SPECIAL 2003

2003年6月 第23号 掲載


カナダ市場で独自の販売展開を進めるソニー・オブ・カナダ
〜近藤 隆司・エグゼクティブ・バイスプレジデントに聞く〜

      日本がどこにあるか知らなくとも、SONYの名前は知っているというカナダ人は少なくない。高品質、高機能….カナダの消費者が

「ソニー・オブ・カナダ」を率いる近藤隆司 ・エグゼクティブ・バイスプレジデント

SONY製品に寄せる信頼は絶大だ。「いやー、そう言っていただけると、がんばりがいがあります!」とにっこり笑うのは、ソニーの子会社「ソニー・オブ・カナダ」を率いる近藤隆司・エグゼクティブ・バイスプレジデントだ。2003年SONY新製品ショーのため、バンクーバーを訪れた近藤さんにお話を伺った。

 1955年に代理店ベースで出発したソニーのカナダ展開だが、意外に知られていないのが、ソニーが日本国外で初めて商品を販売したのは、世界中でカナダが最初の国であること。95年に「ソニー・オブ・カナダ」は、ソニー(株)100%資本の子会社になった。現在トロントに本社を、またモントリオール、バンクーバー、カルガリーに支社を持ち、従業員は1000人を越える。カナダ市場は、お隣のアメリカとも、日本とも、またヨーロッパとも違ったユニークな特徴を持ち、それに合わせた独自の販売戦略を行っているという。
カナダ市場の特徴その1:大きなインパクトを持つ、フランス語圏ケベック州の存在  近藤「カナダのまず一番の大きな特徴は、ケベック州、つまりフランス語圏の存在ですね。製品をすべてフランス語表示しなければならない。直営店“ソニーストア”の名前もケベックでは「メゾン・ソニー」です。このショーもこの後モントリオールに移動しますが、モントリオールでは、看板やサインもすべてフランス語で表示しなければならないんです。ここにある英語のサインを裏返しにすると、ほら、すべてフランス語表示になるよう作ってあります。ショーではきちんとフランス語で表記されているか関係機関からチェックされますので、神経使いますよ」
  「フランス語圏でのビジネスは人口比率と同じカナダ全体の約22%。20%前後の商売のために、資金も労力もつぎ込むには、やはりそれだけのインパクトがあるからなんです。例えば英語のみ対応の製品はケベック州では販売できません。大手のフューチャーショップがチラシにソニーの製品を載せてくれるとします。チラシは全国一律のものを制作しますから、ケベック州では販売できないとなると、その部分を差し替えしなければならないわけで、チラシにも、ディーラーのソニー製品の扱いにも影響がでます。ケベック州に限った問題ではないんですね。カナダ市場全体に、数字以上の影響があるのです」
特徴2:直営店“ソニーストア”の成功  
「ソニーはメーカーですからディーラーシップを重視するのが普通です。しかしカナダに72、3ヶ所ある直営店“ソニーストア”は、カナダでは販売経路の一つとして位 置付けており黒字経営を維持しています。これは世界的にみても珍しいことです。日本にはショールームはあっても販売はできません。アメリカのシカゴ、NY、サンフランシスコに直営店はありますが、アンテナショップいわばショールームの色が濃い。人口比率で考えると、アメリカ全国に約750店舗展開させていることと同じ規模なんですよ」
 「製造業と小売りとノウハウはあまりに違うので、製造業の人間が、販売に携わってもうまくいかないケースが多いんです。ところが、カナダでは、メーカーとしては珍しく、本社の営業部に小売業のエキスパートがおり、どんなショッピングモールに入るのがいいのか、交通 量からみた店の経営など豊富な知識を持っています。ソニーストアの運営を彼らが率いていることも成功の秘訣でしょうね」
 「またソニーストアの店員は、ほとんどがソニーの正社員です。高い商品知識と高いサービスを売り物にしており、値引きはしませんがお客様は来て下さる。最近の商品は複雑になっていて、店に並んだ商品を見ただけではよくわからない。昔と比べて自分が欲しい商品を手に入れるにはちゃんとしたアドバイスを受ける必要がある。ですから一度いいサービスを受け、いい思いをしていただけると、気に入ってリピーターとして戻ってきてくれる。固定客が多いのもソニーストアの特徴です。カナダのお客様はアメリカのお客様に比べて、高くとも良いものを買って長く使おうという意識が高いんです。そういった意味ではヨーロッパの消費者に近いですね」
