メープルロード2003
2003年5月 第22号 掲載

 西部カナダを育んだ「命の流れ』 フレーザー川

   

  バンクーバー周辺の広域地図を眺めてください。バンクーバー市をはじめ、リッチモンドやデルタ市を護るように流れる大きな川があるの

ヘルズ・ゲートのスリリングなゴンドラ

に気がつかれるでしょう。これがフレーザー川です。この川の水源はロッキー山脈にあり、そこから多くの支流に分かれながらブリティッシュ・コロンビヤ州の南部を潤して下り、最後はリッチモンド市の南端と北端に分かれて海にそそいでいます。地図を見れば、リッチモンド市全体がフレーザー川の運んで来た土砂で生まれたデルタ地帯であることもわかるでしょう。リッチモンドが驚くほど豊かな土質に恵まれているのはそのせいです。この「ご近所で出会う大自然シリーズ」の1回目でお話したバーナビー市のバーン渓谷もフレーザー川へ繋がる水系の1つ。この渓谷へは、今でも毎年フレーザー川から鮭が上って来て産卵し、また海へ戻って行くのです。
 勘違いにもほどがある!? サイモン・フレーザー氏の大冒険
 フレーザー川という名称は、毛皮の交易のルートを探していた探検家、サイモン・フレーザーの名前に由来しています。バーナビーにあるサイモン・フレーザー大学も同じです。このフレーザー氏は水路で太平洋に達するルートを探して現在のカナダ西部を巡っていました。そして1808年に、この大河に沿って海に出ることができました。しかし彼は、どうやら最後まで自分が発見したこの川を現在のコロンビア河と間違えていたようです。コロンビア河はアメリカのワシントン州とオレゴン州の州境に流れている川です。間違えるのにもほどがある、という感じですね。
 カナダ西部の開拓に重要な役割を果たしたのは、ノース・ウエスト・カンパニーとハドソン・ベイ・カンパニー(HBC)という交易会社です。高校の世界史の授業で、英国の東洋貿易で有名な「東インド会社」という名前を覚えていらっしゃると思いますが、北米西部で同じような役割を果 たしたのがこれらの会社です。この2つは後に合併し、西部カナダの開拓はHBCの思惑で進んで行ったとも言えます。バンクーバーのダウンタウンの中心に建つ堂々としたハドソン・ベイ・デパートはその子孫です。
 フレーザーの探検のスポンサーはノース・ウエスト・カンパニーでした。その後、彼の情報を元にHBCがフォート・ラングレーに砦を築いたのは1827年のことでした。フォート・ランガレーはバンクーバーから約50キロほど東のフレーザー川の岸辺にありました。現在ここには、19世紀の交易砦の様子をほぼ忠実に再現した歴史施設がありますから、ぜひ一度訪れてはいかがでしょう。砦の周辺には、バンクーバー周辺で一番歴史のある村が残っていて、アンティークやクラフトショップがたくさんあることで有名です。
フレーザー川を逆上る 小旅行は初夏にぴったり
 フレーザー川の河口から、沿岸部山岳地帯の奥深くまで、この川沿いには小旅行にぴったりのポイントがたくさんあります。車がないとアクセスが悪いのが欠点ですが、初夏の爽やかな風を楽しむドライブにはいちおしのルートです。2泊3日ぐらいのゆったりした日程を組むのがベストですが、部分に分ければ日帰りでも十分楽しめます。
 たとえば、週末の朝の散歩ならリッチモンドの南端にあるスティーブストン。フレーザー川の河口にある漁港です。カナダの日系人の歴史が始まった村ですから、私たちにとって特に興味深い史跡や博物館などもありますし、フレーザー川を逆のぼり、野性動物や野鳥などを観察するエコ・クルーズも出ています。
 雄大な川が海にとけこむ風景は見る人の心にさまざまな思いをかきたててくれます。川の流れはしばしば人生に例えられることがありますが、それが自然に感じられるからかもしれませんね。これから夏にかけては港を見渡すレストランやカフェもオープンしますから、水面 を渡る柔らかな風といっしょにブランチも楽しめます。スティーブストンへはダウンタウンから市バスでも手軽にアクセスできます。
