SPECIAL 2003
2003年11月 第48号 掲載
海の中にポツンと生えているマングローブの木 |
フロリダ州の地図を見ると、マイアミの西側一帯が見慣れない色や記号で覆われていることに気が付くだろう。地図に示されているのはフロリダ半島の3分の1近くを覆う広大な湿地帯。その湿地帯の中心がエバーグレーズ国立公園。ワニがノソノソとハイウエイを横断し、さまざまな野鳥が舞う、大自然の王国だ。
★えっ!これが世界最大の河?
エバーグレーズを上空から眺めると、まるで大草原地帯のようだ。ソーグラスと呼ばれる細長い葉の水草がびっしりと生えている。エバーグレーズは「湿地帯」と表現されるのが普通だが、厳密に言うとそれは間違い。オキーチョビー湖から流れ出した水と膨大な量の雨水が石灰岩の岩盤の上に広がり、320kmほど先で海にそそぎ込んでいる。水は海に向かって常に流れているので、これは正に「大河」だ。そう思って再度地図を見ると、その壮大さに改めて驚かされる。
この「大河」には、熱帯、亜熱帯の動植物が独特の生態系を作って暮らしている。白サギや青サギがのびのびと羽を広げ、ワニが水草の間を音も無く泳ぎ、亀はのんびりと甲羅を干して眠っている。ほんの少しでも土のある場所には椰子やマホガニー、スイートベイなどの木々が根を張り、周辺には睡蓮がユラユラと風に揺れながら咲いている。この一見豊かな大自然も、フロリダの開発が進むにつれてジワジワと破壊されつつある。この世界的にも特異な生態系を守ろうという運動はすでに1940年代から始まっている。現在、エバーグレーズの5分の1ほど(それでも57万ヘクタールという広大な地域だが)が国立公園になっており、世界遺産にも指定されている。
エバーグレーズへのアクセスは2本の道路だけに限られている。マイアミから観光バスで行くことも可能だが、レンタカーで行くのがベストだ。マイアミから1号線でフロリダ・シティまで行き、そこから9336号線に入る。公園のメイン・エントランスのインフォメーション・センターで地図や宿泊の相談にのってもらうと良いだろう。公園の中で1泊するのがおすすめだが、マイアミからの日帰りも目的地を絞れば可能。
★ワニ、ワニ、ワニ!そして蚊の攻撃
エバーグレーズで一番の人気者はワニ(アメリカン・アリゲーター)。時には道路を横切ろうとして車にはねられたらしい気の毒なワニを見かけるほど、この一帯はワニの王国だ。一番手軽で、しかも安全にワニに出会うなら、9336号線のロイヤル・パーム・ビジター・センター近くにあるトレイルがおすすめ。この9336号線沿いには、あちこちに木造の遊歩道などが作られており、時には車から降りてトレイルを歩いてみると良いだろう。
エバーグレーズの隠れた「名物」は実は蚊。この蚊の大群は強烈で、普通の虫除けを塗っただけでは不安なほど。夏は蚊の攻撃でせっかくのトレイルの散策も泣きが入ることもしばしばだが、冬はその点かなり有利。とは言っても日差しも強いし、しぶとい越冬蚊も元気なので、日焼け止めと強力虫除けは必携。普段は塗らないようなところにも丁寧にたっぷり塗ろう。
ワニとの出会いなら、41号線沿いに点在する「アリゲーター・サファリ」のツアーに乗って見るのもおもしろい。41号線の周辺は公園の敷地からはずれる部分もあり、アメリカ・インディアンのセミノール族の人々のテリトリーになっている。セミノール族の人々が運営するツアーは、エアボートでソー・グラスの草原を走ってワニの生息する地域に入って行く。エアボートは、スクリューの代わりに扇風機のような大形のプロペラを使い、水の上を滑るように走る。音はうるさいが、なかなか爽快な乗り心地だ。ボートのすぐそばまでワニがスーっと近寄ってくるのもかなりスリリング。
