SPECIAL 2004
2004年1月 5号 掲載
チャイナタウンの西の入り口、ミレニアム・ゲート |
今年は年明けから寒さが厳しい。その代わり青空が見える率も例年より高いようだ。もし今週末も晴れのようなら、ディムサムを楽しみにチャイナタウンへ出かけよう。おいしい中華料理で体が温まったら、SILKROADというサインを目印にチャイナタウンのウォーキング・ルートをたどってみてはいかが?
スタートは「ミレニアム・ゲート」から
「シルクロード」は、チャイナタウンの歴史的建造物などをたどりながら、バンクーバーの中国系市民の歴史を自然に学べるように作られたウォーキング・ルートだ。途中でお店をのぞいたり、庭園を散策したりしながら、ゆったりと歩いても1時間ほど。食後の散策にはピッタリだ。
基点はW. PenderとTaylor Stの角に建つ中華門から。スカイトレインのスタジアム駅から数分のところにある。この門はミレニアム・ゲートと呼ばれ、新世紀の開幕を記念して建てられたものだ。伝統的な中華門のデザインだが、あちらこちらに新しい工夫があるので、じっくりと眺めてみたい。
門を入って、すぐ左手のビルの壁いっぱいに描かれた絵も興味深い。この絵は「百年風雲壁画」と名付けられているが、文字通り、1885年から現在までのチャイナタウンと中国系市民の「風雲の歴史」が描かれている。
バンクーバーが市になったのは1886年のことだが、それ以前から中国系の人々はこのカナダ西部の創生期に大きな貢献をしてきた。金鉱や炭鉱、製材所などで厳しい労働に携わっていたのだ。特に1881年から1885年までの間には、1万人以上の中国人がカナディアン・パシフィック鉄道の建設現場で働いており、これらの人々の力が無ければ大陸横断鉄道は完成しなかっただろうと言われている。
しかし、1885年に中国からの移民には「人頭税」が課せられるようになり、それ以後、第二次大戦が始まるまで、中国系の人々は激しい人種差別にさらされて来た。多くの困難を乗り越えて、バンクーバー社会の中にかっこたる位置をしめるようになるまでの歴史をこの壁の絵が語りかけているのだ。
ギネスブックでも有名なサン・キー・ビルディング
バンクーバー観光のポイントの1つになっているのが、このサン・キー・ビル(8 W. Pender St)。一見なんの変哲もない小さなビルだが、横から見ると幅が1メートル80センチほどしかない。隣のビルの壁に張り付いているだけのように見える。謎はトイレ。ビルの1階はガラス張りで、どこにもトイレはなさそう。実は、このビルはもともとはごく普通のサイズの敷地だったのだが、ペンダー通りの拡張で今のような状態になったらしい。しかし、地下室は歩道の下にもはみ出しており、トイレも十分な広さがあるとのことだ。このビルは世界で一番厚みの薄いビルとして、ギネスブックにも掲載されている。
このような「苦肉の策」をほどこしたビルは他にもある。チャイニーズ・タイムス・ビル(1 E. Pender St)は、1914年から発行されている大漢広報という新聞が1994年まで本社ビルとして使っていた建物。建てられたのは1902年だ。苦肉の策は1階と2階の中間にある不思議な窓。かつて、各階ごとの面積に対して税金が掛けられるシステムだったとき、税金のがれのために作られた「中2階」。天井が低いのさえ我慢すれば、2階ではないので、この部分は無税というわけだ。
心がスッと澄んでくる孫文記念庭園
チャイナタウンの散策のハイライトは孫文を記念して作られた中山公園(578 Carrall St)。この庭園は明朝(1368−1644)時代の蘇州で花開いた作庭技術の伝統を忠実に再現したもの。中国以外の場所で作られた、最初の本格的な明朝様式庭園と言われている。造園技術者も材料のほとんども中国から運ばれたもので、技法や道具も伝統的なものが使われたそうだ。
一歩庭に入ると、中国古典の世界へタイムスリップしてしまったような気がしてくる。竹の葉がかすかに風に揺れる音、小さな滝、回廊に差し込む柔らかな日の光など、どれも心をふんわりと包んでくれるようだ。雄大な中国の自然を凝縮して描写した岩石は、想像力を心地良く刺激してくれる。まるで深い山や大きな海が目の前に広がっているかのようだ。雪景色の美しさなら、おそらくここがバンクーバーで一番だろう。春先の梅の時期、青葉の頃、そして秋の紅葉もすばらしい。
中山公園は有料だが、すぐ隣にも池をめぐる庭園があり、こちらは無料。中山公園の水上亭からこの池を眺めるのも楽しみだし、反対に池の側から中山公園の建物を見渡すのも味わいがある。
互助組織のビル群は外装をチェック
ペンダー通りを東へ向かうと、20世紀初頭に建てられたビルが幾つも並んでいる。どれも外装には、中国風と西洋風が交じり合ったおもしろいデザインの飾りがほどこされてある。これらのビルの多くは、同じ苗字の人々が集まった同族組織や、同じ地方出身者の互助組織などの建物だった。長い間、政府の社会保障を受けることができなかった中国系の人々は、こうした互助組織で助け合ったり、お金を融通しあったりしてきたのだ。
例えば108 E. Pender Stにある中華会館ビルは1895年に結成された中華同胞協会のビルとして1909年に建てられたもので、貧しい人々の救済や病院として使われていたこともある。この他、黄氏の同族組織のビル(123
E. Pender St)や李氏大楼(131 E. Pender St)も見逃せない。
中国のお菓子で一休み
ペンダー通りとメイン通りの交差点まで来たら右折して、お隣のキーファー通りを戻って一周してみよう。途中、メイン通りにあるベーカリーで甘いお菓子でいっぷくするのもおすすめだ。
終点は昨年秋に建てられたばかりの記念碑。古代文字の「中」を象った巨大なものだ。足元には鉄道建設に従事した初期の中国系移民と、第二次大戦に従軍した兵士の像が建てられている。リッチモンドなどに中国系の人々が多く住むようになって、最近のチャイナタウンは活気も今ひとつという感じだった。しかし、この記念碑の完成をきっかけにして、バンクーバーのチャイナタウンを再生しようというプロジェクトにも拍車がかかりそうだ。
(取材・文 宮田麻未/写真 神尾明朗)
Information
● チャイナタウンの歴史やウォーキング・ツアーの地図
ウェブ:http://vancouverchinatown.ca