MAPLE 2004

2004年6月 25号 掲載


アムトラック鉄道で行く
ワインの香りといっしょに走るカリフォルニア


ワインの試飲は量もたっぷり楽しめる

  今年の夏、カリフォルニアへの旅を計画しているなら、ぜひ日程に加えたいのが鉄道の旅。のんびりと心地よい揺れに体をまかせて、窓の外を流れる風景を味わうのは「大人の旅」らしい楽しみ。

 車内で様々な人に出会えるのも嬉しい。一番のおすすめは、サンフランシスコからロサンジェルスまでの区間だ。

花形路線コースト・スターライト号に乗ろう!

 ワシントン州のシアトルからカリフォルニア州のロサンジェルスまで、一泊二日がかりで走るコースト・スターライト号は、アメリカの鉄道網の中でも花形の一つ。

 深い森や美しい海岸線を通るので、車窓からの景色の素晴らしさでも人気があるが、ワインテイスティングなど、車内で様々なイベントがあるのも好評だ。

  これらのイベントを体験するには、寝台車や個室寝台など、アコモデーション付きクラスの切符を買う必要がある。料金はコーチ・クラスの約3倍ほどだが、行程中の全食事付きだから、実質はそれほど高くはない。もちろん、コーチ・クラスでも座席はゆったりしていて十分に乗り心地の良さを楽しむことができる。

 サンフランシスコからロサンジェルスまでは約 時間。要注意なのは、列車はサンフランシスコのダウンタウンにある駅から出発するのではないということだ。

  コースト・スターライト号は内陸側のルートを通って来るので、サンフランシスコ湾を挟んで東側にあるオークランド駅から出発する。ダウンタウンからは鉄道バスで送迎してもらえる。

大張り切りで駅へ…
でも、列車は来ない!


 オークランドの駅はまだ新しく、高い天井までガラス張りになっていて明るい光が差し込んでいる。しかし、待合室の長椅子の半分はレトロな木製。おそらく旧駅舎で使われていたものだろう。こういうところにも、鉄道好きの心をくすぐる工夫が感じられる。

 州内の中距離路線の電車が何本も行き来するが、到着予定時刻になってもいっこうにコースト・スターライト号は姿を見せない。

  花形路線といっても、実はこのルートは単線。しかも客車は一日に上下線一本ずつだから、本当の花形は客車ではなく貨物列車。貨物列車とのすれ違いのために、引込み線でじっと待機ということも少なくない。到着時間が多少遅れたぐらいでイライラする人は鉄道の旅向きではないということなのかも?

個室寝台でお昼寝自在の極楽旅

 1時間半遅れで、ようやく列車が到着。いかにもパワフルそうな機関車に引かれた二階建ての列車は乗り心地良さそう。一歩車内に入っただけで、すっかりのんびりモードに気分が変わるのもいい。

一つの車両ごとに専属の客室係がおり、その人の案内で指定された個室寝台へ。すでに寝台は片付けられて椅子が向かいあった状態になっていたが、「横になってくつろぎたい。」というと、ベッドの状態にもどしてくれた。

  個室寝台は二人用だが、料金は一部屋についての値段。一人で使っても二人で使っても同料金。ただし、運賃は各人ごとで払うことになる。二人用の個室寝台はできれば一人で使うと良いだろう。二人でも大丈夫だが、やや狭い。新婚旅行などには四人部屋を二人で使うのがベストだろう。グループなら、寝台車の方が個室よりもかえって楽しいし、スペースもゆったりしている。

各車両にはコーヒーやジュースなどが用意されているコーナーがある。コーヒーとマフィンをもらって、ベッドでのんびり足をのばしたところで、列車はゆっくりと走り始めた。シリコンバレーの中心、サンノゼまではサンフランシスコの郊外らしい住宅地が続く。

ランチの後はワインのテイスティング

 やがて窓の外はやわらかな稜線をえがく丘陵地帯に変わっていく。ほとんどは牧草地で、牛の群れがのんびりと草を食べているのが見える。ところどころに大きく枝を広げた樫の木が現れるのもいい。ちょうどお腹がすいてきて、牛がうらやましくなったころ、ランチの時間になった。

 座席は4人づつ、食堂車の係員が決めてくれる。4人以下のグループや個人は、食事のたびに新しい人と会うことになる。

  「鉄道が好き」という共通点があるせいか、すぐにうちとけた雰囲気になる。食事は3種類ほどのメインディッシュが用意されているので、選択の幅は十分にある。ベジタリアン用のメニューが必ず含まれているのがカリフォルニアらしい感じ。

 モントレーを過ぎたあたりから、窓の外にはブドウ畑が目立つようになる。ワシントン州から、オレゴン、カリフォルニアと、コースト・スターライト号のルート沿いにはワインの産地が点在している。

  その場所ごとに、特産のワインを試飲することができるのがこの列車の特徴。今日はモントレーとナパのワインが紹介された。ラウンジ・カーに集まった人たちは、最初は少々緊張気味の顔で試飲していたが、お酒が少しまわってきたら味比べはどこへやら、皆な「楽しければいいよね!」という雰囲気になってきたのが面白かった。

突然の霧…その向こうに海が見えた!

 サン・ルイス・オビスポの駅で、北へ向かう列車を待つ。スペインの植民地時代の聖堂なども見えてきて、カリフォルニア南部らしい景色。すると、とつぜん深い霧に列車が包まれてしまった。

  なんだか宇宙空間を走る銀河鉄道のような気分を味わっているうちに、夕食の時間に。また別の人々といっしょにテーブルに付く。ランチの時とは違う服に着替えて贅沢な旅の気分を盛り上げている人もいる。

 食事の途中で、車内にスッと夕日が差し込んで来た。霧のトンネルを抜けたらしい。その向こうには雄大な海が沈みかかった太陽に照らし出されていた。車内の誰もが、食事をする手を止めてしまったほど、感動的な光景だった。

 じっくりと時間をかけた夕食の後は、展望車でまたワイン。鉄道の揺れでいつもと違うじんわりとした酔い心地だ。列車は遅れを取り戻そうとスピードをあげているらしい。ロサンジェルスまで、あと少しだ。 
(取材・文 宮田麻未 写真 神尾明朗)

DATE
アムトラックの詳しい情報や予約はWEB:www.amtrak.comか
無料電話:1-800-872-7245で。
サンフランシスコーロサンジェルス間の個室寝台料金はUS$250程度だが、季節や前売りなどの条件で、かなり幅があるのでサイトなどで確認すると良いだろう。