ある日、神様は赤い粘土で「世界で一番美しい場所」を造り、ゆらゆらと揺れる波の上にそっと置きました。それが現在のプリンス・エドワード島(PEI)だそうです。ネイティブ・インディアンのミックマック族の伝説です。ここで生まれ育ったルーシ・M・モンゴメリーも島の美しい風景を『赤毛のアン』の主人公、アン・シャーリーに繰り返して語らせています。 何度訪れても新しい発見のあるこの島へ、今年は少し早めにでかけてみませんか?
PEIは海水浴のメッカ?!
日本からの観光客にとっては、PEIと言えば『赤毛のアン』に直結しています。ところが、カナダやアメリカの東部の人々にとっては、PEIは「アンの世界」というばかりではなく、海水浴のメッカなのです。アメリカのメイン州やニュー・ハンプシャー州は海に面
してはいますが、海流の関係で海水の温度が低く、海水浴には向いていません。その点、PEIはセント・ローレンス湾の温かな潮流が柔らかな砂浜に打ち寄せて来ますから、海辺の避暑地としては理想的というわけです。特にグリーン・ゲイブルズ・ハウスのあるキャベンディッシュ村の海岸は実は海水浴のメッカなのです。
ところが、日本人観光客の多くにとってキャベンディッシュは『赤毛のアン』に描かれたアボンリー村の舞台。アンの愛した静かな村がそのまま残されていることを期待しているはすです。真夏になると、この「アボンリー村への旅人」と「キャベンディッシュ海岸の海水浴客」が小さな村でまじりあってしまうことになります。確かに「緑の切妻のある屋敷」は残されていますし、「恋人達の小径」や「おばけの森」を散策することもできます。しかし、一歩村の道を歩き始めると、毒々しい看板の蝋人形館や、小さな子供向けの遊園地、はりぼてのスペースシャトルまであるのです。すっかり「アンの世界」にひたってしまって周囲の海水浴客など目に入らないという人ならともかく、これではせっかくのPEIの旅がだいなしです。
観光シーズンが始まる最初の 1週間がベスト
PEIの観光シーズンは6月から始まります。島の中のほとんどの観光施設は6月から10月初旬までの営業で、秋から春にかけては閉鎖されてしまいます。グリーン・ゲイブルズ・ハウスなど、5月中旬からオープンする所も少数あります。海水浴客は7月になるまでやって来ませんから、静かに「アンの世界」を訪れるなら、観光シーズンが始まってすぐ、5月末から6月初旬にかけてがおすすめです。それぞれの施設がいつからオープンするかは年によって変動がありますから、PEIの観光局のサイトwww.peiplay.com
や電話902-368-4444( 北米内は無料電話888-734-7529) で確認して下さい。
初夏の旅の良い点はたくさんありますが、花もその一つ。リンゴやルピナスなど、アンが目を輝かせて語った愛らしい花が島中を彩
ります。キャベンディッシュにある「モンゴメリーのキャベンディッシュ・ホーム跡」は、モンゴメリーが1876年から1911年まで住んでいた家の跡です。建物はすでにありませんが、彼女が「雪の女王」と呼んだ大きなリンゴの木が残っています。花の季節にはうっすらとピンクがかった白い花がいっぱいに咲き誇ります。リンゴの花の甘い香りも思い出に深く残ることでしょう。花の季節に間に合わなくても、リンゴの若葉やほんの小さな実に出会えるのもうれしいことです。
この「キャベンディッシュ・ホーム跡」は、文字通り家があった跡だけなのですが、かえって想像力を刺激されます。モンゴメリーが仕事場の郵便局や教会へ行くときに通
った小道なども残っていて、彼女の日常の楽しみや執筆の苦労などを想像しながら歩いてみたいものです。もし、モンゴメリーの人柄に興味があるなら、キャベンディッシュから西に約20キロの所にあるパーク・コーナー村のモンゴメリー記念館Lusy
Maud Montgomery Heritage Museum(tel902-886-2807) を訪れてみると良いでしょう。ここはモンゴメリーの父方の祖父の家で、彼女の素顔に触れるような資料がたくさん残されています。有名なマゴグの犬の人形もここにあります。
観光名所とは別の 「アンの世界」を探そう
モンゴメリーはキャベンディッシュでの経験だけで「アンの世界」を作ったわけではありません。キャベンディッシュ周辺のいわゆる「アンの名所」だけを訪れるのも悪くはありませんが、できれば日程にたっぷり余裕をもたせて、PEIのあちこちを巡ってみてはいかがでしょう。「アッ、ここが輝く湖だわ!」と、自分が想像していたのにぴったりの小さな湖に出会えるかもしれません。
PEIは世界で一番おいしい(と島民は自慢します)ポテトの産地。ポテトの白い花も可憐です。赤土の道とポテトの緑の葉のコントラストの美しさは、観光バスで通
り過ぎてしまってはなかなか気がつかないものです。また、島のあちこちの岬には灯台がたくさんあります。これも自分のイメージにぴったりの灯台を探してみてはいかがでしょう。
自分だけの「アンの物語」を作るなら、自転車で島の中を走ってみるのが一番です。ただし、これは体力に自信があり、サイクリングに慣れた人でないと、おすすめできませんが・・・PEIには、かつては鉄道がありました。アンが心細い思いで乗った列車です。
その鉄道は今は廃止されてしまいましたが、廃線跡を整備してハイキングやサイクリングのコースとして生まれかわりつつあります。完成すれば350キロもの長さになるはずです。島の東側のキング郡と西側のプリンス郡はすでに整備が終わっています。シャーロットタウンには貸し自転車の業者や自転車ツアーの会社もあります。もし、廃線跡をたどるなら、やや道がデコボコした部分もあるのでマウンテンバイクを借りると良いでしょう。
シャーロットタウンからキャベンディッシュへ自転車で行くことももちろん可能です。
これはサイクリングの上級者でなくても大丈夫。ただし、PEIはゆるやかなカーブをえがく丘陵地帯が続いていますから、日帰りは無理でしょう。キャベンディッシュで1泊がおすすめです。自転車でアンやモンゴメリーにゆかりの地を巡るなら最低2泊3日は必要です。夏のシーズン中(7、8月)なら、シャーロットタウンからキャベンディッシュまでシャトルバス(運行期間については電話902-566-3243で要確認)
で行き、現地で自転車を借りることも可能です。
ダルベイ・バイ・ザ・シーに 泊まりたい
初夏の旅のもう一つの魅力は、宿泊の予約がとりやすいこと。例えば、ホワイト・サンド・ホテルのモデルで、テレビ映画『アボンリーへの道』のロケにも使われたダルベイ・バイ・ザ・シー(電話902-672-2048)
は夏の予約は一年前から満室。しかし、6 月初旬なら今年でもまだチャンスがあるかもしれません。サイトwww.dalvaybythesea.comでチェックしてみましょう。クラシカルなチューダー朝様式のこのホテルはPEI国立公園の海辺に建っていて、ロマンチックな雰囲気では島内随一。ただし、車での旅でないとアクセスはむずかしいのが難点です。
シャーロットタウンでの宿泊なら、「ぶなの木屋敷」のイメージにぴったりなエルムウッド・イン(
電話902-368-3310) をおすすめします。ここは、アンティークの家具でいっぱいのしっとりした雰囲気のB&B。この他、宿泊の情報もPEIの観光局のサイト(www.peiplay.com)で入手できます。
( 取材:宮田麻未 写真:神尾明朗)