 バンクーバー周辺でフレーザー川に出会うもう1つのポイントはニューウェストミンスター。ここへはダウンタウンからスカイトレインで25分ほどです。駅から数分歩けば川沿いの遊歩道に出ます。新鮮な野菜や手作りの品を並べたマーケットから、隠れたグルメ・レストランまで週末の気分転換にも楽しい所です。
 車で出掛けられるなら、まずフレーザー・バレーを目指しましょう。川の南側はトランス・カナダ・ハイウェイの1号線、北側は7号線が通 っています。1号線を通ると、アボッツフォードからチリワックまで、フレーザー川が運んで来た豊かな土壌を生かした農村地帯が広がっています。今年はもう遅くなってしまいましたが、カラフルなチューリップなど花の栽培でも有名です。チリワックの東でミンター・ガーデンの広大な庭園を見学してから川の北岸に移り、ハリソン湖のほとりの温泉で1泊がおすすめです。  
フレーザー川のワイルドな表情に出会う
 チリワックを過ぎると、目の前に雄大な山脈が広がります。ロッキー山脈にも負けない美しい峰々の沿岸部山岳地帯です。おだやかで豊かなイメージのフレーザー川も、沿岸部山岳地帯に入るとその「正体」を現します。力強く、厳しい大自然の表情です。
 川はホープから方向を急に変えて北上します。ホープの周辺の森林は、かつて『ランボー』の映画のロケにも使われたほどの「大自然」。フレーザー川岸の道路も切り立った岩の間を縫うようにウネウネと続いていきます。ドライブはスピードをひかえめにするのがおすすめです。この周辺には、ゴールドラッシュの時の歴史遺跡なども点在しています。
 フレーザー川の膨大なパワーを一番ハッキリ見ることができるのが、ヘルズ・ゲートです。「地獄の門」と呼ばれるのに相応しい濁流の真上をゴンドラで渡るスリリングなアトラクションが人気です。ここは、川幅が急に狭くなっているので、両岸の岩に水が激しいいきおいでぶつかり、川の流れは渦を巻いてゴウゴウと音をたてています。川上にダムができたので、フレーザー川の水量 はかつてに比べてかなり減っているはずなのに、今でも十分迫力いっぱいなのですから、開拓者や毛皮商人たちが、どれほどここを恐れたかが想像できます。VIA鉄道やロッキーマウンテニア号に乗ると、このすぐ川岸を列車が通 って行きます。その時、「大陸横断鉄道を建設した時の最難所の1つだった。」と必ずアナウスがあるのも当然と言えるでしょう。
 激しい水の流れがあれば、そこにはウォーター・スポーツの可能性が広がります。フレーザー川もラフティングの名所です。「ホワイトウォーター・ラフティング」と形容詞が付くのは、川の流れは激しく波立ち、川面 が白く見えるほどだという意味。ラフティングも中級以上レベルの本格的なものです。バンクーバーのダウンタウンにある観光局の案内所には、フレーザー川周辺のラフティングの業者のパンフレットがたくさん置かれていますから、自分の経験レベルに合わせてエリアを選ぶのがおすすめです。業者によっては、ダウンタウンから送迎サービス(有料)をしているものもあります。数時間のコースから数泊するツアーまで様々な種類がありますが、早めに予約しておくことがポイントです。  
自然との共生の楽しさを 味わう
 フレーザー川は交通や運送のルートとしてカナダ西部の歴史に大切な役割を果して来ました。この川無しには毛皮の交易も難しかったでしょうし、カナダ西部の開拓も急速には進まなかったでしょう。今でも、ブリティッシュ・コロンビア州の主要産業である木材の運搬には、この川が大きな役割を果 しています。また、バンクーバー周辺に住む私たちが、都市生活の便利さを享受しながら、地元でとれた新鮮な魚や野菜を楽しめるのも、この川のおかげです。フレーザー川の様々な表情に出会いながら旅をしてみると、水を大切にしようという気持ちが自然に湧いてくるような気がします。  (取材・文 宮田麻未 写真 神尾明朗)