メープルロード2003
2003年1月 第4号 掲載

イーグル・ウォッチングは今がピークだ!

   

1キロさきの獲物も見逃さない素晴らしい感覚をそなえている白頭ワシ

 アメリカ合衆国を象徴する「合衆国大紋章」には、足を踏ん張り、翼を威嚇するように広げた白頭ワシが刻まれている。米国が様々な目的でその力を世界に誇示したいとき、このパワフルな鳥のイメージが使われることが多い。しかし、白頭ワシはそんな人間の思惑に関係なく、傲慢に思えるほど美しい姿で空中を飛んでいく。スコーミッシュ渓谷には、毎年11月から3月頃まで、この力強く優美な鳥ががたくさん集まってくる。
鮭の産卵をめがけて集まる白頭ワシ
 スコーミッシュ渓谷は、バンクーバーから北へ約60キロ。ウィスラーのスキー場へ向かうハイウエイのちょうど中間点あたりに位 置している。この渓谷を取り囲む山々のいただきには氷河が冠のように蒼く輝いており、谷底にはスコーミッシュとチーカムスという冷たく澄んだ水の川が流れている。これらの川には毎年秋になると産卵のために鮭がのぼってくる。この鮭をめがけて白頭ワシが集まってくるのだ。
 米国のシンボルとして白頭ワシが選ばれたのは、米国独特の猛禽類で「米国産」を強調するためだったらしい。確かにこの鳥はアラスカからフロリダまで広く分布しているが、一カ所で一番たくさんの白頭ワシを見ることができるのは、実はこのスコーミッシュ渓谷なのだ。白頭ワシは普段はウサギや水鳥などを餌にしており、いつも水辺にいるというわけではない。しかも、通 常は大きな群れを成して生活しているわけではないので、白頭ワシを見かけるチャンスがあったとしても、せいぜい数羽程度だ。スコーミッシュ渓谷に集中するのは、川をのぼってくる鮭の数がきわめて多いから。この豊かな餌を求め、あちこちから白頭ワシが集まってくるというわけだ。
 さっきから水面をじっと鋭い目つきで見つめていた白頭ワシが、ふわっと枝から足を放したと思ったとたん大きく翼を広げて飛翔し、方向を変えると水面 に急降下していった。白頭ワシが翼を広げると2mから2m半にもなる大きさ。水面 下にいる魚を1キロも先から見ることができるという。餌に向かって急降下する時のスピードは時速160kmにも及ぶという。
イーグル・カウンティング世界記録はここで達成!
   スコーミッシュ渓谷の南端にある町スコーミッシュは製紙工場などを始めとする森林産業の盛んな所だ。この町の入口には、巨大な一枚岩の崖があり、ここは北米でも屈指のロッククライミングの名所。スコーミッシュはハウ・サウンドと呼ばれる深い入江の一番奥にあり、海からの風は町を囲む岩山にぶつかり複雑な流れ方をする。特に夏になると、岩が太陽で熱せられ、その保温効果 が夕方になって風に影響を及ぼす。ウィンドサーファー達にとっては、風向きが短時間のうちに劇的に変化するスリリングな場所ということになる。当然、スコーミッシュはウィンドサーファーのあこがれの地だ。
 一方、鮭と白頭ワシがやって来る晩秋になると、ここには北米ばかりでなく、ヨーロッパからもバードウォッチャー達が集まってる。シーズンは、鮭が川を昇ってくる11月頃から翌年の3月ぐらいまで。1月から2月の中旬がピークだ。毎年1月初旬には、北米各地のイーグル・ウォッチャーが集まり、白頭ワシを公式にカウンティングする「イーグル・カウント」の日が設けられている。このカウントは毎年行われ、一時は「絶滅の危機に瀕した野性動物」に指定されていた白頭ワシの生態研究に重要な役割を果 している。
 この「イーグル・カウント」は北米の各地で行われているが、実は世界記録はスコーミッシュ渓谷で1994年に作られている。その時は、164人のイーグル・ウォッチャーが参加し、3769頭カウントしたと記録されている。それ以前の記録は、1980年代にアラスカのチルカ川沿いでカウントされた3495頭だったから、それを遥かに越える大記録だったというわけだ。その後、この記録は更新されてはいないが、スコーミッシュ渓谷に集まる白頭ワシの数はだいたい2000頭程度で毎年安定している。今年もすでにカウントは終わっているが、残念ながら記録を更新することはできなかったようだ。
暖かな日が多い今年は白頭ワシ・ウォッチングが楽しみ。
 ブリティッシュ・コロンビア州は一年を通して様々なワイルドライフ・ウォッチングを楽しめる場所だ。バンクーバーの周辺でも鯨やアシカのウォッチングが気軽にできる。もし、バード・ウォッチングの楽しさを知れば、ウエストエンドやスタンレー公園を散策するだけでも、豊かなウォッチング体験が楽しめるだろう。イーグル・ウォッチングはバード・ウォッチングの面 白さを知るには最も良いチャンスの一つといえる。白頭ワシは体が大きいので、ビギナーでも見つけやすいのが一番のポイントだ。
 スコーミッシュの町の北端にあるブラッケンデール村がイーグル・ウォッチングの中心地。ここでは毎年1月始めから月末まで「イーグル・フェスティバル」を行い、様々なイベントが企画されている。ブラッケンデールの村についたら、まずガバメント・ロードにあるBrakendale Art Garrery( 電話604-898-3333) に寄ってみよう。イーグル・ウォッチングに関する情報や周辺地図なども入手できる他、1 月中はここからガイド付の散策ツアーも毎日出発する。 ブラッケンデール村周辺では、スコーミッシュ川に沿って、展望エリアや白頭ワシに関する様々な解説が書かれた掲示板なども用意されている。この展望エリアは川の東側の土手に作られており、ここまでは車や徒歩でも自由に入れる。しかし、対岸の西側エリアは白頭ワシ保護区になっており、人間が入れないようになっているのだ。
 目つきが鋭く、首を高く挙げた姿を見ると、すいぶん傲慢で落ちついているように見える白頭ワシだが、実は人間が150m以内に近づくと餌を食べなくなり、全面 警戒の態勢に入ってしまうのだという。川をバリアにして人間を「隔離」しているので、ワシの方は安心して餌を狙えるというわけだ。もちろん、空を飛べるワシの側には水のバリアは関係ないので、ワシが人間のいる側の木に止まっているということも多い。
  今年は例年になく天気の良い日が多いので、うっすらと雪が積もった川岸の白さと水の清らかさ、渓谷を囲む深い森と美しい山々、そしてトルコ石色の空に向かって大きく翼を広げながら飛び交うワシを眺めることができる。気温も今のところ例年より暖かだが、スコーミッシュ渓谷はバンクーバーより気温も低いし、川風に吹かれて長時間外にいることになるので、しっかりした防寒具を用意すること。
アクセス 
バンクーバーからブラッケンデールへは、1 号線経由で99号線を北上して車で約1 時間20分。グレイハウンドのウィスラー行きバスがブラッケンデールにも停車する。ただし、時間によっては停車しない急行便があるので、乗車時に確認のこと。 (文 宮田麻未 写真 保志俊平&神尾明朗)