SPECIAL 2003
2003年12月 第51号 掲載
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「ダイソー」北米進出第一号店のオープニング
大創産業社長、矢野博丈氏来加
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トーマス・ファング氏と矢野社長。「ファング氏の一生懸命さと熱意、そしてその人間性に惹かれて今回のジョイントベンチャーを決意しました」 |
日本カナダ商工会議所&在加中国系事業者各団体合同主催の昼食会でスピーチ
12月11日、バンクーバー市内のターミナルクラブで、日本・カナダ商工会議所と在加中国系事業者各団体が合同で、大創産業社長の矢野博丈氏をゲストスピーカーに迎えて昼食会を開催した。日本と中国のビジネス団体がこのように合同で会を設けることは初めてのこと。150人を超える日本、中国のビジネス関係者はお互いに交流を深め、日本の経済界で今最も注目される矢野社長の「21世紀は人間の時代、心の時代」論に耳を傾けた。
大創産業・矢野社長のスピーチ及び質疑応答から
「本日は中国および日本商工会議所の初の合同会にお招きいただきありがとうございます。このたび、フェアチャイルドグループと一緒に、この地に新しいお店を出せることになりました。カナダは想像以上にいい国で、大変うれしく思っております。このお店は約700坪。楽しい商品がたくさん、たくさんありますので、ぜひ一度ご来場頂きますようお願い致します。
今、日本という国は大変厳しい状況にあります。日本中、自分達の欲に侵された国といいましょうか。政治家も自民党を中心に、非常に自分欲に侵され、立派な政治をしてくれません。経済も、かつて20世紀という日本を支えた、石炭、石油、鉄、銀行、商社、ゼネコン…あらゆる産業が今、スピードをもって退化しております。
日本という国は、21世紀を踏み出した今、20世紀とは全く違う世紀になったような気がします。20世紀の日本は、何をやってもうまくいった幸せすぎた時代だったため、日本は物事に、幸せに、成功に感謝する力を失っております。20世紀が攻め、成長する世紀なら、21世紀は守る世紀であり、その中で生きていく我々は大変緊張しています。
先日、日本の有名な作家である五木寛之さんのお話の中に、『楽しさと苦しさは一対なんだ。悲しさと幸せは一対なんだ。戦後の日本は、楽しさと幸せを訴求しつづけ、人間が乾いてしまった』そんなお話がありました。皆さん方も、我々も、苦しさの中から幸せを掴みました。どうぞ今まで以上にがんばって、強い企業を築いて、幸せを感謝できるお立場になられることをお祈り申しあげます」
−なぜ(ダイソー北米進出1号店が)カナダなのでしょうか?なぜフェアチャイルドグループを選んだのでしょうか?
ファング社長も、本社に2、3度いらっしゃいまして、あの顔、人間性というものに信頼を置いて設定させていただきました。20世紀にはお金、人材、規模といったものが取引条件の最も大事な条件でしたが、私は今回、ファング社長の人間味、人間性に惹かれて、決断を致しました。
−企業は必ず倒産するから、ダイソーもいつか倒産する」といつも念頭において経営されていると聞いたのですが?
すべてのものは時間と共に衰え、時間と共に衰退します。20世紀はあまりにいいことが起きて、永遠に続くという錯覚をし、今の日本は厳しい状況にあります。物事というものは、幸せでも、お金でも、感謝して大切に使えば大きく育めるかもしれません。しかし俺は幸せなんだ、運がいいんだと思った瞬間に、我々は負けるんです。衰退の道を歩むのです。20世紀の企業は、すべて倒産する権利と能力を大きく持ってしまいました。しかし緊張感がどれだけ大きいかによって、その衰退を遅らすことはできます。小売業がスピードをもって退化する時代です。我々は倒産の怖さの中にがんばれるのです。倒産する怖さがあるから努力することが楽しい。倒産する怖さがあるがために、謙虚で質素で生活できることも楽しめるのです。物は衰退する、これは真理です。
なお同日、日本・カナダ商工会議所の小松和子会長と、在加中国系企業家協会(CESC)トング・ユエット会長は、今回の昼食会を機に、両会がお互い協力してネットワークを築くことを約束するという「協力同意書」に署名した。
オープンは幸せなことではない、
大事なのはこれから
不景気だ、不景気だといわれる日本で、100円ショップ最大手「ダイソー」は、驚くべき成長を遂げている。現在の売上3,000億。ここ5年で約6倍の伸びだ。日本国内に2,400店舗、今でも月に約30店舗オープンしている。
そして12月12日、リッチモンド市のアバディーンセンター内に「ダイソー」北米進出第1号店がオープンした。店舗にはほとんど足を運ばないという矢野博丈社長が、ジョイントベンチャーの相手であるフェアチャイルドグループの会長兼CEOのトーマス・ファング氏の熱心な誘いで来加、オープニングを見守った。元気な「ダイソー」を支えるのは矢野社長独自の企業理念。日本経済界が今一番注目するその企業理念とは?
