所を提供する。この森林が育つことにより地球温暖化の進行が妨げられるとも言われている。
遊歩道の奥にあるひっそりとした産卵場所。 ここを見つけたときは感動した。 |
熊と鮭と森との関係
最近の研究の結果、森に棲む熊はこの遡上の期間に彼らが1年間に摂取する %程度のたんぱく質を鮭から得ていることがわかった。
ある研究によると1頭の熊は鮭が遡上するおよそ 日間に700匹の鮭を捕らえるという。川を遡上する鮭のおよそ7割が最終的に熊に捕食されるというデータもある。
その熊が食べ散らかした鮭も森林にとっては何よりのご馳走だ。実際に森の木を切って調べてみると、鮭の大遡上があった年には樹木の生長が著しいことがわかっている。鮭の遡上はBC州の生態系の根幹を担っていると言ってもいいほどの一大イベントなのだ。
ひとたび森林が伐採され鮭の遡上する川が寸断されたりダムや堰が建設されたりすると、鮭の遡上が妨げられ、その結果上流の森や川が痩せてしまい、また遡上出来ないのだから必然的に鮭の産卵も激減する。
その結果、太平洋を泳ぐ鮭の数にもすぐに影響が現れる。当然、海の中の生態系にも影響を及ぼし、絶対数が減少することにより我々の食卓に上がる機会も減る。そうすると高値になった鮭を販売することにより利益を狙う人間がそれをさらに乱獲すると、鮭の絶対数がさらに減るという悪循環に陥ってしまう。
自然とはいかに大きなサイクルでその営みを繰り返すのかを知れば知るほど驚かされる。
人間が自分たちの便利さと快適さのために森林を不必要に伐採しすぎることや、必要以上に資源の乱獲を進めることは、ひいては鮭の遡上数だけでなく上流の森やそこに暮らす熊やそのほかの小動物にまで広範囲で悪影響が派生することが最近の研究の結果徐々に明らかになってきた。
鮭は自分たちのためだけでなく、森に棲む多くの命の源ともなっているのだ。鮭が命を賭して海の栄養を山へと運ぶことが究極的な遡上の大命題なのだ。
ロデリックヘイグブラウン公園
アダムス川流域で鮭の遡上の様子がもっともよく観察できるのが、このロデリックヘイグブラウン州立公園だろう。ここには見晴らし台や遊歩道などが完備されていて、浅い小川を勢いよく泳ぐ鮭を目の前に見ることができるだけでなく、今まさに産卵をしようとしているペアなどがまさに手が届くほどの距離に観察できるようになっている。
入り口近くのテントには自然学者が多くの資料をそろえ、観光客に詳しい説明を行っている。疑問に思ったことはこのテントで専門家に聞いてみるといいだろう。
遊歩道をしばらく進むとアダムス川の岸辺に出られるようになっていて、今にも熊が出てきそうな光景に出会える。また遊歩道にはいくつかのコースがあり、駐車場から左手に進んだ方向にある小川の終点に泳ぐ鮭を見たときの感動は筆舌に尽くしがたい。
このロデリックヘイグ公園に向かう途中には、このあたりの先住民族が経営するクアアウトロッジというホテルがあり、ここの入り口にある伝統的な暖炉は見逃せない。またロッジ内のみやげ物の売店はネイティブアートが豊富に飾られていて、マニアでなくてもつい欲しくなるような工芸品が数多くある。
また不定期的にだが民族衣装を身にまとったネイティブの人が踊りや太鼓を披露してくれることもある。また河畔は絶好の散歩コースとなっており、是非ここで1泊することをお勧めする。
オカナガンといえば
最近BC州でもっとも人口が増加している地域がオカナガン地方だ。夏の温暖な気候を利用して古くから果樹園農業が盛んで、りんごや桃、さくらんぼといった果物を大消費地であるバンクーバーに供給をし続けている。
街の中心にあるオカナガンレイクは「オゴポゴ」という伝説の恐竜が生息していると言われている。このあたりは乾燥した気候帯なので過ごしやすく、しかも夏は湖でマリンスポーツを楽しみ、冬は近くの山でパウダースノーを十分に味わえるため、カナダ人なら誰もが一度はここに住んでみたいと思うほどの環境に恵まれている。
またこのあたりは緯度が高いため、夏の一日の日照時間が長くそれがブドウの栽培に適している。ブドウの生産地としてはほぼ地球上で最北限と考えられている。
その良質のブドウを使って作られるのが「オカナガンワイン」だ。ここのワインは世界のワインコンクールで数々の栄誉を獲得している。
ただ、オカナガン地方のワイナリーにそれほど古い歴史があるわけではなく、本格的にこの地方でワインが作り始められたのはカナダ政府の農業政策の変更により、いっせいにブドウの原木が植え替えられた1988年以降のことだ。是非、BC州が世界に誇るワイナリーでワインを買って帰りたい。
ヘルズゲート
カナディアンロッキーの最高峰マウントロブソンを源に発する大河フレーザーリバーの名前の由来となった冒険家サイモン・フレーザーがこの地に始めてやってきたのは1808年のことで、幅
メートルの渓谷を発見した彼はこの地を「AWESOME GORGE(偉大な渓谷)」と呼んだ。
その後1913年に始まった大陸横断鉄道の工事のため、鮭がこの急流を遡上できなくなるという事件が起こった。1969年には鮭の遡上のために専用の魚道を建設し、その後は徐々に鮭が帰ってくるようになった。
ちなみにこのヘルズゲードでは、もっとも水量が多くなる時期には毎秒500立方メートルの水が流れている。これは1リットルのペットボトルに換算して1秒間に1500万本分の水が流れているということになる。
行ってみよう!
バンクーバーからトランスカナダハイウェイを東へ400キロほど進むとカムループスに到着する。そこからさらにクルマで1時間ほど東に行ったところにアダムスリバーにロデリックヘイグブラウン州立公園がある。
近づくにつれて看板がいくつも出てくるので迷うことはないだろう。ただし、全走行距離が1000キロ近くになるため運転に自信のない人はツアーの利用をお勧めする。
ツアーの詳細は、この内容に沿ったツアーを企画しているJTB日本語観光(ホテルバンクーバー地下1階 電話604-681-5374 年中無休)まで。
(取材 田中猛)