エドモンズ駅を降りると、すぐに深い森が始まる |
グレーター・バンクーバーに住む楽しみの一つは、ほんの少し注意して歩くだけで様々の自然の美しさや驚きに出会えることです。角を曲がるだけで、心がドキドキしてくるような「探検」もできます。ご近所でできる大自然との出会いを紹介します。
ご近所探検のキーワードは「RAVINE」
ご近所探検に必要なのは見やすい地図、歩きやすい靴の2つだけ。今の時期なら、急な雨に備えてレインコート(
フードの付いた軽いものがおすすめ。ダラー・ショップなどで売っている安物がかえって便利)、小型のカメラ、双眼鏡なども持っていけばなお良いでしょう。水やスナックなども入れて、小型のバックパックがあれば完璧です。
この「探検」の第一のコツはゆっくり歩くこと。仏教のメディテーションのテクニックの一つに、「自分が歩いた足跡の一つ一つから蓮の花が咲くのをイメージする」というのがあります。本当は固いつぼみから、花がゆっくりと開くまでを想像するのでしょうが、そこまで時間をかけなくても自分の足跡を多少意識して歩けば、自然に歩調もゆったりしてくるし、呼吸もととのって周辺の風景のディテールにも目がいくことになるでしょう。
探検の行き先はどこでもかまいません。例えば、自分の家を出て最初の角をいつもの出勤ルートと違う方向に曲がるだけでも、十分新しい体験ができます。今回はグレーター・バンクーバーのあちこちにひそむ不思議な渓谷を探しに行きましょう。キーワードは「RAVINE」です。「ラビーン」とは狭く切り立った小さな渓谷のことをいいます。バンクーバーの南東部やバーナビーの南側の地図をみると、あちこちにラビーンがあることがわかります。そしてその多くが公園になっています。公園といっても十分に整備されている所は少なく、たいていはうっそうとした森のように見えるが、よく奥をのぞくと傾斜の急な崖になっていて、谷底には小川が流れているという感じです。ラビーンの周辺は普通
の住宅地ですから、なんだか突然現実と魔法の森が交差するような不思議な空間に思えます。地図を見て、ご近所にラビーンがあったら、ぜひ探検してみてください。ただし、夕方や早朝の女性の一人歩きは要注意です。
私のお気に入りは「バーン・クリーク」
エドモンズ駅(Edmonds Station) のすぐ裏(南東) に広がっているバーン・クリーク(Byrne
Creek Ravine Park) です。バーナビー市の南斜面には、フレーザー川に流れ込む小さな川がいくつもあります。このバーン・クリークもパワーハウス・クリークなどと合流して、やがてフレーザー川に流れ込んで行くのです。
ここは1969年から公園に指定され、渓谷の北西側の崖には遊歩道が作られていて、川岸まで降りて行くこともできます。ラビーンとしては比較的大きなものなので、森林浴気分も十分に味わえます。この渓谷の一番の魅力は、実際に鮭が産卵にやってくる「生きた川」だということです。夏の終わりになれば、カットスロート・トラウトや、コーホー、チャム・サーモンなどがのぼってきます。そのため、この川を自然を汚染から守ろうとたくさんのボランティアが努力を続けています。
崖の上には「塵を捨てないで」という手作りのサインがいくつも立てられていますし、川岸には「犬の糞は鮭にとっては大迷惑」というユーモラスな張り紙が所々の木に貼られています。やがて鮭の命のルートになるのだと思うと、川の流れの美しさがひとしお心に残るものです。犬を連れてここを散歩している人の多くは、ちゃんと糞の始末をする用意をしているのもそのせいかもしれません。
バーン・クリークの入口は、まず駅の南側に出て、そのままバンクーバー方向に戻ります。駅の横を通
っている歩道の一番奥まで行くとラビーンが見えてきます。南東側にも遊歩道がありますが、北西側の崖に沿って歩き始めるのがおすすめです。最初はテニスコートなどのある広場に出てしまうので、谷間を見失いがちですが、ともかく木立を目印に崖に沿った道を探しましょう。遊歩道に出るとすぐに川岸へ降りる階段があります。そこから川岸に降りてみるのも良いのですが、残念ながら雨の多い時期は川岸を伝って進んでいくことができません。崖の上にもどって、整備された遊歩道を進んで行きましょう。遊歩道は公園の南端で川岸に降りるようになっています。川岸に降りる階段のところでは、崖の様子を見てください。川の流れに何度も転がされて、すっかり丸くなった小石と粘土状の土が見えるでしょう。この崖(
というよりバーナビー市南部全体が) フレーザー川が運んできた土砂でできているのだということが良くわかります。
川岸に出ると、ふかふかと柔らかそうな苔に覆われた岩や、天に向かって力強く伸びている木々、夏には赤や藍色の実のなる灌木(今年はもう若芽が出ています)
、何種類ものきのこなど、あちこちにおもしろそうなものがいっぱいです。可憐な鳥の声も、渓谷にこだましていますし、川のせせらぎの音も楽しげです。こんなところを歩いていると、本当に足跡から花が咲いてくるような気がします。
遊歩道はマリーン・ドライブの道路に出た所で終わりですが、すぐ渓谷の反対側の崖に登りましょう。こちら側は整備された道ではありませんが、たくさんの人が歩いた小道ができています。この道をたどっていけば、やがて駅へ戻ることができます。ゆっくりあるいて一周1時間もかかりません。この渓谷にはコヨーテも住んでいますが、人間をおそう危険はほとんどありませんからご心配なく。ただし、コヨーテに餌をやろうなどとは絶対に考えないでくださいね。今度の週末は「マイ渓谷」を探しに出掛けませんか?
( 文 宮田麻未 写真 神尾明朗)