本社に社長室はなし。
掃除も自ら進んで…
12月11日。「ダイソー」オープンまであと1日。店内所せましと動き回り、商品のディスプレイや商品棚の移動を次々と指示する矢野社長の姿があった。「今は商品を“目”で売る時代。お客さまが見ていいと思う心地よさで売る時代です」と矢野社長。自ら棚を移動しネジを止める。
東広島市の本社でも、常に社内を飛び回り、掃除もショールームのディスプレイも自ら進んで行う“根っからの現場の人”だという。3,000億円の売上を誇る大企業のトップだが「必要がないから社長室はない」ときっぱり。「少しでもおごった瞬間に衰退する」と自分を諌め続ける、庶民派社長だ。
矢野社長がバンクーバーに到着した日、ファング氏が矢野社長の歓迎会としてアバディーンセンター関係者を招いて、自分の豪邸でホームパーティーを開いた。矢野社長は思わず「こんな素敵なおうち、(日本にいる勝代夫人に)見せてあげたかった…」。部屋の大きさや豪華さに驚き、ご機嫌ついでにファング氏自慢の日本庭園風ジャグジーに、洋服を着たまま飛び込もうとして、あわててファング氏に止められたりする姿には、億万長者や大企業のトップなどといったいかめしいイメージはない。
ところが、いったん「ダイソー」店内に入ると、その表情は一変する。そして経営者としての矢野博丈氏に、一般的な答えを期待して話しかけると、大きな肩透かしを食らう。
―オープンおめでとうございます。
「いや、あまりめでたくはないんです」
「スタートは簡単で誰にでもできることです。むしろ大事なのはオープンしてからです。このいい状態をいかに保てるか。例えば、店内にごみは落ちていないか、接客態度はきちんとしているか、これを持続するのは大変つらいこと。それをがんばり続けること。衰退せずにいられるかに価値があるんです」
―ものすごいお客様の数ですね
「いや、まだまだわからん」
「20世紀は物が売れることを前提にお店を作っていました。でも21世紀は違う。お客様の気持ちを考えていかないと、我々はもたない…」
アバディーンセンターの「ダイソー」の商品は4万品目、42万点。お客に売れるかを一番の念頭に、何度も何度も作り直させたオリジナル企画の品物がほとんどだ。
―原価を上げろ、という方針だそうですが?
「原価を下げた商品を置いたら、ウチなんかはすぐにお客様にそっぽをむかれてしまう。原価を上げろ、上げろといつも言っています」
―でもその分、利益が減りますよね?
「その分、数を売ったらいいんです。すべての商品、原価割れはしていません」
矢野社長の商品や品質へのこだわりはよく知られるところで、それが「ダイソー」急成長の秘訣とも言われる。本社には世界中から商品の売り込みが「嵐のように」あるが、採用されるのは約1割。それも気に入らない部分は徹底的に何度も何度もやり直しさせる。
そして常に新製品への努力を怠らないのも「ダイソー」の強さ。ファング氏のホームパーティーで、にこやかにワインを飲んでいたと思った次の瞬間に、矢野社長の姿が消えていた。日本から同行した内藤雅義部長と、トイレで何やらカメラで撮影中。
「こうやっていつもカメラを持っていて新製品に使えそうなアイデアを見つけたら撮っておくんです。ファングさんのお家はさすがにインテリアもセンスがいい!おかげさまでいいアイデアをたくさん頂きました」
さすが「ダイソー」。そして矢野社長、やはり、ただものではない。
(取材 下坂陽子)
矢野博丈
(やの・ひろたけ)
プロフィール
1943年生まれ。中央大学理工学部を卒業後、夫人の実家の養殖業を継ぐが失敗。その後9回の転職を経験。72年移動販売業の矢野商店を起業。77年(株)大創産業を設立。商品を100円に統一。87年、移動販売から常設店に切り替え。