SPECIAL 2003
2003年12月 第50号 掲載
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アバディーンセンター・フードコートにオープンする
ヌードルショップ「味自慢」、鉄板焼き「花火」を立ち上げる
起業家、安田貴さん


安田貴(やすだ・たかし)さん
1974年鹿児島県生まれ
18歳で渡米アーカンソー大学卒業
卒業後は豊田通商で主にハイテク機器の輸出入を担当、サンディエゴ・オフィスマネージャー
鉄板焼き屋、うどん屋の修行を経て現職

 “俺は絶対いつか、日本文化のよさをアメリカ人に認めさせる!”約10年前にアメリカ中西部の街で、そう決心した1人の日本人大学生がいた。
 そして今、バンクーバーでその夢に向かって大きな一歩を踏み出そうとしているのが、その人、安田貴さん(29)である。
 “アメリカで鉄板焼きの店を出したい”という気持ちが忘れられず商社を退職。鉄板焼きでアルバイトしながら修行、そしてフェアチャイルドグループ社長・トーマス・ファング氏との出会い。
 12月末にオープン予定のアバディーンセンター内フードコートの日本食レストラン、本場讃岐うどんが自慢のヌードルショップ「味自慢」、ほんわか熱々のたこ焼き屋「花火」をマネージメントし、準備に奮闘している安田さんに、お店の様子や、プロジェクトにかける熱い思いなどを聞いた。

