2003年3月 第12号 掲載


国際的ピアニスト 小川典子さん

    バンクーバー初公演  東京とロンドンを拠点に、国際的なピアニストとしての活動を続ける小川典子さんが、秋山和慶氏の指揮によるバンクーバー・シンフォニー・オーケストラとの初の共演のため、バンクーバーを訪れた。二月一日から三日間、オーフューム・シアターで、ゲストピアニストとして演奏し、大喝采を博した小川典子さんに、ピアニストとしての音楽活動についてお話を伺った。
国際的な音楽活動とペース配分
 小川典子さんは、川崎市生まれ。「母がピアノ教師なので、いつも家でピアノが鳴っていました。ハイハイをし始めた頃からピアノをおもちゃのように弾いていたようです」と語る。小川さんが、正式にピアノのレッスンを始めたのは四歳半のときだった。東京音楽大学付属高校を卒業後、ジュリアード音楽院に留学し、在学中の一九八三年に日本国際音楽コンクールで第二位 に入賞した。続いて、一九八七年、英国のリーズ国際コンクールで第三位に入賞したのを機に、翌年、一九八八年、本格的にピアニストとしての活動を始めた。
 日本と英国を拠点とし、アイルランド、ドイツ、スイス、スペイン、北欧諸国、シンガポール、香港と、世界各地で演奏する。NHK交響楽団、読売日本交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団などの、日本の主要オーケストラを始め、BBCフィルハーモニック、BBCウェールズ・ナショナル交響楽団、エーテボリ交響楽団、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団、サンディエゴ交響楽団などの世界のオーケストラとの共演も多い。このような国際的な演奏活動で多忙な小川さんが特に気をつけていることは、ペース配分であるという。  
「ピアニストは、多くの曲をレパートリーとして持っていて、宿題がいつも山積みのようなものなので、どういう配分でやっていくかということが大切ですね。いろいろな曲を同時に練習して、一曲に集中するのではないので、このペース配分が今一番神経を使うところです」と小川さん。また、レパートリーの曲を完成させる練習量 については、「曲にもよりますし、以前演奏したことがあるかどうかなど、いろいろな要素がありますので、大きく違います。ピアノの場合は、暗譜が原則ですし、やはり、人前でご披露するためには、演奏への自信がつくまで十分練習しないと、だめですね」と述べた。
多彩な音楽活動
 小川さんは、日本と欧州を頻繁に往復し、意欲的に活動する。磨かれて研ぎ澄まされた音と、安定した技巧で聴く者に語りかけるスケールの大きな演奏は、世界各地で高い評価を得ている。小川さんが、現在、行っている音楽活動には、大きく分けて三つある。一人でピアノを演奏するリサイタル、ピアノデュオを含む少人数編成の室内楽、そして、今回のバンクーバー・シンフォンニィー・オーケストラとの共演のような協奏曲の演奏である。
 ソロの演奏となるリサイタルは、演奏家が一番言いたいことを直接的に表現する場になる。「できるだけ自分の得意な曲を弾くようにできるといいのですが、ピアノには名曲が多いので、いろいろなリクエストをいただき、それに配慮しながら選曲します」と小川さん。小さな会場の場合には、言葉によるコミュニケーションも取れる。ラジオやテレビの出演も多く、人の心を和やかにしてくれるような話ぶりも小川さんの魅力のひとつである。
 二〇〇一年に、英国の実力派ピアニスト、キャサリン・ストットとピアノデュオを結成し、今年も、各地で公演を行う小川さん。室内楽については、「演奏会の形としては、比較的地味なものですが、他のミュージシャンの方とともに演奏し、とても刺激の強い演奏形態です。同じ楽器、異なる楽器を問わず、至近距離でいっしょに音楽を創っていくのでとても勉強にもなりますし、室内楽独特の楽しみがあります」と語る。
 オーケストラにゲストとして迎えられる協奏曲の演奏は、ピアニストとして一番華やかな場になる。今回、バンクーバーで演奏したブラームスの「ピアノ協奏曲、作品 番」について、「重厚に鳴り響くオーケストラとソロのピアノがいっしょになって、音楽を創作していくという曲です。素晴らしい秋山先生と高い演奏技術を備えたバンクバー・シンフォニー・オーケストラの方々と共演させていただく貴重な経験を得、とてもうれしく思います」と、小川さん。
一つ一つの演奏を大切にして
 小川さんは、一九九七年に北欧最大のレーベルBISと専属契約を結び、中でも、武満徹のピアノ曲集、日本のピアノ曲集は高い評価を受けた。そして、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第二、三番」は、英国タイムズ紙で「一九九七年のベストCD」の一枚に選ばれ、ムソルグスキーの「展覧会の絵」はBBCミュージック誌で特選盤となった。、また、ピアノ版「第九」も大反響を巻き起こすなど一九九六年の武満徹ピアノ作品集の録音以来、話題を呼ぶ十五枚のCDをリリースした小川さん。現在、ドビュッシー・ピアノ曲全集の録音が進行中である。リリースしたばかりのドビュッシーピアノ曲集第二弾CDは、英国のグラモフォン誌の二〇〇三年三月号で、器楽部門「今月の一枚」として選ばれ、「エレガントで、また念入りで繊細な演奏」として、絶賛されている。
 今年も、BBC委嘱作品、G・フィトキン作曲の二台ピアノ協奏曲の初演が決まっている他、日本を始め、世界各地で演奏やレコーディングが数多く予定されている。今後の活動への抱負について、「旅が多いので、健康に留意しています。健康を保って息長く弾いていければそれで良いと思います。その時その時、目標にする演奏会や企画をこなしていって、それが結果 として何年も続いたとしたら、それが私の幸せと言えるかもしれません」と小川さんは、素敵な笑顔で語った。熟練された高い演奏技術を備え、しかも、聴く者の心に語りかける温かみにあふれたアーティストとして、小川さんの今後の活躍が、ますます期待される。     (取材 石田佳子)

プロフィール 川崎市生まれ。東京音楽大学付属高校を卒業後、ジュリアード音楽院に留学。在学中の83年に日本国際音楽コンクール第2位 入賞。87年英国のリーズ国際コンクール第3位入賞。これを機に88年、東京とロンドンを拠点に本格的な活動を始めた。 日本と欧州を頻繁に往復し、ソロ、室内楽、協奏曲、テレビ、ラジオ出演等幅広いレパートリーをもって意欲的に活動し、世界各地で高い評価を得る。1999年文化庁芸術選奨文部大臣新人賞受賞。