SPECIAL 2003
2003年5月 第20号 掲載
カナダ・ペンション・プラン(CPP)とはカナダの年金制度のこと。カナダ国内で働き収入を得た18歳以上の人は、ごく少数の例外を除いて必ずCPPに加入し、積み立てをしていかなければならない。この積み立ては、自分が年金の支給を受け始めるか、70歳に達するまで続けることになる。年金の中にもいくつか種類があり、また支給を受け始める時期によって受け取る額にも差が出て来る。ここで自分の将来設計に大きく影響する年金制度の基本を確認してみよう。
積立金額
支払う額は、働いて得た給料の額に応じて計算される。その額の50%を雇用主が負担し、残り50%を本人が支払う。自営業(Self
Employment)の場合は、経費控除後の事業収入の額に応じて計算され、全額が自己負担となる。
実際には、1年間の賃金や事業収入の合計額のうち、最低基準額(3,500ドル、固定)を上回った分が積立金額の計算対象となる。(従って、年収が3,500ドル未満の人は積立金を払わないことになる。)さらに、年収のうち最高基準額(毎年1月に更新され、2003年の場合は、39,900ドル)を超えた分については積立金額の計算対象外となる。(すなわち、年収に比例して積立金額もどこまでも増加するわけではなく、最高基準額に達したあとは一律になる仕組み。)また投資による収入など、不労所得についてはCPPの対象とはならない。
1年間に支払った積立金の合計額は、Income Tax Returnで申告された年収に照らし合わせて見直され、支払いが多すぎた場合は払い戻される。
全積立期間(Contributory Period) 全積立期間とは、加入者が積立可能とみなされる期間のことで、18歳の誕生日から始まり、年金を受け取り始めるか、70歳に達するか、または死亡するかのどれかが最初に起こった時点で終了する。受け取り年金額の計算や、遺族年金の支払い基準に使用される。
特例として、以下の期間は全積立期間から除外される。
1.7歳未満の子供を育てるために休職したか、低所得の状態になった期間(月数)。
2.65歳以降で低所得の状態になった期間(月数)。
3.CPPの障害者年金の受給対象となった期間(月数)。
積立記録
CPPへの掛け金の記録(個人収入および積立履歴)は、1966年(CPPが施行された年)以降、カナダ税務局(Canada
Customs and Revenue Agency)より提供された個人情報をもとにCPPが管理している。従って、Income
Tax Returnで申告したT4(CPPに支払った積立金額が記載されている)上のSIN番号が間違っていた場合、自分が支払った積立金に見合った年金を将来受け取れないという事態が発生する。Income
Tax Returnの際にはこの点に注意。
また、自分が一年間にどれだけ払ったかは、積立の記録(Statement of Contributions)をHRDC(Human
Resources Development Canada)に請求すれば確認できるので、この額とT4の額をつき合わせてみて不自然な点があればHRDCに問い合わせもできる。
たとえばバンクーバーの場合、 Vancouver Human Resource Development Centre of
Canada, Harry Stevens Building, 125 East 10th Avenue, Vancouver, BC V5T 1Z3:
Phone(604)872-7431: Fax(604)666-1205:
Email bcytprograminquiry@hrdc-drhc.gc.ca:
Web Site http://www.bc.hrdc-drhc.gc.ca/5615/index_e.shtml。
また、これ以外の最寄のHRDCのオフィスは次のサイトで検索できる。 http://www.hrdc-drhc.gc.ca/menu/profile-search.shtml#profile
積立金の分配(Credit Splitting)
離婚、またはCommon-law Partnershipが終了した場合、2人が共同生活していた期間に積み立てられた積立金は、2人の合計額の50%ずつに配分される。これは、配偶者、または慣習法上のパートナー(相手)がCPPに積み立てていなかった場合にも適用される。
配偶者(Spouse)の定義
「配偶者」とは、自分とは反対の性別で、法的に結婚している人物のことを指す。また、「慣習法上のパートナー(Common-law
Partners)」とは、性別に関係なく一年以上同居生活をしている二人のことを指す。
年金の受け取り方法 年金の受け取り方法は、小切手の郵送という方法のほか、指定した銀行口座(カナダ、またはアメリカにある口座)に直接入金してもらう方法(Direct
Deposit)がある。 年金の種類 年金には以下の3種類がある。
1 退職年金