手打ちを超える美味しさ!ヌードルショップ「味自慢」
―今回のお店のために、渡加ぎりぎりまで日本でうどん作りの修行をしていらしたそうですね?
 「ええ、今年急遽うどんのお店も出すことが決まり、ファング氏のリクエストで、香川の坂出市にある、大和製作所という製麺機を製造している会社が持つ“うどん学校”で修行してきました。そこのうどんは、あの有名なオンラインショップ“楽天”で月商2500万を誇る人気の麺です。基本の小麦粉の勉強から始まり茹で方まで、社長から直々に伝授して頂きました。機械だとおいしくないという固定観念はもう古いですね。手打ちだとどうしてもムラが出て、生産量も限りがありますからね。お客様の目の前で作ったフレッシュな麺を、目の前で茹でてお出しします。天然素材で、化学調味料を一切使用しない“だし”も自慢です。讃岐の味そのものの、うどんです」
 ヌードルショップ「味自慢」のメニューは、かけうどん、カレーうどん、たれを上からかける“ぶっかけうどん”。トッピングで牛肉、鶏肉、生卵を、また天ぷら、おにぎりをオプションで選べる。
自らの修行経験を生かす鉄板焼きの店「花火」
 一方安田さん自ら命名した鉄板焼きの店「花火」では、たこ焼き、鯛焼き、パンダ焼き、焼肉丼、焼きうどん、カレーライスをメニューに勝負。鉄板焼き屋の修行で培った知識と経験を活かす。
−なぜ鉄板焼きを?
 「たこ焼きをやりたいというファングさんの希望と、自分のやりたいことが一致しました。たこ焼きは、まだこの辺りでは誰もやっていないですよね。学生時代にアメリカ人の友達に、たこ焼き、お好み焼きを作って食べさせたんですけど、けっこう食べるんですよ。あの濃厚なソースも好きみたいで。いけるな、という感触をその時から感じていました」
 「ファングさんは今回のモールを実にユニークなものにしたいと考えています。ありふれたものではなく、人の知らないもの、知らないけれどいいもの、そんな食べ物もこのフードコートに持ってきたいと。自分自身でも街の裏通りを食べ歩いているだけに、たこ焼きはいけると考えていたみたいです」
この鉄板焼きこそが安田さんの人生を変えたといってもいい。
寿司だけが日本食じゃない!
 「18歳でアメリカの大学に留学し、最後はクリントン大統領が教えていたことでも知られるアーカンソー大学を卒業しました。大学ではインターナショナル・ビジネスを専攻し、大学にいた時から将来はアメリカでビジネスをやろうと思っていたんです。アメリカの、特に中西部にいくと、日本食というと毛嫌いされるんですよ。日本食イコール生魚という固定観念があって、日本食を避けようとしている人も多い。それに疑問を感じていました。日本食というのは、寿司だけじゃない、もっと子供から大人まで食べることができて、美味しくて、安くて手頃なものがたくさんあるんだということを紹介したかったんです」
商社マンから、一転アルバイトへ。そしてファング氏との出会い
 しかし大学卒業後5年間は、カリフォルニアにある、名古屋に本社を持つ豊田通商の現地社員として活躍し、半導体及び半導体製造装置の輸出入に関わった。日本でも有数の商社。やりがいもあったが、自分の夢を捨てきれずにビザの切り替え時を機に思い切った決断をする。
 「やはり自分は鉄板焼きでアメリカで勝負したい!と。妻を説得するのに10日ほどかかりましたが(笑)、最後は理解してくれました。とても協力的な姿勢に感謝しています」
 そして東京に帰り、今度は鉄板焼き屋で修行。エリート商社マンからアルバイト生活へ。
 「ものすごいギャップでしたよ。でもそれは通らなければいけない道だと思っていました。だから後悔はしませんでしたし、サラリーマンを見てうらやましがる気持ちは全くありませんでしたね。自分は好きなことをやっているわけですから」
今年4月、ファング氏との出会いがバンクーバー行きに
 ファング氏は、12月にリッチモンドにオープンするアバディーンセンター・プロジェクトを率いる世界的に知られるビジネスマン。当時アバディーン・センターのフードコート内の日本食レストランのパートナーを探していた。安田さんの夢、ビジネス経験とセンス、英語力とインターナショナル・ビジネスの知識を高く評価したファング氏は、迷わず安田さんに白羽の矢を立てた。
 「外食産業のエキシビションやコンベンションによく足を運びました。今年の6月にロサンゼルスから招かれていた、コンサルタントのアイ・フジタ・インターナショナルの藤田社長と話をした時に、『ちょうどカナダでモールを立ち上げている人がいて、たこ焼きに興味を持っている』と紹介して頂くことになったんです。でも最初はそれほど乗り気でなかったんです。アメリカの白人社会の中に飛び込んで行って、最初は小さな所から広めていきたいと思っていましたから。ところが4月にファングさんにお会いして、中国系のマーケットだけにとどまる方でないことがわかったんです。今回のモールも、白人のお客も呼べる雰囲気を作っていくコンセプトです。これはとてもいい経験、そして実績をつけるチャンスだと感じました」
商社時代に培ったプレゼンテーション能力が役立った
 「最初にファングさんと面談した時に、彼とディレクター、藤田社長の前でパソコンを使ってジョイントベンチャー構想のプレゼンをしました。久しぶりにスーツを着ました(笑)。ファングさんもうんうん、とうなずいて聞いて下さって…。ファングさんは、いい目を持ったセンスのいい方ですよ。億万長者の方ですけど、食文化に関しては、東京の裏道に入って食べ歩きしている方なんです。バリューオリエンテッド(価値志向)という言葉がぴったりですね。いろいろな日本食の美味しさをわかっていて、それが市場性があるかどうかも、自分の感触として察しておられます。お互い意気投合し、それからはとんとん拍子に話が進みました」
オープン、楽しみでワクワクしています
 「ヌードルショップ・味自慢」、鉄板焼き「花火」共に、オープンは12月末を予定。準備も最終段階に入った。
 「市の規制が厳しく思ったようなレイアウトができないんです。これには苦労しました。日本で購入した機材も到着し、なんていうんでしょうね、エキサイトしています。ちょっとずつ緊張感が出てきましたが、むしろワクワクしており、一からお店を作る喜びをかみ締めています。店が開いたら少なからず課題は出てくるでしょうが、それを楽しみながら対応していきたいと思います」
 家族を日本に残して単身赴任中。一刻も早くプロジェクトを安定させ呼び寄せたいという。朝の3時頃までキッチンで、電卓を叩いて試作に没頭する毎日。「料理はアートとサイエンスが溶け込んだもの」という。
 さて、その自慢のうどんとはいったいどんな味なのか?安田さんを商社マンを辞める決心までさせた鉄板焼きの魅力とは?オープンが楽しみである。
          (取材 下坂陽子)