SPECIAL 2003

2003年9月 第39号 掲載


チーズとワイン、蜂蜜のおいしい秋のグルメ旅 ケベック州の「英国」イースタン・タウンシップ

 

英国風の邸宅を改造したB&Bがたくさんある

 モントリオールから車で東へ約1時間、シャーブルックSherbrookeの町を中心に広がる一帯は「イースタン・タウンシップ」と呼ばれ、ケベック州の中でもユニークな歴史や文化をもつエリアだ。
 セント・ローレンス河沿いのいわゆる「メープル街道」やロレンシャン高原の紅葉とは、また少し色合いが違う木々が多く、新しい秋の旅のルートとして日本の旅行会社からもここ数年注目されるようになった。

 

★「ロイヤリスト」の誇りを伝える 村や町
 モントリオールやケベック・シティからイースタン・タウンシップに入ると、教会や邸宅のデザインが何となく違うのに気がつくだろう。石造りの大きな聖堂は少なくなり、すっきりと白いペンキで塗られた簡素なデザインの教会が目立つようになる。米国のバーモントやニュー・ハンプシャー州などで良く見かけるような町並みがあちこちに現れる。実は、このエリアはフランスの影響の強いケベック州のなかにあっても、古き良き時代の英国の雰囲気を最も色濃く残している場所なのだ。
 1776年、米国が英国からの独立を宣言して戦闘状態に入った時、独立派に同調するのを嫌ってカナダ(当時はもちろん英国の植民地)へ逃げこんだ人々がいる。彼らは「英国に忠誠を誓った人々」という意味で「ロイヤリスト」と呼ばれている。
 植民地政府は、このロイヤリスト達を大喜びで迎え、セント・ローレンス河の東側に大きな土地を分け与えた。これが、イースタン・タウンシップの始まりだ。さらに、1820年代や40年代にはアイルランドからの集団でこの地に移住してきた人も多く、このエリアはケベック州の中でユニークな文化的位 置を占めるようになった。
 20世紀に入ると、フランス系の人々の人口が増えて来て、英国風の暮らしぶりはだんだんケベックの文化に同化するようになった。今ではほとんどの住民はフランス語が第一言語だ。しかし、英国風の教会建築やビクトリア王朝様式のかわいらしい邸宅はたくさん残っており、ケベック風の明るい人々の表情とのコントラストがおもしろい。
★沈黙の誓いを守る  修道士の作ったチーズの味は?
 夏の短いケベック州では、ワイン用のブドウの生産に向いた土地は少ない。例外がイースタン・タウンシップだ。ダンハムDunhamの町を中心に、規模は小さいがそれぞれユニークなワインを生み出しているワイナリーが10軒以上ある。
 シャンペン風のスパークリング・ワインを自慢にしているワイナリーが多いのが特徴。ワインの香りがほのかにただようジャムや、自家製のテリーヌやパテなどを売っている所もある。これらのワイナリーを結ぶワイン・ルートも作られているので、ブドウの標識にしたがって巡ってみよう。ただし、ドライバーは試飲はしない方が無難だろう。
 ワインのおいしいところには、必ずおいしいチーズがあるはずだ。イースタン・タウンシップで一番有名なのは、オースティン村Austinの南にあるセント・ベノー修道院Saint-Benoit-du-lac Abbey 壮麗な聖堂を囲む木々の紅葉の美しさは、イースタン・タウンシップの中でも特に心に残る。
 1912年にフランスのベネディクト派の修道士達によって作られたこの修道院では、何十種類ものチーズが修道士達の手で作られている。その深い味わいはケベック州ばかりでなく、米国の人々にも有名で、地下室に設けられたチーズ売り場はいつも大盛況だ。
 しかし、ここの修道院では、できるかぎり沈黙することが修道士達の生活の基本。おしゃべりをする暇があったら、祈りと仕事をしなさい…ということらしい。活気のありすぎる(?)チーズ売り場で、少し困ったような顔で応対している修道士の表情が印象的だ。
 イースタン・タウンシップは、基本的には農村地帯なので、秋にはほんのりと赤くそまったリンゴの果 樹園、のんびりと牛たちが草を食べている牧場、ハロー

