SPECIAL 2004

2004年1月 2号 掲載


地球の鼓動といっしょに走る
グランド・サークルへのフライ&ドライブ


聖書に登場する英雄や聖人の名前のついた岩山が続くザイオン国立公園

   大自然がその荒々しいパワーをむきだしにしているような風景が続く。どこまでもまっすぐ伸びているハイウェイの彼方に奇怪な姿の赤い岩山がそびえている。ユタ州南部から、アリゾナ州のグランド・キャニオンにかけて広がる荒野を走るドライブ・ルートは、「グランド・サークル」と呼ばれ、アメリカのドライバーたちのあこがれのひとつだ。
★「毒蛇とサソリに注意」の標識はジョークじゃない!
 グランド・サークルの基点はユタ州の州都ソルトレイク・シティ。2002年の冬期オリンピックの開催地として有名になった都市だ。ここからグランド・キャニオンに向けて南下していくと、アーチーズ国立公園をはじめとして、次々と有名な国立公園や州立公園、国定史跡などをめぐることができる。このルートは、グランド・キャニオンから北東に方向を変えぐるりと一周するのが理想的だが、ラスベガスへ抜けて戻ることもできる。このルートはグレイハウンドを乗り継いで旅することも不可能とは言えないが、あまり現実的ではない。ドライブしてこそ、このエリアの本当の魅力に出会えるといえるだろう。
 グランド・サークルの道路は比較的良く整備されているが、長距離ドライブになるので中型以上でエンジンはできるだけパワーのあるものを選ぶと良いだろう。レンタカーを借りるなら大手の会社を選ぶのが懸命。車の故障時などのサポートがしっかりしているのがポイントだからだ。また、道路状況は良くても自然環境はかなりシビアであることを覚悟すること。特に真夏は気温が40度を越えることもあるから、飲料水とラジエーター用の水はたっぷり用意することが肝心。冬も砂漠とはいっても落日後は気温がぐっと下がるので、その用意も必要だ。ガソリンスタンドはやたらとあるわけではないので、タンクが半分になったら給油するぐらいの心掛けがおすすめだ。
 この沿道の自然環境はかなりワイルド。周辺の注意標識には十分に注意して、甘く見ないほうが良い。例えば「毒蛇とサソリに注意」というような標識のあるところでは、やたらに道路や遊歩道からはずれて原野に入っていくのは危険だ。ガラガラ蛇はどこにでもいると思った方が良いほど。
★地球の素顔と向き合う
 グランド・サークルで出会う風景のどれもが、「雄大」とか「壮麗」とかいう言葉だけではとても表現できない圧倒的なスケールと迫力で迫ってくる。水と風、昼夜の温度差、そして想像を絶するような長い時間とが大地を削り、見る人の人生観まで変えてしまうような風景を創りだしている。まるで地球がその素顔を見せてくれているようだ。その風景の中に立つものは、大きく深呼吸して、ゆっくりと大地の語りかけてくる言葉に耳を傾けてみたい。夏の間は観光客の声にまぎれて聞こえにくいときもあるかもしれないが、冬の今なら地球の鼓動や呼吸まで聞こえるかもしれない。
 できれば、時々自動車を降りて歩いてみよう。しっかりしたハイキングシューズを用意していくのがおすすめだ。冬でも紫外線は十分に強い。帽子と日焼け止めも忘れずに。もちろん飲料水と非常食は必携だ。反対に、モアブなどの途中の町で四輪駆動の車をレンタルし、未舗装の道へ入ってみるのもおもしろい。ただし、未舗装道路はそれなりに危険もともなうので、ドライブに自信があり、かつ、いつも慎重な運転を心掛けている人にのみおすすめしたい。
 グランド・サークルを十分に味わうには最低でも10日は必要。できれば2週間の予定を組んで、ゆっくりまわろう。日程に限りがあるなら、ソルトレイク・シティからアーチーズとキャニオンランド国立公園だけにしぼって3泊4日のコースを組んでも良いだろう。
 この最短コースでも、赤い砂岩が侵食されて生まれた奇妙な形の岩が続き、まるで巨大な爪で大地を削り取ったような不思議な渓谷、コロラド川の急流が幾重にも方向を変えて蛇行している様子など、アメリカ南西部ならではの風景に出会うことができる。★「眠れる虹」をめざして東へ向かう
 グランド・サークルの中でも、もっとも有名なのはモニュメント・バレー。1938年の映画『駅馬車』の舞台になって以来、西部劇といえばここの風景を思い浮かべる人が多いだろう。このエリアは今もナバホ族の人々の土地で、厳しい自然環境の中で生き抜いた誇り高き人々の暮らしに触れることができる…。
 モニュメント・バレーからは、グランド・サークルも復路に入る。帰り道のハイライトはキャピタル・リーフ、ブライス・キャニオン、そしてザイオンの3つの国立公園だ。キャピタル・リーフはこの3箇所の中では比較的知名度は低いが、ナバホ族の人々が「眠れる虹」と呼んだ美しい岩壁が続いている。鮮やかな赤からピンク、灰色がかった緑、青みをおびた白などなど、幾重にも重なった地層がそれぞれに不思議に色に染まっていて、本当に岩の中に虹が閉じ込められているように見える。
 また、同じようにアメリカ・インディアンの伝説では、神の怒りに触れて永遠の沈黙を強いられている人々が立っているといわれるのがブライス・キャニオンの巨石群。夕方の光の中でみると、まるで無数の人々が合唱している声が聞こえてくるような気がしてくる。朝日と落日では全く違う風景に見えるので、できればこの公園の近くに宿泊して両方体験してみると良いだろう。幸い、冬は夜明けが遅いのでそれほど早起きしなくても大丈夫だ。
 さらに、ハイキングになれた人ならザイオン国立公園は見逃せない。2000メートルを越える絶壁が両側から迫って来る狭い谷底を歩くスリリングなハイキング・ルートは世界的に有名だ。
★人の歴史もおもしろい
 グランド・サークルでは、大自然の力に圧倒される旅が続くことになるが、人間の歴史の足跡もおもしろい。このルートのあちこちに、アメリカ・インディアンの人々が岩に描いた様々な模様を見ることができる。ペトログリフというサインが出てきたら、ぜひ立ち寄ってみよう。最も有名なのはモアブの近くにあるニュースペーパー・ロック州立歴史記念物だろう。まるで宇宙からの訪問者を思わせる不思議な模様もたくさん描かれている。
 また、ユタ州はキリスト教の一派であるモルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)の人々が開拓した州だ。今でも州民の大半はモルモン教徒。信仰の力でこの厳しい自然環境と戦った人々の歴史を知るのも興味深い。モルモン教徒の人々はコーヒーや紅茶などの刺激物、飲酒などを禁じられているので、ユタ州ではおいしいコーヒーを期待するのは無理(?)かもしれない。
(取材・文 宮田麻未/写真 神尾明朗)

Information
 グランド・サークルに関する情報、地図などはwww.grandcircle.orgで入手できる。宿泊などの情報も掲載された充実したサイトだ。