カナダ・ペンション・プラン、またはカナダ・ペンション・プランとケベック・ペンション・プランの両方に積み立てを行ってきて、かつケベック州以外に住む人を対象に毎月支払われる年金。受給開始の申請は60歳から70歳の間に自分で行う。前にも述べたとおり、受給額は積み立て総額と期間によって計算される。また、受給開始の時期によって受給額が増減する点にも注意が必要。65歳の誕生月を基準にして、それ以前に受給を開始した場合、ひと月につき0.5%ずつ減額された額が受給額として決定される。従って最低年齢の60歳で申請した場合、受給額は30%減と決定される。(当然だが、65歳で受給開始するより60ヶ月分多く年金を受け取ることにはなる。)ただし、60歳〜64歳で受給申請を行う場合は、ある一定期間(受給開始の前の月と、受給開始の月。たとえば、4月から年金の受給を開始するよう申請した場合は、3月と4月のこと。)仕事をやめるか、その時点での退職年金の最高支払額(月額、2002年4月で788.75ドル)以下に収入を落とす必要がある。この期間を過ぎた後は、仕事・収入に制約はなくなる。
65歳以降に申請を行った場合は、このような制約はない。そのかわり、1ヵ月につき0.5%ずつ増額され、最高70歳で30%増の支給額となる。(これも、金額は上がるが65歳で受給開始するより60ヵ月分少なく年金を受け取ることになる。)
どのような場合でも、文書によって受給開始の申告を行う。申請書類はHRDC(Human
Resources Development Canada)のオフィスで入手するか、ホームページ(http://www.hrdc-drhc.gc.ca/fas-sfa/eforms/ispcppnm1e.shtml)からダウンロードする。
参考までに、2001年の平均年金額は440.39ドル(月額)、2002年の最高額は788.75ドル(月額)である。
遺族年金
加入者が死亡した場合に支払われるもの。この年金の支払いを受けるためには、加入者の全積立期間の3分の1の年月(全積立期間が9年以上の場合)、または10年、どちらか短いほうの期間、積立を行っていることが条件である。また、最低でも3年間の積立が必要。
遺族年金は以下の3つからなる。
A:死亡一時金 相続人に払われる一時金。支払われる金額は、加入者の積立期間と積立総額によるが、その加入者が65歳で退職年金を受給したと仮定して計算された退職年金の6ヶ月分(2,500ドルを上限として)が支払われる。
B:遺族年金 配偶者、慣習法上のパートナーに毎月支払われる年金。年金額については、加入者の積立期間・積立総額のほか、加入者が死亡した時の配偶者、または慣習法上のパートナーの年齢やすでに受給している年金(退職、障害者)の額によって決定される。http://www.hrdc-drhc.gc.ca/isp/cpp/surviv_e.shtml#eligibleに年齢その他の条件別
にまとめられた表があるので、詳しくはそちらを参照のこと。
C:育児手当 死亡した加入者が扶養していた子供のための月払いの手当て。支給額は一律で、毎年更新される。2003年は月額186.71ドル。申請方法は退職年金と同じ。
障害者年金
CPPの規定に準じて、精神的または物理的に「重症かつ継続的な」障害あると認定された65歳以下の人に対して月ごとに払われる手当て。重症というのは、どのような仕事にも日常的に就けない程度の障害のことを意味し、継続的というのは、その障害が長期にわたるか、最終的に死をもたらす状態を意味する。また、他の条件として、
1.この年金の支給を申請する直近の6年のうち、4年以上CPPに積み立てを行っていること(1997年12月31日よりあとに障害が発生した場合)。
2.その間の収入が、CPPの定めるYear’s Maximum Pensionable Earnings (YMPE, 2003年は39,900ドル)の最低10%以上あること。
また、障害にかかった加入者が扶養していた子供(18歳以下、または18歳から25歳までのフルタイムの学生)に対しての養育手当ても支給される。遺族年金の支給を受けながら障害者年金の支給も受けることは出来るが、退職年金の支給を受け始めた時点で障害者年金の支給はストップする。
申請は規定の用紙を用いて行う。支給開始は、CPPが障害発生と認定した月の4ヵ月後からである。(たとえば、CPPが障害発生が1月と認定した場合、5月から手当ての支給が始まることとなる。)ただし、申請日から12ヵ月以上遡っては支給されないので注意。
年金は課税対象か 課税対象である。また海外に居住し、Income Taxの定義からカナダ居住者(Canadian
Resident)と見なされなかった場合には非居住者税が課税される。税率は一律25%。
このほか、詳しい内容はHuman Resources Development Canada のウェブサイト(http://www.hrdc-drhc.gc.ca/isp/common/cpptoc_e.shtml)を参照のこと。
サンプル例でみてみると?
では、このCPPの仕組みによって受け取る年金がどのような影響を受けるのか、いくつかのケースで見てみよう。
Q1. Aさんは結婚10年、現在40歳の女性です。昨年離婚しました。15年間CPPの積立をしてきましたが、離婚したことで将来受け取る退職年金の額が変わるのでしょうか?
