SPECIAL 2003

2003年11月 第48号 掲載


UFOから、あの(!)サンタフェまで
ヒーリング・パワーがいっぱいのニューメキシ


オキーフに愛されたタオスの教会

   ニューメキシコ州といえば、いったい何を思い出すだろう。大人(?)のあなたは宮沢りえの『サンタフェ』をまず思い浮かべるかもしれない。ややマニアックな人なら、ロズウェエルのUFO墜落事件と結びつけるだろうか。また、原爆を生んだロスアラモス研究所がニューメキシコにあるというのも忘れてはならないだろう。しかし、ニューメキシコは歴史遺跡でも、自然の美しさでも「通の旅人」おすすめのディスティネーション。癒しを求める冬の旅ならなおさらだ。
★チリペッパーが歓迎の印
 ニューメキシコ州の州都サンタフェは、人口6万人足らずの小さな町だ。18世紀以来、時の流れが止まってしまったような、石畳とアドビ(日干し煉瓦)造りの建物。アメリカを代表する女性画家ジョージア・オキーフが深く愛した「光」が狭い路地の中にまで差し込んでくる。家々の軒先には真っ赤なチリペッパーがたくさん吊り下げられている。このとびきり辛い唐辛子は、悪霊を払い、旅人を温かく迎える用意があることを知らせる印だそうだ。
 毎年夏になると、17世紀から18世紀末まで続いたスペインの栄光の時代を懐かしむ人々や、アメリカ・インディアンの豊かな歴史や文化に魅せられた観光客が、この小さな町を埋め尽くす。しかし観光客が少なくなる秋から冬にかけてが、サンタフェが本当の素顔を見せてくれるときだ。この町では、建物や道路、さまざまな場所で、細部にこだわって観察してみるのがおすすめ。古い家の窓枠、鍵穴の形、ドアノブの回りの飾り彫刻、軒先の形、などなど…サンタフェ様式と呼ばれる、独特のデザインをあちこちで見かけることができるだろう。石畳にのこされた轍(わだち)の跡は、スペイン兵が初めて持ち込んだ馬の足音を想像させてくれる。
 粘土とワラをまぜ、天日で乾かして作るアドビ煉瓦を積み上げて作る家は、壁の厚みが50センチ以上もあり、夏は涼しく、冬はあたたか。丸みをおびた外観にも心がなごむ。特に、アメリカ・インディアンのプエブロ(集落)にある教会の美しさは、ジョージア・オキーフの絵の題材としてもしばしば取り上げられているほどだ。アルバカーキからサンタフェ、そしてタオスへ続く、17世紀以来の古い街道沿いに点在する古い教会内部の装飾は、スペインの影響とアメリカ・インディアンの伝統が溶け合った、素朴だが力強い信仰を感じさせる。
★矢追特番でおなじみのロズウェルは必見スポット?!
 1947年の7月、ニューメキシコの南東部の町、ロズウェルの郊外に空飛ぶ円盤が墜落し、その機体や乗っていた宇宙人は軍隊によって回収された…これがいわゆる「ロズウェル事件」。この事件には目撃者も多く、「宇宙人の遺体解剖に立ち会った。」と証言する人までいるほど。米国空軍はもちろん全面的にこの事件を否定。墜落したのはただの気象観測用の気球だと発表している。
 最近はネタが尽きた感じもある矢追純一氏のUFO特番だが、ロズウェル事件の真相解明はまだまだ謎がいっぱいのようだ。おかげで、ロズウェルはネバダ州のエリア51とともに、UFOに興味がある人なら、だれでも知っている「UFOのメッカ」になった。当然、ロズウェルの観光は、60年近くたった今もこの事件一本やりだ。
 町のあちこちにUFO関係のアトラクションやみやげ物屋があるが、見逃せないのはUFO博物館。ロズウェル事件の全てがわかるマニア必見の場所だ。この博物館を創設したのは、何とロズウェル事件に直接関係した人ばかり。今なら(みなさん、かなりのお年なので)直接目撃者と話しができる最後のチャンスというわけだ。サインも気軽にしてくれるし、かなり突っ込んだ質問にもにこやかに応えてもらえる。展示はいかにも素人の手作りという感じだが、それだけになおさらロズウェルの人々がこの事件を「本当のこと」と思っているのが伝わってくる。この博物館を一巡りすれば、あなたもすっかりUFO通になれるだろう。
