SPECIAL 2003

2003年10月 第41号 掲載


リピーターにおすすめの特選秋の旅

一枚の絵との出会いが嬉しい
ニューブランズ・ウィック


一度は泊まってみたいあこがれのアルゴンキン・ホテル

 ニュー・ブランズウィック(NB)州は、プリンス・エドワード島へ渡る橋のある所だが、日本ではめったに話題にならない。実はカナダ国内や米国でも、つい最近まで「旅のつう」の人達の間でしか、その良さを知られていなかったのだ。
 州内のほとんどを覆う深い森、あちこちの村で大切に守られている屋根付き橋、潮の干満の差が15メートルにもなる不思議な海、ひっそりとした煉瓦造りの美しい街並など、旅行好きの人が「自分だけの秘密」にしておきたい気持ちがなんとなくわかるような気がする。

 

★ダリの傑作に会いに行こう
 時には、たった一枚の絵に出会うだけでも、その旅が一生の思い出になることがあるものだ。
 NB州の州都フレデリクトンは、落ちついた雰囲気の小さな町だ。州立美術館もこの町らしい地味な建物。しかし、一歩中へ入ると正面に巨大な絵が飾られている。
 サルバドール・ダリの最高傑作の1つ「サンチャゴ・エル・グランデ」だ。十字架に掛けられたキリストが、真っ青な空に浮かぶように描かれ、透明な大聖堂は絵に壮大な奥行きがあるように見える。この絵の前に立った人の多くが、一瞬息を止めるような表情をする。この絵の迫力に強く打たれて呼吸を忘れてしまうのだろう。美術館のすみずみにまで、ダリのパワーが広がっているような気がする。
 この絵がダリのアトリエから海を渡ってフレデリクトンにたどりつくまで、いったいどんなドラマがあったのか、いろいろ想像が広がっていく。この絵を見るだけでも、NBに旅する価値は十分にある。
★笑顔が本当に美しい人々
 NBの名物を1つだけあげるなら、このおだやかな大地に暮らす人々の笑顔だろう。村の観光案内所でボランティアをするおばあさんから、学校へ向かう小学生まで、誰でもが旅人へおしみない笑顔を投げてくれる。「おはよう!」とか「今日はどこへ行くの?」とか、見知らぬ人に話しかけられるのも、ここではよくあることだ。
 村の小道を歩いていると、フランス語がときおり聞こえてくるのにも気がつくだろう。カナダの公用語は英語とフランス語の2つだが、州の公用語として両方を公式に採用しているのはNB州だけだ。ケベック州ではフランス語だけだし、他の州では英語だけ。ところがNB州では、ごく自然に両方の言葉が使われている。こんなところにも調和を愛する州民の気質が現れているのかもしれない。
 住民の気質はおっとりしていても、周囲に広がる大自然はなかなか迫力がある。例えば、州の南側に広がっているのがファンディ湾。この海は潮の干満の差が世界で一番大きいことで知られている。そのため、さまざまな不思議な現象を見ることができる。
 セント・ジョンの「リバーシング・フォール」もその1つ。潮が満ちてくると、海水が川へ向かって激しく逆流し、まるで滝のように盛り上がって押し返してくるのだ。その時に流れ込む水の上をジェットボートで爆走するスリルは他ではなかなか味わえないだろう。
 反対に、ゆったりと海の驚異を味わいたいならホープウェル・ロックに行ってみよう。引き潮の時が見上げるような岩場の下を歩けるのに、潮が満ちてくると、岩の半分以上が水没してしまう。まるで魔法のような景色の変化に驚かされるので、できれば周辺に宿泊して、潮の満干を十分に体験したい。
 また、ファンディ湾は野鳥の観察でも世界的な名所。何百羽もの薄茶色の鳥たちが、一斉に方向を変えて白い裏羽を見せると、まるで海の上にパっとレースのテーブルクロスを広げたようなる。さらに、ファンディ湾はホェール・ウォッチングの名所でもある。巨大なフィンバック鯨をはじめ、15種ほどの鯨が現れるそうだ。ピークは夏の間だが、秋にも少しはチャンスがあるようだ。
★あこがれのアルゴンキン・ホテルで
 秋を味わう
 NB州の南西端に近いセント・アンドリューは、19世紀からカナダやアメリカの「ハイソ」な人々の夏のリゾートだった。今でもそのエレガントな雰囲気は十分に残っている。夏の間、数週間単位で滞在する贅沢な避暑客が去った後の、ちょっとさみしい秋の美しさは地元の人達の秘密。ゴージャスなアルゴンキン・ホテルに連泊して、ゆったりとこの海辺の街の紅葉を楽しもう。
 この町には様々なユニークなお店が並んでいる。アンティークのショッピングだけでも一日過ぎてしまうほどだが、ガーデニングが好きな人ならキングズブレァ・ガーデンは必見。ディテールにこだわった設計の庭園は北米の専門誌でも高い評価を受けているそうだ。カラフルな秋の花が楽しみだ。
 日程に余裕があるなら、セント・アンドリューから州都を通って、アメリカとの国境線近くの2号線を北上しよう。ここはセント・ジョン川沿いに道路が走っているので、屋根付き橋の案内板を見つけたら、ぜひ寄り道してみよう。「初恋のキスは屋根付き橋で」という言葉がぴったりのロマンチックな橋ばかりだ。深い赤、ほんのりした紅、黄金のような黄色など、さまざまに色づいた紅葉に包まれた渓谷の道は、あなただけの「街道」として忘れられないものになることだろう。
★アクセスは『海』という名の列車で
 NBへの旅には、モントリオールからVIA鉄道の「オーシャン」号を利用するのがおすすめ。ケベック州内では、セントローレンス河沿いの紅葉が車窓から楽しめるし、NB州に入ったとたん、木の葉の色が微妙に変化するのも印象的。楓には30近い種類があるといわれ、NB州の楓はメープル街道とは種類が違うせいらしい。
 NB州の南端に近いモンクトンで列車を下りて海辺の旅を始めよう。レンタカーを利用するなら予約をお忘れ無く。この州内は長距離バス網も発達しているので、時間さえあればバスでの旅も可能だ。
(取材・文 宮田麻未/写真 神尾明朗)