A1. 離婚した場合、結婚生活をしていた間に夫婦がおのおの積み立てていたCPPは、その合計が均等に配分(Credit
Split)されます。従って夫婦が全く同額の積立をしていた場合に限り離婚による影響は出ませんが、それ以外の場合は変化が生じます。
例えばAさんの場合、結婚生活中に年間2400ドルを積み立てていたとしましょう。10年間ですから総額24,000ドルです。もし夫がこの間無収入だったとすると、離婚によるCredit
SplitによりAさんの積立総額は、2人の合計額(24,000+0=24,000ドル)の半額の12,000ドルに減額、逆に夫は12,000ドルをこの10年間で積み立てていたとみなされることになります。さらに、もし夫が結婚以前から全く働いたことが無かったとすると、そもそも彼には年金を受け取る資格がなかったのに、Credit
Splitによって彼は働くことなくその資格を手にしたことになります。
逆に夫が10年間で36,000ドルを積み立てていた場合は、ふたりの合計額は60,000ドルになり、Aさんは10年間に30,000ドルの積立をしたとみなされます。将来受け取る年金の月額は、積立額が最終的にいくかになったかで決まるわけですから、この場合AさんはCredit
Splitによって将来の年金受け取り額が増加したことになるわけです。
Q2. Bさんは結婚30年の男性です。過去35年間CPPの積立を続けてきました。妻は結婚以来働いていません。(すなわち、CPPの積立をしていません。)CPPの退職年金を受け取る際には、妻が働いている場合と働いていない場合ではどのように受取額がかわるのでしょうか?
A2. 受け取る年金額は、その当人が積み立ててきた額によって決まるので、基本的にBさんの受取額は妻の積立の状態には左右されません(離婚しないと仮定して)。ただし、年金共有(Pension
Share、または譲渡(Assignment)とも呼ばれる。)を申請すると、自分が受け取る年金額は、夫婦が受け取っている年金の合計額の半分となるので、妻の積み立てた額によってBさんの受取額も変わってくることになります。
たとえば、Bさんが月々350ドルの年金を受け取っていたとしましょう。年金共有は、2人が共同生活をしていた期間の積み立ての分の年金に対してのみ行われます。仮にBさんの350ドルの年金のうち、結婚前の5年間の積立による分が50ドル、結婚後の30年間の積立による分が300ドルとしましょう。同じ期間中、妻は積立をしていなかったので、彼女の年金はゼロです。ここで年金共有を申請すると、2人の年金の合計額(300+0=300ドル)の半分(この場合、150ドル)が、2人に配分されます。結局、Bさんは結婚前の分50ドルと、この150ドルの合計、200ドルを年金として毎月受け取ることになります。一方、妻は150ドルを年金として受け取ることになります。Income
Tax Returnの際には、年金共有前だったらBさん、奥さんはそれぞれ350ドル、0ドルを年金からの収入として申告しますが、分割した場合は、それぞれ200ドルと150ドルという具合に申告することになります。
Q3. 現在62歳のCさん。CPPの退職年金の受け取りを申請したいのですが、現在収入が月に1,200ドルほどあります。この場合はどのようにすれば申請可能でしょうか。
A3. 60歳から64歳の人が退職年金を申請する場合は、以下のどちらかを満たすことが必要です。
i) 2ヵ月間、仕事をしない。2ヵ月間というのは、年金支給が始まる前の月と、支給が開始された月のことを指します。たとえば、4月からの年金支給の開始を申請したとすると、3月と4月は仕事を休まなければなりません。
ii) 2ヵ月間、収入を退職年金の最高支払額(2003年は月額801.25ドル)未満に下げる。2ヵ月間というのは、i)
の例と同じ。 また、この2ヵ月間を過ぎたら上記の制約はなくなるので、以前と同じようにいくら収入を得てもかまいません。
Q4. 60歳から年金を受け取り始めた場合と、65歳から年金を受け取り始めた場合の受給総額は、何歳になった時に同じになるのでしょうか。
A4. 60歳で受け取れる年金額は、60歳の時点での収入が65歳まで続くと仮定して年金額を計算、そこから30%を減額した額を支給額とするので、あくまで同じ収入が続くことを前提に話を進めます。もし65歳まで年金受け取りを待ったとして、なおかつ60歳から65歳の間の収入が減少した(すなわち、CPPの積立金が減少した)場合、65歳から受け取り始める年金額は60歳の時に予想していた65歳時点の年金額より減ることになり、比較が出来なくなるからです。
60歳から65歳までの収入に変化が無かったとの仮定に基づいて試算すると、例えば、65歳からの年金額を月額100ドル、60歳からの年金額を月額70ドル(65歳からの場合より30%減額されることから)とします。60歳から70ドルを受け取り始めると、65歳までには(70ドル×12ヵ月×5年=4200)4200ドルを先に得たことになります。65歳から100ドルを受け取り始めた場合、先ほどの月額70ドルとの差30ドルでこの4200ドルのバイアスを帳消しにできるのは何ヵ月後かを求めると、(4200÷30=140)140ヵ月となります。すなわち、65歳から140ヵ月(または11.6年)後(すなわち76歳と約7ヵ月目)に両者は同額になり、その後は月額100ドルの65歳支給開始パターンの方が月額70ドルの60歳支給開始パターンを受け取り総額で上回っていくことになります。
ただし、60歳から65歳までの収入に変化があった場合は、実際の個々の事例ではこの限りではないことをご了承ください。(取材 平野直樹)