★アナサジ族の人々はどこへ消えたのか?
 UFO以上に深い謎は、ニューメキシコのあちこちにある。その代表的なものがサンタフェから75キロほど西にある、バンデリアー国定史跡の「都市」の跡だ。
 気候が比較的穏やかで、食物にも恵まれていたこの一帯には、11世紀には「都市」と呼んでも良いような大規模な集落が形成されていた。現在のバンデリアー国定公園内には、岩に大きな穴をあけて作った住居や集会所、キバと呼ばれる宗教儀式の場などが残されている。これらの住居は岩壁の途中に作られており、外敵からの攻撃には、はしごをはずすことで防ぐことができるという優れた設計だ。
 平地の部分には、キバを中心にたくさんの部屋が円周上に並べられた「都市」まであり、ここに住んでいた人々は、洗練された政治機構を含む、高い文化を持っていたと考えられている。「都市」の周辺には灌漑設備や水を貯めておくための施設まで作られている。さらに、最近の研究では、この「都市」の構造が、そのまま太陽の動きを示すカレンダーの役割を果たしていたのではないかという説も出ている。冬至の日には日の出の太陽が都市の中心を照らし出すからだ。
 ところが、スペインの探検隊がこの地にやってきた時には、すでに「都市」の住民は消えてしまっていた。いったい、この大規模な集落を捨ててどこへ行ってしまったのだろう。アナサジと呼ばれる人々は16世紀の半ばに突然、なにもかもを捨てて移動してしまったようなのだ。現在のニューメキシコに住む、プエブロ族の人々のなかにアナサジ族の子孫がいるのではと考えられているが、移動の理由もその移転先も謎のままだ。
 もう1つ、大きな謎は、ニューメキシコのあちこちに残されている岩絵(ペトログリフ)だ。「砂漠のワニス」とよばれる黒い物質で覆われた岩を削り、様々な模様を描いたもので、動物や人間、円や渦巻きなどの抽象的なものまで種類もスタイルも多様だ。このペトログリフはアメリカ南西部からカナダでも見ることができるが、ニューメキシコのスリー・リバー歴史公園やアルバカーキの郊外にあるペトログリフ国定史跡などは、特にその数も多く、興味深い絵が多い。模様の意味はまだまだ研究が始まったばかり。しかし、まるで宇宙人やUFOでは、と思われるような不思議な模様も多く、想像力を刺激してくれる。
★一番の謎は人間の心
 ニューメキシコは、日本人にとっては辛い歴史の舞台でもある。原爆を開発した「マンハッタン・プロジェクト」は、ニューメキシコのロスアラモスの研究所を中心に進められていたからだ。最初の原爆実験もニューメキシコで行われた。アルバカーキにある空軍基地の中には、原子力博物館があり、原爆を賛美するような展示が今も一般公開されている。
 人間の心の闇こそが、ニューメキシコの一番の謎かもしれない。  (取材・文 宮田麻未/写真 神尾明朗)
注記:本紙では、カナダの先住民を現す言葉としては基本的に「ファースト・ネーション」を使っている。しかし、米国では先住民自身の組織が発行した文章の中で自らを「アメリカ・インディアン」と表現していることが多いので、今回の文章には「アメリカ・インディアン」を用いた。

Information
● ニューメキシコ州の観光に関連した情報、地図
ウェブ:www.newmexico.org
● UFO博物館(ロズウェル)のサイト
ウェブ:www.iufomrc.om
● バンデリアー国定史跡のサイト
ウェブ:www.nps.gov/band
● ペトログリフ国定史跡のサイト
ウェブ:www.nps.gov/petr
● スリー・リバー歴史公園のサイト
ウェブ:www.southernnewmexico.com