さらに、エバーグレーズの「河」が海と出会うあたりの美しさも印象的。9336号線の南端にあるフラミンゴ・インフォメーション・センターの周辺には、海の中に複雑に根をおろしている不思議な木、マングローブを見ることができる。この木は海水と淡水がまじりあったところでも生息できる特異な木。たくさんの根を伸ばして海岸近くの岩盤にしがみついているたくましさが印象的だ。マングローブの木々の向こうに広がる海は「河」の水とまじりあって、深い緑からトルコ石のような青まで、グラデーションのように幾つもの色に変化する。運がよければ、このおだやかな波の間をマナティが泳いでいるのを見ることもできるだろう。
★北米らしいドライブなら
「ザ・キーズ」で
エバーグレーズはフロリダ半島の南端だが、そこからさらに南に向かって、点々と島が続いている。これが「ザ・キーズ」と呼ばれる島々。これらの島々を結んで走っているのが「海上のハイウエイ」国道1号線だ。島を結ぶ橋を次々と走る心地良さは北米のドライバーのあこがれ。特にセブン・マイル・ブリッジと呼ばれる橋は、名前の通り11km以上も続く長さがあるので、ドライブの醍醐味をたっぷり味わうことができる。
途中の島々には、それぞれスキューバ・ダイビングの名所、カジキマグロのような大形の魚に挑戦するディープ・シー・フィッシングの名所などがある。中でも人気なのはグラシー・キーにあるドルフィン・リサーチ・センター。ここはイルカの生態についての研究を行う施設だが、一般にも公開されていて見学も可能。様々な教育プログラムも用意されていて、「ドルフィン・エンカウンター」というプログラムでは、イルカと一緒に泳ぐこともできる。イルカと一緒に泳いでいるうちに心が癒されていくとのことで、特に様々な経験で心に傷を追った子供を連れてくる親が多いとのことだ。
1号線の終着点はアメリカ合衆国の南端、キー・ウエスト。「ここがアメリカの南端です。」と書かれた大きな標識の前はカメラに向かってニッコリする人でいっぱいだ。このキー・ウエストはヘミングウェイが住んでいた町としても有名。彼の家は史跡として保存され、ヘミングウェイの愛猫6本指の猫の子孫が家のあちこちに姿を見せる。また、彼が毎晩酔っ払っていたというスロッピー・ジョーの酒場もちゃんと現役で営業中だ。
ただし、このキー・ウエストはかなり観光化されているし、冬の避寒地としても人気があるので、ヘミングウェイの思い出にひたりたい人はややがっかりするかもしれない。南の島の雰囲気を十分に味わうなら、キー・ウエストからさらに船で100kmほど西にある、ドライ・トートゥガス島へ行ってみよう。このさんご礁の島には19世紀に建てられた砦の跡があり、国定史跡になっている。周辺の海は体が溶けてしまうのではないかと思うほど澄んだ青。シュノーケルをつけてほんの少しもぐるだけで、さんご礁とその間を泳ぐカラフルな魚達の世界に入って行くことができる。ペリカンが巨大な羽を広げて空を飛んでいくのも幻想的な眺めだ。
★人の心の温かさも嬉しい
エバーグレーズやザ・キーズでは、大自然の深さと動物や植物のたくましさや美しさに出会って心を深く揺さぶられることが多い。しかし、それ以上に嬉しいのが人との出会いだ。観光化され過ぎていると感じることも時にはあるが、そこに生きる人たちが素朴な笑顔見せてくれると心がスっとなごんでいく。キー・ウエストの名物、キーライムのパイを食べながら、寒さに硬くなりがちな心をゆっくりほぐしてみよう。
(取材・文 宮田麻未/写真 神尾明朗)
Information
● フロリダに関する一般情報
ウェブ:www.flausa.com
● ザ・キーズに関する一般情報
ウェブ:www.fla-keys.com
● エバーグレーズ国立公園についての情報
ウェブ:www.nps.gov/ever/
● ドルフィン・リサーチ・センターについての情報
ウェブ:www.dolphins.org
ドルフィン・エンカウンターのプログラムは1人$150。予約が必要なので、まずサイトの予約規定を確認のこと。