メープル街道にも負けない美しい紅葉

ウィーン用の大きなカボチャが並んでいる畑など、紅葉に彩られた様々な風景を楽しむことができる。
 農業関係のみどころでぜひ立ち寄ってみたいのはストーク村Stoke にあるハニームーン・ファームFerme Lune de Miel。蜂蜜を生み出す蜂達の神秘的な行動をやさしく解説したミニ博物館や、蜂が好む花を集めたフラワー・ガーデン、そして蜂蜜の入った様々な品を集めたショップまで揃っている。様々な味の蜂蜜はもちろん、石鹸から肌がすべすべになるというローション、かわいらしい小さなケースに入ったリップクリームまで、全てたっぷりと蜂蜜が入っている。シャンプーやリンスなどのバス・グッズは、柔らかな甘い香りで癒しの効果 が期待できそうだ。
★アパラチア山脈の秋を自転車で 走ろう
 米国からやって来る観光客に人気があるのはサイクリング。イースタン・タウンシップは、アパラチア山脈の北端に位 置しているので、どこを見回してもゆるやかな丘陵地帯になっていて、紅葉で明るいオレンジ色に染まった林を見渡すことができる。
 しかし、谷間をぬって作られているサイクリング・ルートは高低差もそれほど大きくないので、初心者でも十分にツーリングが楽しめる。反対に、かなり本格的なマウンテン・バイクのルートもある。例えばコーチクック公園 Parc de la Gorge de Coaticookの中には25キロもにわたって中、上級者向きコースが作られている。
 シャーブルックの観光案内所には、自転車をレンタルできるお店の情報やサイクリング・ルートのくわしい地図なども用意されている。ガイド付きのサイクリング・ツアーなども人気があるので、イースタン・タウンシップのサイト www.tourisme-cantons.qc.ca でチェックしよう。
 サイクリングの途中で、ぜひ立ち寄りたいのは、イースタン・タウンシップのあちこちにある屋根付き橋。いかにも村の人に大切にされてきたという感じの橋は、「初めてのキスにぴったり! 」と言われるほどロマンチック。とりわけ秋は川のせせらぎの音もやさしげで、水に映る紅葉も美しい。
 また、円形の納屋もぜひ探してみよう。特に有名なのはセント・ベノー修道院の近くのオースチン村にあるもの。「建物の角は悪魔の隠れ場所になりやすい」という言い伝えから、角の無い丸い小屋になったのだというのが一般 的な説明。しかし、この形の納屋があるのは、きまって風の強い場所。おそらくは風の抵抗を最小限にする工夫だろう。秋の収穫の頃なら、鮮やかな色に塗られたかわいい丸屋根とそれを囲む黄金色の麦畑のコントラストが目を楽しませてくれる。
★ゆっくり楽しむのが イースタン・タウンシップ流
 日本からのツアーが来るようになったといっても、まだまだこのエリアは観光客は少ない。小さな村のB&Bなどに泊まりながら、のんびりと旅をしたい人におすすめだ。
 シャーブルックなどには定期バスのアクセスもあるが、このエリアを巡るにはやはり車が必要だろう。モントリオールを起点にして、イースタン・タウンシップを巡り、ケベック・シティに抜けて、モントリオールにもどる周遊コースがベスト。もちろん、時間があるなら、米国のバーモントへ入ってニュー・イングランドを訪れるのも楽しいだろう。 (取材・文 宮田麻未/写真 神尾明朗)

イースタン・タウンシップの地図やその他の情報はwww.tourisme-cantons.qc.caで。 宿泊の相談などは無料電話1-800-355-5755でも受け付けてもらえる。