特徴3:高いPCの普及率を受けて、独自に売れる商品も
 「アメリカでは販売していない商品をカナダに持ってくることもあります。カナダはアメリカに比べてパソコンの普及率が高く、しかもネットワークにハイスピードでつながっている。PCから音楽などをダウンロードするNetMD Walkmanの売上は、アメリカの同商品の売上2割に相当します。カナダの人口がアメリカ人口の10%ですので、これはすごい数字です。ですから扱いモデルも多い。アメリカ資本でカナダ支社という形でやっているとそういう細かいオペレーションはできませんから、ビジネスを最大化していくという意味でも重要だと思います」
特徴4:お客様はディーラーではなく、エンドユーザー
 「ソニー製品は、安さを売り物にした他メーカーの商品とは価格では競争できませんから、いかに機能に付加価値を付けるか、です。付加価値をつけて高い値段をつけてもお客さんに納得してもらう必要があるわけです。新しいことをやり続けることで、価格競争の波にのまれないようにする、ユニークな商品を出すことは、ブランドイメージを高く保つことにもつながります」 「普通メーカーにとってお客様というのは、ふつうはディーラーを指すことが多いんです。でもソニーの中ではここ数年変化が起きており、ディーラーはビジネスパートナーであり、ソニーにとってお客様はエンドユーザーだ、と日本本社のトップマネージメントも一貫したメッセージを打ち出しています。エンドユーザーに押しつける(Push)のではなく、エンドユーザーからソニーの商品を指名して買ってくれる(Pull)ということが狙いなんです」 落ちついた口調の中にも、ソニー製品への熱い思いが言葉の端々に感じられる近藤さん。トロントには、昨年4月に赴任。しかし1年の半分は、カナダ国内、日本やアメリカへの出張でトロントを離れていたという。「飛行機に住んでいるようなものです」と笑うが、むしろそれを楽しんでいるような感さえある。ソニーという会社に惚れ込んだ企業戦士の姿がそこにはあった。
ソニー入社の動機?赤信号のおかげでしょうか….
 「大学4年の時、大型のスクーターで会社まわりをしていたんですよ。スクーターを使うと1日に6社は回れますからね。別 の会社訪問の帰り道に信号が赤だったので止まって左をふと見たら、ソニーの本社があった。ソニーの製品はけっこう好きだったので、ついでだからパンフレットもらっていくか、と立ち寄ったのがきっかけだったんです。信号が青だったら、全く別 の人生になっていたかもしれません(笑)」
自らの手でつかんだ海外赴任!
 海外営業部を希望して入社した近藤さんだが、配置された部署は国内営業部。ここで経験を積んだ後、やはり海外に出たいという自分の意思を確認した近藤さんは、自ら海外赴任のチャンスを掴む。
「ここがソニーという会社のスゴイところだと思うんですけど、全ての部署の社員を対象に先進国を前提にした海外赴任の試験があったんです。つまり誰にでもチャンスが用意されている。チャンスは自分で掴めということです。運良く受かりまして、アメリカ本社(ニュージャージー)のカムコーダー・マーケティング部に配属されました。この試験制度がなかったら、多分僕は一生国内営業で終っていたと思います」
 年に受かるのは1人から2人という難関を突破してのアメリカ赴任。3年後に任期を終えて国内の元の部署に戻った近藤さんに、今度はアメリカ本社側から再び戻ってきて欲しいとの要請で再びアメリカへ。昇進を挟みながら部署のサンディエゴ移動で、東海岸から西海岸に移動。そしてトロントへ。北米での生活はかれこれ12年近くになる。  
「北米の東海岸、西海岸、そしてカナダに住んだことにより、北米というのは、国境よりも縦線つまり経度によっての方が文化に共通 性があるのではないか、と思うようになりました。トロントはニュージャージーに似ていますし、いつもバンクーバーに来ると、サンディエゴの臭いがするなあと思うんです。西海岸の人の方が出入りが多いせいからか、気さくに話しかけて来る人が多いですよね」
 今回のショーのカムコーダーやデジタルカメラのコーナーには、近藤さんがアメリカで開発を手がけた製品も多く並んだ。どんどん小型化し多機能になっていく製品に驚いていると、近藤さんは言った。「ソニーの内部にいるので、3年後にどんな商品が出てくるか、自分は知っているわけです。もっともっとスゴイ製品がどんどん出てきますよ!」           (取材 下坂陽子)